コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

サイゼリヤはなぜ安い?6年据え置いた価格を支える製造業の仕組み

サイゼリヤはなぜ安い?6年据え置いた価格を支える製造業の仕組み

物価高のニュースが続くなかで、サイゼリヤの価格だけはほとんど変わらない。なぜそれで利益が出るのか、不思議に感じた経営者の方も多いのではないでしょうか。

サイゼリヤが安い理由は、値引きではなく工程の設計にあります。種や苗から工場、店での作業までを自社でつなぎ、ムダを工程ごと減らしてきました。店の作業は秒単位で測り、客単価の上昇を小さく抑えたまま、客数で固定費を薄めています。2025年8月期の売上高は2,567億円、営業利益は155億円です(同社決算説明資料)。

本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートを土台に、数字をサイゼリヤの決算説明資料と月次報告で確かめ直しました。製造直販の仕組み、店の作業の科学、値上げせずに原価高を吸収してきた数字を順に見ていきます。2026年に見えてきた限界にも触れ、最後に中小企業が考えたい4つの問いにまとめました。自社の価格と工程を見直す材料としてお使いください。

サイゼリヤはなぜ安い?答えは値引きではなく「工程」にある

サイゼリヤの安さは、値引きや我慢から生まれたものではありません。種や苗から店の作業までを自社で設計し、手間を工程から減らしていることが土台です。

2025年8月期の連結売上高は2,567億円(前期比14.3%増)でした。営業利益は155億円(同4.3%増)です(同社決算説明資料、2025年10月)。2026年8月期も、第3四半期までの累計で増収増益です。安いのに利益が伸びている理由を、まず全体像から確認します。

既存店とは、開業から一定期間たった店のことです。サイゼリヤの月次報告では、13カ月以上続けて営業している店を指します。新しい店の分を除くことで、同じ店に来るお客様が増えたかどうかが分かります。

数字で見るサイゼリヤ
連結売上高(2025年8月期)2,567億円前期比 +14.3%
営業利益(2025年8月期)155億円前期比 +4.3%
店舗数(2026年5月末)1,738店国内1,063店・海外675店
国内既存店の客数前期比113.4%客単価は102.1%(2025年9月〜2026年8月)

出典:株式会社サイゼリヤ 2025年8月期決算説明資料(2025年10月)、2026年8月期第3四半期決算説明資料(2026年7月15日)、月次報告(2026年8月期)

1967年、36席の洋食店から出発|いまは1,738店

サイゼリヤは1967年7月、創業者の正垣泰彦氏が個人店として始めたレストランが出発点です(同社沿革)。採用サイトでは、歩みの始まりを「36席の小さな洋食屋」と紹介しています。1973年5月に法人化し、本社は現在、埼玉県吉川市にあります。

2026年5月末の店舗数は1,738店です。国内が1,063店、海外が675店で、海外の比率は38.8%に達しました(同社決算説明資料、2026年7月)。海外は上海・広州・北京・香港・台湾・シンガポールが中心です。2026年8月期には、ベトナムと中国・武漢にも新たに出店しました。

いまは代表取締役会長の正垣泰彦氏と、代表取締役社長の松谷秀治氏が経営を担っています(同社会社概要)。小さな洋食店から始まった会社が、イタリア料理のチェーンとして国内外に広がった形です。その成長の背景にあるのが、価格を守り続ける仕組みです。

2025年8月期は売上高2,567億円・営業利益155億円

2025年8月期の決算説明資料によると、連結売上高は2,567億1,400万円、営業利益は154億9,900万円でした。当期純利益は111億6,400万円で、前期から37.0%増えています。売上高に占める営業利益の割合は6.0%です。

2026年8月期第3四半期の決算説明資料では、9カ月累計(2025年9〜5月)の売上高は2,213億円でした。前年同期より17.5%の増加です。営業利益は133億円(同25.6%増)、純利益は87億円(同11.8%増)です。この9カ月の来店客数は連結で2億5,183万人、客単価は879円でした。

通期の会社予想は、売上高2,970億円、営業利益182億円、純利益118億円です(2026年4月8日修正)。通期の実績は、2026年10月2日時点でまだ発表されていません。本記事では、通期の数字はあくまで会社予想として扱います。

安さを生む3つの仕組み|製造直販・作業の科学・客数で固定費を薄める

決算資料と公式サイトを並べると、サイゼリヤの安さは3つの仕組みの組み合わせで説明できます。どれか1つではなく、3つが同時に回っていることが大切な点です。

サイゼリヤの安さを支える3つの仕組み
1製造直販業農場・国内5工場・オーストラリア工場・開発輸入まで自社でつなぎ、中間コストと店の手間を減らす
2作業の科学店の作業を撮影・分解し、秒単位で標準化する。評価の物差しは人時生産性
3客数で固定費を薄める客単価の上昇を小さく抑え、来店客数の増加で家賃や人件費の比率を下げる
値引きではなく、工程で価格をつくる

