
「取材される会社」が実際にやっていること
「プレスリリースを配信すれば、取材が来る」——そう考えている経営者は少なくない。広報の相談を受けていると、この思い込みに何度も出会う。
だが、実際に何度も取材を引き込んでいる会社に話を聞くと、少し違う景色が見えてくる。一斉配信だけに頼らず、1件1件のつながりを地道に積み上げている会社がある。一方で、一斉配信でも時流を捉えた内容であれば、大きな反響を得ている会社もある。取材のきっかけを分けているのは、配信の手法そのものではないようだ。
この記事で取り上げるのは3社の実例だ。PR代行を手がける株式会社LITAと株式会社トークナビ、そしてAI利用ガイドラインの策定支援などを手がける株式会社UPF。手法はそれぞれ異なるが、共通している部分と、対照的な部分の両方がある。
自社の情報発信で取材を引き込みたいと考えている経営者にとって、手法選びのヒントになるはずだ。プレスリリースを配信すること自体が目的化していないか、一度立ち止まって考える材料にしてほしい。
株式会社LITA:1社ごとに約10ページの企画書をつくる
株式会社LITA・笹木郁乃氏
株式会社LITAは、一斉配信に頼らず、クライアント1社ごとに個別の企画書を作り込むPR代行会社だ。この手間のかかる手法が、高い取材獲得数と契約継続率につながっている。
一般的なPR代行のイメージは、プレスリリースを作成し、配信サービス(ワイヤーサービス)を通じて多数のメディアに一斉送信するというものだろう。ワイヤーサービスとは、企業が作成したプレスリリースを、契約している多数のメディアに一括で配信する仕組みのことだ。例えば、1回の配信で数多くのメディア担当者に同時に情報を届けられるという利便性がある。
個別企画書という手間のかかる選択
だがLITAが取っている手法はこれとは異なる。クライアントの事業背景や経営者の想いを深く掘り下げ、約10ページの企画書を1社ごとに作成する。そのうえで、メディア担当者一人ひとりに合わせた切り口を考え、個別に直接アプローチしていく。
一斉配信(ワイヤーサービス)
プレスリリースを多数のメディアへ同時送信
1社ごとの個別企画書
約10ページの企画書でメディア担当者に個別アプローチ
この手法は、一見すると効率が悪いように見える。多数のメディアに同時に情報を届けられる一斉配信に比べれば、時間も手間もかかるからだ。
だが結果は数字が示している。2024年の実績では、1社あたり平均26.7件の取材を獲得し、契約継続率は93%にのぼるという。一斉配信で広く浅く届けるのではなく、1件ずつ確実に届ける方を選んだ結果、高い成果につながっている。
笹木氏が語る「心を動かす」の真意
笹木郁乃氏は、この手法の背景にある考え方をこう語っている。
「綺麗な文章でも、『定型文でみんなに送っているのかな』と思うと伝わらないんです。人対人で心を動かす感じが大事だよ」
この言葉が示しているのは、文章の巧拙よりも、受け取る側が「自分たちに向けて書かれている」と感じられるかどうかが、取材につながるかどうかを分けているという考え方だ。約10ページという企画書の分量も、メディア担当者一人ひとりに合わせた個別アプローチも、この一点を実現するための手段だと言える。
契約継続率93%が示すもの
契約継続率93%という数字も、この考え方と切り離しては読めない。単発の取材獲得であれば、一斉配信でも一定の成果は出せるだろう。だがLITAの数字が示しているのは、クライアント企業が翌年以降も同じ手法を任せ続けているという事実だ。
1社ごとに時間をかけて企画書を作り込む手間は、継続的な取材獲得という形で回収されている。企画書のクオリティが1回限りで終わらない。翌年の契約更新にもつながっているという点は、この手法の再現性を裏づけている。
株式会社トークナビ:アナウンサー経験者が積み上げた900のメディアパイプ
株式会社トークナビ
株式会社トークナビは、アナウンサー経験者が立ち上げたPR会社である。同社の強みは、日々開拓してきたメディアとのつながりの数にある。
全国900のメディアパイプという発言
「数だけで言えば、一般的なPR代行よりはるかに多く取材を引き込めています。日々開拓しているメディアのパイプが全国に900ぐらいあるのが強みですね。アナウンサー時代の繋がりではなく、立ち上げ時はゼロからのスタートでした」
※出典:コントリ経営者インタビュー「株式会社トークナビ」(元記事を読む)
ゼロから積み上げた開拓の実像