出典:株式会社サイゼリヤ 公式サイト・採用サイト・決算説明資料(2025年10月・2026年7月)をもとにコントリ編集部作成

1つめは、食材の生産から店での提供までを自社で手がける「製造直販業」です。2つめは、店の作業を製造業の手法で測り、減らしていく「作業の科学」です。3つめは、客単価の上昇を小さく抑え、来店客数を増やして固定費の比率を下げる稼ぎ方です。

固定費とは、売上の増減にかかわらず毎月かかる費用のことです。例えば、店の家賃や社員の給与、工場の設備の減価償却費が当てはまります。客数が増えれば、同じ家賃を多くのお客様で分け合うことになり、1食あたりの負担が軽くなります。

種から皿までを自社でつなぐ「製造直販業」

サイゼリヤは自社を、フードサービス業における「製造直販業」と位置づけています。食材の生産、調達、加工、物流、店舗での提供までを、自ら手がける仕組みです(同社採用サイト)。

採用サイトが挙げる理由は2つです。中間に人が入るほど「おいしさの基準」が伝わりにくくなること、そして中間コストがかかり、価格を抑えにくくなることです。この一貫体制を、同社はバーティカルマーチャンダイジングと呼びます。ワインやパスタ、オリーブオイル、チーズは、イタリアから開発輸入しています。開発輸入とは、現地のメーカーと組んで自社向けの商品を作り、直接輸入することです。

種から皿まで サイゼリヤの製造直販の流れ
開発輸入:ワイン・パスタ・オリーブオイル・チーズなどをイタリアから直接輸入し、工場・店舗へ
農場・契約農家白河高原農場で苗を育成。大玉レタスや米の品種を選び、計画生産と全量買い取り
→
工場国内5工場でカット・ソース・炊飯。オーストラリア工場でハンバーグ・ホワイトソース。広州工場
→
物流工場から店舗へ配送
→
店舗店の作業は最小限に。残った作業はIEで標準化

出典:株式会社サイゼリヤ 採用サイト、自社工場の取り組み(公式サイト)、マイナビ農業(2023年7月)

白河高原農場と契約農家|決めた量を全量買い取る「計画生産」

製造直販の出発点は畑です。サイゼリヤはまだ19店舗だった頃に、総面積280haの高原を丸ごと購入しました(同社採用サイト)。福島県西郷村にある白河高原農場です。周囲からは無謀だという声もあったと、採用サイトは振り返っています。

この実験農場から生まれたのが、サラダを効率よく作れる大玉レタスです。農場では苗を育て、契約農家に無償で渡して栽培してもらっています。2023年7月時点で、レタスの契約農家は約50軒でした(マイナビ農業の取材記事)。ドリアに使う米も、収量の多い品種「天のつぶ」で、約280軒の契約農家が育てる体制です(同記事、2023年7月時点)。

農家との取引の柱は「計画生産」です。サイゼリヤが決めた量を計画どおりに作ってもらい、収穫した全量を買い上げます。生産者は安定した収入を見込め、サイゼリヤは品質のそろった野菜を安定して調達できます(同社採用サイト)。

背景には、店舗の販売データがあります。いつ、どれだけ売れるかを管理しているため、数カ月から数年先の必要量まで予測できるといいます。需要の予測が、畑の計画にまでつながっている点が、一般的な仕入れとの大きな違いです。

国内5工場|店の作業を工場へ移すために生まれた

国内の工場は5つです。吉川(1997年)、神奈川・福島(2001年)、兵庫(2003年)、千葉(2013年)と続きます(同社公式サイト)。最初の吉川工場は、公式サイトで「店舗作業の負担軽減を目的に設立された最初の工場」と説明されています。工場の役割は、店で行っていた作業を引き取ることにあります。

象徴的なのが、ミラノ風ドリアのライスです。ドリアは全店で1日約7万食売れる商品です(同社採用サイト)。各店で米を炊くと品質がばらつき、量が多いぶん作業も大変になります。そこで最適な米と炊飯条件を選び、工場でまとめて炊く方式に切り替えました。

いまは福島工場が、ドリア用のターメリックライスと精米・炊飯を担っています。千葉工場はトマトソース、兵庫工場は西日本向けの幅広い商品の担当です。工場ごとの役割を並べると、次のとおりです。

サイゼリヤの工場と役割
工場設立・稼働主な役割
吉川工場1997年店舗作業の負担軽減を目的とした最初の工場。コーンスープ・サラダの製造と配送の仕分け、テストキッチン併設
神奈川工場2001年東日本向けの生鮮品の一次加工
福島工場2001年ドリア用ターメリックライスと精米・炊飯、レタスの育苗
兵庫工場2003年九州から愛知までの西日本向けに幅広い商品を供給
千葉工場2013年トマトソースの製造。自動倉庫で効率化
オーストラリア工場2003年稼働ハンバーグ・ホワイトソース・ミートソース
広州工場2013年稼働中国の店舗向けのピザ・ソース

出典:株式会社サイゼリヤ 自社工場の取り組み(公式サイト)

オーストラリア工場|売上のほぼ全額がグループ内向け

海外にも自社工場があります。2000年7月にオーストラリアで製造子会社を設立し、工場は2003年に稼働しました(同社沿革・公式サイト)。主力のハンバーグと、ミラノ風ドリアのホワイトソース、ミートソースを作っています。

オーストラリアを選んだ理由は、牛肉と牛乳です。採用サイトによれば、牛肉100%の良質な肉を厳選でき、乳製品も豊富に使えます。ドリアのホワイトソースには、1食分でおよそ500mlもの牛乳を使うそうです。

私たちコントリ編集部が決算説明資料を読み直して注目したのは、この子会社の売上の行き先でした。2026年8月期第3四半期累計の売上高は97億9,300万円で、営業利益は4億5,700万円です。そして連結決算で消去される金額も、ちょうど97億9,300万円でした(同社決算説明資料、2026年7月)。

連結消去とは、グループ会社どうしの取引を、連結決算で差し引く処理のことです。売上と同じ額が消えるということは、外部への販売はほぼゼロと考えられます。つまりこの工場は、外に売る事業ではなく、自社の店のための調達部門として動いています。

シャトレーゼ・ニトリ・業務スーパーとの違い

自社で作って売る仕組みは、サイゼリヤだけのものではありません。違いは、どこまでを自社で持ち、どこで価格を支えているかにあります。comtri.jpで取り上げてきた3社と並べると、次のとおりです。

会社売る場所自社で持つ主な工程価格を支える中心出典
サイゼリヤ自社の店で調理して提供農場・契約栽培、国内5工場と海外工場、開発輸入、店舗運営店の作業を工場へ移し、残った作業を秒単位で標準化同社採用サイト・決算説明資料(2026年7月)
シャトレーゼ直営店・加盟店で菓子を販売契約農家からの素材調達、自社工場、店舗への配送中間流通の費用を抑える製造直販comtri.jp シャトレーゼ記事(公式会社概要に基づく)
ニトリ自社の店とネットで家具を販売企画・製造・物流・IT・販売外に払っていたマージンを社内に取り込むcomtri.jp ニトリ記事(同社決算短信、2026年5月)
業務スーパー(神戸物産)加盟店へ卸し、加盟店が販売グループ工場での製造と卸売自社製品の卸売で本部の売上を立てるcomtri.jp 業務スーパー記事(同社決算説明資料)

4社に共通するのは、中間の業者に払っていたお金を自社に取り込み、価格に回している点です。一方でサイゼリヤだけは、作ったものを店で調理し、接客まで自社で行います。だからこそ、工場だけでなく店の作業の設計が、競争力のもう半分を担っています。

店の作業を秒で測る|製造業のIEを外食に持ち込む

サイゼリヤは、店の作業を製造業のIEの考え方で数値化しています(同社採用サイト)。テーブル拭きは布巾4往復・約3秒という標準まで決まっています。

IEとは、インダストリアル・エンジニアリングの略です。作業を細かく分解して時間を測り、ムダを取り除いていく、工場で生まれた改善の手法を指します。サイゼリヤはこれを接客や調理に当てはめ、誰がやっても同じ品質と速さになる状態を目指してきました。

店の作業を秒で測る改善サイクル
STEP1撮る接客や調理の作業を撮影する
STEP2分解する動作を細かく分ける
STEP3測る秒単位で時間を測る
STEP4標準にする例:テーブル拭きは布巾4往復・約3秒
STEP5移す・減らす工場やセンターに作業を移し、店の手数を減らす
STEP5 → STEP1 へ戻り、改善を繰り返す

出典:正垣泰彦氏寄稿 ダイヤモンド・オンライン(2024年8月6日)、株式会社サイゼリヤ 採用サイト・2026年8月期第3四半期決算説明資料

テーブル拭きは4往復・約3秒|作業を撮影し、分解して標準にする

創業者の正垣泰彦氏は、ダイヤモンド・オンラインへの寄稿(2024年8月6日)で具体例を挙げています。テーブルを布巾で4往復させると、ムラなくきれいになり、かかる時間は約3秒だといいます。拭き方まで数字で決めているわけです。