この発言から見えてくるのは、900というつながりの数が、アナウンサーという経歴だけで自然に得られたものではないという点だ。立ち上げ時はゼロからのスタートだったと、トークナビは語っている。アナウンサー時代の人脈に頼るのではなく、日々の地道な開拓によって、この数字を積み上げてきたということだ。
アナウンサーという経歴は、メディア業界の内側を知っているという意味では強みになる。だがその経歴だけで900のつながりができたわけではない、という点は見落とされがちだ。実際には、地道な新規開拓の積み重ねが、つながりの大半を占めている。
トークナビの発言でもう一つ注目したいのは、「一般的なPR代行よりはるかに多く取材を引き込めている」という部分だ。ここで語られているのは、単なる人脈の数ではない。それが実際の取材実績につながっているという点である。900というメディアパイプの数字は、つながりの広さを示す指標であると同時に、取材成果に直結する土台として機能している。
LITAとの共通点、地道な積み重ね
LITAが1社ごとの深い企画書で個別にアプローチする手法だとすれば、トークナビは日々の新規開拓でメディアとの接点を広げてきた手法だと言える。アプローチの形は違っても、どちらも一斉配信という近道を選ばない。地道な積み重ねを続けてきたという点は共通している。
「日々開拓している」という言い方にも注目したい。900というパイプの数は、ある時点で一気に築かれたものではなく、今も更新され続けている数字だということだ。立ち上げ時のゼロから積み上げてきた過程と、それを止めずに続けている現在とが、900という数字の中に同時に含まれている。
株式会社UPF:一斉配信でも、時流を捉えていれば反響は来る
株式会社UPF・仲手川氏
一方で、一斉配信のプレスリリースがまったく効かないわけではない。株式会社UPFの実例は、それを示している。
AI利用ガイドライン支援という事業
UPFはAI利用ガイドラインの策定支援などを手がける会社である。AI利用ガイドラインとは、企業が生成AIを業務でどう使うべきかを定めた社内ルールのことだ。例えば、情報漏洩を防ぐための入力の制限や、生成した文章のチェック体制などを定めるものである。
仲手川氏が語った想定外の反響
仲手川氏はこう語っている。
「実際、AIマネジメントシステムのサービスのプレスリリースを公開したところ、びっくりするような大手企業からも問い合わせが来て驚いた」
※出典:コントリ経営者インタビュー「株式会社UPF」(元記事を読む)
この結果だけを見ると、LITAやトークナビの手法とは対照的に映る。個別アプローチでもなければ、地道な新規開拓の積み重ねでもない。配信サービスを通じた、いわば一般的な手法だ。
だが注目すべきは、UPFが配信した内容そのものにある。AI利用ガイドラインという、当時多くの企業が関心を持ち始めていたテーマだったという点だ。
時流を捉えたテーマ設定の重要性
企業が生成AIの業務活用を進める中で、どう使うべきかというガイドラインの整備は、まさに時流に合ったテーマだった。プレスリリースという入り口は一般的でも、そこに書かれていた中身が、読み手である大手企業の担当者にとって切実な課題そのものだったのだ。
手法が一斉配信であっても、届け先となる企業にとって切実なテーマであれば、反響は生まれる。UPFの事例は、配信の手法そのものよりも、届ける中身のタイミングと切実さが結果を左右することを示している。
UPFが手がけているのは、AI利用ガイドラインの策定支援という、企業が生成AIをどう業務に取り入れるかというルールづくりの支援だ。多くの企業が同じ課題に直面していたタイミングでこのテーマのプレスリリースを配信したからこそ、担当者の目に留まった。同じ内容でも、企業側がまだ課題として認識していない時期に配信していれば、結果は違っていたかもしれない。
3社を並べると見えてくるのは、「一斉配信か個別アプローチか」という手法の選択そのものが、正解不正解を決めているわけではないということだ。
| 会社 | 手法 | 結果 |
|---|---|---|
| 株式会社LITA | 1社ごとに個別企画書で直接アプローチ | 1社平均26.7件の取材、継続率93% |
| 株式会社トークナビ | メディア担当者への地道な新規開拓 | 全国900のメディアパイプ |
| 株式会社UPF | 時流を捉えた一斉配信プレスリリース | 大手企業から想定外の問い合わせ |