正垣氏の説明では、接客や調理の作業を撮影し、動作に分けて改善を重ねてきました。採用サイトでも、個人の技能に頼らず、誰もが素早く作業を身につけられることを目標に掲げています。作業を「楽・良・早・安」にする取り組み、という表現です。

標準が数字で決まっていると、教える側も教わる側も迷いません。「きれいに拭いて」では人によって解釈が分かれますが、「4往復」なら誰でも同じ動きができます。人が入れ替わる店ほど、この違いは大きく効いてきます。

私たちコントリ編集部が研究ノートを整理するなかで印象に残ったのは、改善の単位の細かさでした。1回あたり数秒の短縮でも、店の数と日々の回数を掛け合わせれば大きな時間になります。安さの源泉は、こうした小さな積み重ねの先にあります。

評価の物差しは売上ノルマではなく「人時生産性」

正垣氏は同じ寄稿で、店に一律の売上目標を課すより、人時生産性を重視する考え方を示しています。人時生産性とは、従業員1人が1時間あたりに生み出す粗利や売上のことです。

例えば、4人で合計40時間働いた日に粗利が20万円なら、人時生産性は1人1時間あたり5,000円です。売上を伸ばしても、それ以上に人手をかければこの数字は下がります。逆に作業を減らせば、売上が同じでも数字は上がります。

価格を据え置く会社にとって、この物差しは理にかなっています。値上げで売上を増やせない以上、利益を生む余地は「同じ人数でどれだけ多くのお客様に対応できるか」にあるからです。価格を動かさない方針と、人時生産性という物差しは、表裏の関係にあります。

ストップウォッチからデジタルへ|センター機能とDX

改善の考え方は、いまも投資の方針に引き継がれています。2026年8月期第3四半期の決算説明資料は、「今後の取り組み」として次の項目を挙げました。センター機能による店舗作業削減、作業モデル・店舗レイアウトモデル・利益モデルづくり、DX推進とIT投資の継続などです。

センター機能とは、店で行う仕込みや準備を1か所の拠点にまとめて行う仕組みのことです。工場ほど大きくなくても、店の作業を減らすという発想は同じです。「グローバルな視野での、生産・物流・購買の再構築」という項目も並んでいます。

道具が撮影とストップウォッチからデジタルへ広がっても、目指す方向は変わっていません。店の手数を減らし、誰がやっても同じ品質にすることです。創業期からの考え方が、そのまま投資の方針になっている点に一貫性を感じます。

値上げせずに原価高を吸収してきた数字

サイゼリヤは2020年7月にミラノ風ドリアを299円から300円にしました。その後は主要メニューの価格をほぼ据え置いています(ITmedia、2026年7月)。

松谷秀治社長によれば、この4年で国内の来店客数は1.7倍、客単価は13%増です(週刊エコノミスト、2026年4月)。私たちコントリ編集部が決算説明資料を読み直すと、ある構図が見えてきました。原価の悪化を、販管費の比率とメニュー構成で取り戻す形です。

国内の客数と客単価の推移(各年の9〜5月累計)
客数
2022年9,443万人
2023年1億979万人
2024年1億2,923万人
2025年1億4,839万人
2026年1億7,376万人
客単価(棒の長さは900円を100%として表示)
2022年779円
2023年797円
2024年822円
2025年844円
2026年862円
4年で客数は約1.8倍、客単価は約1割増

出典:株式会社サイゼリヤ 2026年8月期第3四半期決算説明資料(2026年7月15日)。数値は各年8月期の第3四半期累計

客単価の上昇は4年で約1割、伸びの主役は客数

国内の売上は「客数×客単価」で決まります。サイゼリヤは、このうち客単価の上昇を小さく抑えてきました。第3四半期累計の国内の客単価は、2022年の779円に対して2026年は862円です。4年で約1割の上昇にとどまります(同社決算説明資料、2026年7月)。

同じ期間に、国内の客数は9,443万人から1億7,376万人へ増えました。社長発言の1.7倍・13%とは、比べる期間と範囲が異なります。

伸びたのは主に客数です。2025年9月〜2026年8月の国内既存店は、売上高115.7%、客数113.4%、客単価102.1%です(同社月次報告)。

松谷社長は同じインタビューで、「自分たちが何の努力もしないまま、値上げはできません」と語っています。値上げをすれば、ムダや非効率といった問題が見えなくなる、という趣旨の発言も続きます。価格を据え置くことは、改善を続けるための約束でもあったと読めます。