手法の派手さより、中身が届くかどうか
3社の共通点は、手法の形ではない。受け取る側に「自分たちに向けて届いている」と感じさせる中身があったという点にある。
3社の手法の違いと共通点
LITAは1社ごとの個別企画書、トークナビは地道な新規開拓によるメディアパイプ、UPFは時流を捉えた一斉配信のプレスリリース。3社の手法はまったく違う。それでも共通しているのは、受け取る側にとって意味のある中身が届いていたという点だ。
地道な積み重ねと時流を捉えた反響
LITAとトークナビが選んだのは、1件ずつ確実に届く形をつくることだった。一斉配信という効率のよい手段ではなく、時間のかかる個別対応や新規開拓を積み重ねている。それでいてLITAの契約継続率93%、トークナビの全国900のメディアパイプという数字は、積み重ねが成果になっていることを示している。
UPFのケースは、一斉配信という手段自体を否定するものではないことを教えてくれる。配信する内容が時流を捉えたものであれば、一斉配信でも想定を超える反響が生まれる。配信の手法をどちらにするかという以前に、その中身が届け先にとって意味のあるものかどうかを問う方が、順序としては先にある。
手法選びより先に問うべきこと
手法を選ぶ前に問うべきことは、実はシンプルだ。個別に企画書を作り込むにせよ、新規開拓でつながりを広げるにせよ、時流を捉えたテーマで一斉配信するにせよ、共通して問われているのは同じ一点である。「届け先にとって意味のある中身になっているか」だ。この記事で紹介した3社は、それぞれ違う方法でこの問いに向き合ってきた結果、取材につながっている。
今日から着手できることがあるとすれば、次に配信する企画書やプレスリリースを見直すことだ。届け先の担当者が「自分に向けて書かれている」と感じられる中身になっているか、一度確かめてみてほしい。
まとめ
取材を引き込んでいる会社の共通点
- 一斉配信ではなく、1件ずつ届く形にする
- つながりは、地道な新規開拓でも作れる
- 配信するなら、時流を捉えた中身にする
編集部コメント
コントリでは、取材依頼の8割以上を断っている。日々多くの取材依頼やPR会社からの提案が届くが、その中で実際に取材まで進むケースは限られている。
私がLITAからの取材依頼に応じたのも、文章のうまさが理由ではなかった。定型文を送っているという感覚のない、熱量のある一通だったからだ。笹木氏が語っていた「人対人で心を動かす」という言葉は、まさにコントリ自身が受け取る側として体感したことでもある。
8割以上を断っている中で心を動かされた一通だった。この事実は、この記事のテーマをそのまま裏づけている。
コントリが大切にしている「Communication × Contribution」というコアバリューに照らしても、この3社の話は示唆に富む。心を動かすコミュニケーションが、結果として相手への貢献につながっている。LITAの企画書も、トークナビの新規開拓も、根っこは同じことなのかもしれない。
トークナビの900というメディアパイプの数字を聞いたとき、私はその内訳の方に関心を持った。アナウンサーという経歴があれば人脈は自然に広がると思いがちだ。だが実際の発言が示していたのは、立ち上げ当初はほぼゼロからの新規開拓だったという事実だった。900という数字の大きさよりも、そこに至るまでの過程の方が、他社にとっては参考になるはずだ。
UPFの事例からは、一斉配信という手法自体を否定する必要はないということを学んだ。配信の手法を選ぶ以前に、届ける内容が今の時流に合っているかどうかを問う方が先だ。基本的だが見落とされやすい視点を、3社の実例が改めて思い出させてくれた。
3社の話を聞いて感じたのは、取材を引き込むための近道は存在しないという、ごく当たり前の事実だった。LITAの企画書づくりも、トークナビの新規開拓も、UPFのテーマ選びも、どれも地味な作業の積み重ねだ。派手な手法や特別なコネクションではない。
届け先のことをどれだけ考えたかという地道な部分に、結果は表れている。コントリとしても、取材を依頼する側になる場面と、取材を受ける側になる場面の両方で、この視点を持ち続けたい。
配信手段を増やすことや、企画書のテンプレートを整えることは、比較的すぐに着手できる。だが3社が積み重ねてきたのは、そうした仕組みづくりの先にある、届け先一人ひとりに向き合う時間そのものだった。この差は、外から見える手法の違いよりも大きい。