原価率は悪化、販管費率で取り戻す|国内の営業利益率3.7%

決算説明資料で国内(サイゼリヤ単体)の第3四半期累計を見ます。売上原価率は46.1%から47.5%へ、1.4ポイントの悪化です。一方で販管費率は51.9%から48.7%へ3.2ポイント改善しました。その結果、営業利益率は2.0%から3.7%へ上がりました。

売上原価率とは、売上に占める食材などの仕入れの割合のことです。販管費率は、人件費や家賃、水道光熱費などの割合を指します。例えば売上100円のうち、食材に47.5円、店の運営に48.7円かかり、残りの3.7円が利益という計算です。

食材の値上がりでは負けていますが、客数が増えたことで家賃などの比率が下がり、そちらで取り戻しています。原価で失った分を、客数による固定費の薄まりで補うという構図です。国内の営業利益は、前年同期の25億円から56億円へ、2.2倍に増えました。

メニューミックスで2期続けて10億円規模を回収

もう1つの手段が、メニューミックスの見直しです。メニューミックスとは、売れる商品の組み合わせのことです。例えば利益の出やすい商品の注文が増えれば、価格を変えなくても全体の原価率は下がります。

2025年8月期の国内では、米やレタスなどの値上がりで原価が18億8,000万円悪化しました。その一方で、メニューミックスによって12億5,000万円を取り戻しています(同社決算説明資料、2025年10月)。

2026年8月期の第3四半期累計でも、構図は同じです(同社決算説明資料)。為替で18億3,000万円、ハンバーグやチキンなどの単価で7億9,000万円、物流費で3億8,000万円の悪化です。これに対し、メニューミックスで10億2,000万円を取り戻しています。

国内の原価の増減要因(2026年8月期第3四半期累計・億円)
為替の影響−18.3
単価(ハンバーグ・チキン等)−7.9
物流費−3.8
メニューミックス+10.2
その他ロスなど+0.5
原価合計 −19.2億円(資料の表示どおり。端数処理のため各項目の合計とは一致しない)
参考:2025年8月期は 単価 −18.8億円に対し、メニューミックス +12.5億円

出典:株式会社サイゼリヤ 2026年8月期第3四半期決算説明資料(2026年7月15日)、2025年8月期決算説明資料(2025年10月)

価格を動かさないと決めている以上、原価の上昇は工程とメニュー構成で吸収するしかありません。その縛りこそが、毎年の改善を促す仕組みです。ただし為替の悪化は、メニューの工夫だけでは埋めきれていない点も見ておく必要があります。

国内2.9%とアジア12.1%|同じ仕組みで利益率が違う理由

2025年8月期の営業利益率は、国内2.9%に対してアジア12.1%でした(同社決算説明資料、2025年10月)。

営業利益の金額でも、アジアが101億円と、国内の50億円のおよそ2倍を稼いでいます。ところが2026年8月期は、第3四半期累計で中国の不振によりアジアが減益です。国内は客数増で大きく増益となり、両者の利益の差は縮まっています。

区分2025年8月期 売上高2025年8月期 営業利益(利益率)2026年8月期3Q累計 売上高2026年8月期3Q累計 営業利益(利益率)
国内(サイゼリヤ単体)1,729億円50.3億円(2.9%)1,498億円55.9億円(3.7%)
アジア838億円101.3億円(12.1%)715億円73.0億円(10.2%)
オーストラリア(工場)111億円3.3億円(グループ内取引が中心)97.9億円4.6億円(グループ内取引が中心)

出典は、サイゼリヤの2025年8月期決算説明資料(2025年10月)と2026年8月期第3四半期決算説明資料(2026年7月)です。利益率は、各資料の売上高と営業利益から編集部が計算しました。

国内は客数で固定費を薄める「薄利多売」

国内の営業利益率は、2025年8月期で2.9%でした。売上100円のうち、手元に残る営業利益は3円に満たない計算です。外食としても薄い水準で、客数の伸びがそのまま利益を左右する構造です。

その代わり、客数が伸びたときの効き方は大きくなります。2026年8月期の第3四半期累計で、国内の営業利益は前年同期の2.2倍になりました(同社決算説明資料、2026年7月)。売上の伸びは約2割でも、固定費の比率が下がったことで利益が大きく動いた形です。

裏を返せば、客数の伸びが止まれば、同じ仕組みが逆向きに働きます。国内は、安さで客数を集め、客数で固定費を吸収する薄利多売の装置として設計されている、というのが編集部の見立てです。

アジアは粗利率と客単価が国内より高い

アジアの利益率が高い理由として、資料から読み取れる数字が2つあります。1つは粗利率です。粗利率とは、売上から食材などの原価を引いた残りが、売上に占める割合のことです。2026年8月期の会社予算では、国内の粗利率52.6%に対し、海外は64.6%です(同社決算説明資料、2026年7月)。

もう1つは客単価です。第3四半期累計の客単価は、国内の862円に対して海外は916円でした。同じ料理でも、海外では原価に対して高めの価格で受け入れられていることがうかがえます。

日本では手ごろなファミリーレストランとして利用されるサイゼリヤが、海外ではやや上の価格帯の外食として選ばれている。これは開示された数字からの編集部の推定です。同じ仕組みでも、市場によって利益の出方はこれほど変わります。

中国本土の既存店不振と、香港・台湾・シンガポールの堅調

アジアの中でも、明暗ははっきり分かれています。中国本土の既存店売上は、一時は前年比80〜82%まで落ち込みました。直近は上海99.4%、広州104.5%、北京93.5%と、下げ止まりの兆しが見えます(同社決算説明資料、2026年7月)。

影響は利益にも及んでいます。第3四半期累計の上海の営業利益は18億200万円で、前年同期の24億4,000万円から26%減りました。一方で、香港は20.2%増、台湾は10.5%増、シンガポールは23.5%増と増益が続いています。

中国3地域の既存店売上高 前年比の推移
75%80%90%100%110%2025/1Q2025/2Q2025/3Q2025/4Q2026/1Q2026/2Q2026/3Q2026/4Q
上海広州北京点線=前年と同じ(100%)
直近(2026/4Q):上海99.4%・広州104.5%・北京93.5%

出典:株式会社サイゼリヤ 2026年8月期第3四半期決算説明資料(2026年7月15日)。四半期の表記は同社資料のとおり(中国子会社の決算期に基づく)

報道では、中国の不動産不況が長引き、消費の勢いが弱まっていることが背景に挙げられています。それでも出店は続けており、第3四半期累計で上海28店、広州20店、北京11店を出店しました。新店で成長しつつ、既存店の回復を待つ状態が続いています。

安さの仕組みに見えてきた限界|下方修正と価格改定の検討

2026年4月8日、サイゼリヤは食材価格の上昇を理由に、通期の利益予想を下げました(日本経済新聞、2026年4月)。

7月15日の会見では、松谷社長が9月以降の価格改定を視野に入れると発言したと報じられました(ITmedia、2026年7月)。仕組みの強さを見たうえで、為替・投資・出店範囲という構造上の制約にも目を向けておく必要があります。

価格据え置きから価格改定の検討まで
2020年7月ミラノ風ドリアを299円から300円へ。以後、主要メニューの価格をほぼ据え置き出典:ITmedia ビジネスオンライン
2025年10月2025年8月期決算。売上高2,567億円・営業利益155億円。2026年8月期は営業利益190億円を予想出典:同社決算説明資料
2026年4月8日通期予想を修正。売上高は2,970億円へ上方修正、営業利益182億円・純利益118億円へ下方修正出典:日本経済新聞・同社決算説明資料
2026年7月15日第3四半期決算会見。松谷社長が9月以降の価格改定を視野に入れると発言(報道)出典:ITmedia ビジネスオンライン・日本経済新聞
2026年9月国内既存店 売上高110.4%・客単価101.8%出典:同社月次報告
2026年10月2026年8月期の通期決算の発表を控える(10月2日時点で未発表)

出典:ITmedia ビジネスオンライン(2026年7月21日)、日本経済新聞(2026年4月8日・7月28日)、株式会社サイゼリヤ 決算説明資料・月次報告

2026年4月の下方修正|営業利益予想を190億円から182億円へ

当初予想は、売上高2,763億円、営業利益190億円、純利益124億円でした(同社決算説明資料、2025年10月)。4月8日の修正で、売上高は2,970億円へ引き上げられ、営業利益は182億円、純利益は118億円へ引き下げられました。

売上は想定より伸びたのに、利益は届かない。日本経済新聞によると、松谷社長の会見での説明はこうです。売上が想定以上に伸び、原材料の確保のため割高な調達先からも買っている、という内容です。客数が増えるほど、計画外の調達が増えるという皮肉な面が表れた形です。

ここには、計画生産の強みと限界の両方が見えます。量を先に決めておけるからこそ、安く安定して仕入れられます。ただし計画を大きく超える需要には、割高な調達で応えるしかありません。客数が伸びすぎることも、この仕組みにとってはリスクになり得るという面もあります。

6年ぶりの価格改定を「視野」に|報道で伝えられた内容

報道で伝えられた松谷社長の発言は、次のとおりです(ITmedia、2026年7月21日)。「消費者物価指数(CPI)の動向を見ながら、9月以降の価格改定を視野に入れている」。実施されれば、2020年7月以来、約6年ぶりの価格改定です。

日本経済新聞は、手ごろな価格の範囲内での改定を検討する方針だと伝えています。客単価が10円上がれば約20億円の増益になる、という同紙の試算も報じられました(日本経済新聞、2026年7月28日)。この数字は報道による試算で、会社が公表したものではありません。

2026年9月の国内既存店は、売上高110.4%、客数108.4%、客単価101.8%でした(同社月次報告)。会社は、土日祝日の日数の差が約2ポイントのプラスに働いたと注記しています。客単価の数字からは大幅な改定は読み取れず、10月2日時点で、具体的な時期や幅は確認できていません。

為替・投資・出店範囲|垂直統合が抱える3つの制約

1つめは為替です。オーストラリア工場や、イタリアからの開発輸入は品質の源泉です。ただし円安になれば原価を直撃します。先に見たとおり、2026年8月期第3四半期累計の国内原価の悪化要因で、最も大きいのは為替の18億3,000万円でした。中間の業者を減らせても、為替の変動は自社で抱えることになります。

2つめは投資です。決算説明資料によると、2026年8月期の設備投資計画は255億円です。会社が簡便に計算したキャッシュフロー204億円を、約51億円上回ります。内訳は既存店の改修62億円、海外中心の子会社124億円、新規出店35億円、国内工場の更新・増強約33億円です。自己資本比率は66.8%の予想と厚いものの、投資の回収が問われる局面です。

3つめは出店範囲です。国内は47都道府県のうち42で出店しており、5県は未出店です(同社決算説明資料、2026年7月)。編集部の見方では、工場から店へ届ける物流網に乗る地域に店を出す構造と考えられます。そうだとすれば、強みである工場網が、そのまま出店の範囲を決めているとも言えます。

サイゼリヤの工程設計から、中小企業が考えたい4つの問い

工場や農場を持つことは、多くの中小企業にとって現実的ではありません。それでも、価格を守るために工程を見直す考え方は、規模を問わず自社に置き換えられます。

「うちは小さいから関係ない」と感じた方にこそ、試していただきたい視点です。研究ノートの整理から見えた論点を、4つの問いにまとめます。

サイゼリヤの工程設計から考えたい4つの問い
1値上げできない事情を、改善のきっかけにできているか売れ筋と利益の出る商品の組み合わせを見直す
2いちばん手間のかかる作業を、別の場所に移せないか仕入れ先・前工程・まとめ作業へ移す
3現場の作業を撮影し、分解し、測っているかスマホで1つの作業を撮り、時間を測る
4仕入れ先と規格から話し合えているか大きさ・切り方・納品の形を相談する

出典:株式会社サイゼリヤ 決算説明資料・採用サイトをもとにコントリ編集部作成

値上げできない事情を、改善のきっかけにできているか

サイゼリヤは、価格を据え置くと決めたことで、原価の上昇を工程とメニュー構成で吸収するしかない状況を自らつくりました。その結果、メニューミックスだけで、2期続けて10億円規模の原価悪化を取り戻しています。

中小企業では、取引先との関係や地域の相場から、すぐには値上げできない場面もあるでしょう。そのときに、利益の出る商品と出ない商品の売れ方を見直す余地は大きいはずです。まずは直近3カ月の売上を商品別に並べ、粗利の高い順に並べ替えてみてください。

並べ替えると、売れているのに利益が薄い商品と、利益は厚いのに勧めていない商品が見えてきます。後者を勧める順番を変えるだけでも、価格を変えずに粗利を守れます。値上げを決めるときの計算は、値上げ率の計算方法でも整理しています。

いちばん手間のかかる作業を、別の場所に移せないか

サイゼリヤが店で米を炊かなくなったのは、店員の腕を上げたからではありません。炊く作業そのものを工場へ移したからです。作業を「その場で速くする」より、「別の場所に移す」ほうが効果は大きくなります。

自社の現場で、いちばん時間のかかっている作業は何でしょうか。その作業を、仕入れ先に頼めないか、前の工程でまとめてできないか、曜日を決めて一度に片づけられないかを考えてみてください。移す先が決まれば、現場の時間は本来の仕事に戻ります。

メニューや商品を絞って作業を減らした小さな飲食店の例は、佰食屋のビジネスモデルで詳しく扱っています。規模の小さい会社でも、移す・減らすという発想は十分に生かせます。

現場の作業を撮影し、分解し、測っているか

テーブル拭き4往復・約3秒のように、標準を数字で決めると教育が速くなります。人が入れ替わっても、品質が保ちやすくなるのも利点です。サイゼリヤが出発点に置いてきたのは、撮影です。

中小企業でも、スマートフォンで1つの作業を撮影するだけで始められます。撮った動画を見ながら、動作をいくつかに分け、それぞれに何秒かかっているかを書き出します。ムダな往復や待ち時間は、映像で見るとすぐに気づくものです。

書き出した手順のうち、いちばん速くてきれいなやり方を「標準」として決めておきます。新しく入った人には、その標準を見せて教えれば迷いません。作業の数字を集めていくと、人時生産性という物差しで現場を見られるようになります。

仕入れ先と「規格」から話し合えているか

サイゼリヤは、レタスの品種や米の品種まで遡って選び、店の作業時間と原価を原料の段階で決めてきました。原料の規格を変えることが、店の手間を減らす近道になる場合があります。

中小企業が農場を持つ必要はありません。仕入れ先に、大きさや切り方、納品の形を相談することは今日からできます。例えば下処理済みで届けてもらう、使う量に合わせた単位で納めてもらう、といった相談です。

仕入れ先と規格を話し合うことは、中小企業にもできる垂直統合の入口と言えます。他の会社の稼ぎ方と比べたい方は、ビジネスモデル一覧もご覧ください。

まとめ|サイゼリヤの安さを一言でいうと

サイゼリヤが安い理由は、値引きではなく工程の設計にあります。自社農場と契約農家、国内5工場とオーストラリア工場で店の作業を引き取り、残った作業は秒単位で標準化してきました。客単価の上昇を4年で約1割に抑えながら客数を増やし、固定費を薄めることで利益を確保しています。

一方で、国内の営業利益率は2.9%と薄く、2026年4月には食材高で利益予想を下方修正しました。7月には約6年ぶりの価格改定を視野に入れる発言も報じられています。改善で吸収できる範囲と、価格で応える範囲の線引きが、これからの注目点です。

自社に置き換えるなら、まず現場の1つの作業を撮影し、時間を測るところからです。

編集部コメント

決算説明資料を読み直して印象に残ったのは、オーストラリア工場の売上と同じ額が、連結決算でそのまま消えている数字でした。外に売るためではなく、自分たちの店のためだけに海外に工場を構え、20年以上動かし続けている。その判断に、価格を守るという約束の重さが表れていると私たちは捉えています。

同時に、その約束がいま試されていることも、数字ははっきり示していました。価格を変えるにせよ据え置くにせよ、判断の根拠を工程の数字で語れる会社であることに変わりはありません。自社の価格の理由を、お客様や社員に自分の言葉で説明できるか。その問いは、規模を問わずどの経営者にも通じるものだと感じます。自社でも、現場の作業を1つ撮影するところから始めてみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. サイゼリヤはなぜ安いのですか?

A. 食材の生産から工場での加工、物流、店舗での提供までを自社で手がける「製造直販」の仕組みがあるためです。店の作業を秒単位で測って減らす改善も続けています。客単価の上昇を小さく抑えて客数を増やし、家賃などの固定費を薄めて利益を確保してきました(同社採用サイト・決算説明資料)。

Q2. サイゼリヤは値上げしましたか?

A. 2020年7月にミラノ風ドリアを299円から300円にした後、主要メニューの価格はほぼ据え置かれてきました。2026年7月の決算会見で、松谷社長が9月以降の価格改定を視野に入れると発言したと報じられています。ただし2026年10月2日時点で、具体的な時期や幅は確認できていません。

Q3. サイゼリヤの工場はどこにありますか?

A. 国内は吉川(埼玉県)・神奈川・福島・兵庫・千葉の5工場です。海外にはオーストラリアと中国・広州に工場があります。オーストラリア工場では、ハンバーグやドリアのホワイトソースなどを作っています(同社公式サイト)。

Q4. サイゼリヤは儲かっていますか?

A. 2025年8月期の連結売上高は2,567億円、営業利益は155億円でした。ただし国内の営業利益率は2.9%と低く、利益の多くをアジアが稼いできました。2026年8月期の通期は会社予想で売上高2,970億円、営業利益182億円です。実績は2026年10月2日時点で未発表です(同社決算説明資料)。

Q5. サイゼリヤの海外店舗はどのくらいありますか?

A. 2026年5月末時点で、全1,738店のうち海外は675店で、比率は38.8%です。上海・広州・北京・香港・台湾・シンガポールなどに店があります。2026年8月期には、ベトナムと中国・武漢にも出店しました(同社資料、2026年7月)。

Q6. 中小企業がサイゼリヤから学べることは何ですか?

A. 値上げできない事情を改善のきっかけにすること、手間のかかる作業を別の工程へ移すことが参考になります。作業を撮影して数字で標準を決めること、仕入れ先と規格から話し合うことも、規模を問わず始められます。

参考資料

本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノート(2026年10月調査)です。2026年10月2日時点で確認できたサイゼリヤの決算説明資料、月次報告、公式サイト、報道と照合しました。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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