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月30万円のプレスリリース代行、半年続けても売上は1円も動かなかった

月30万円のプレスリリース代行、半年続けても売上は1円も動かなかった

「プレスリリース会社にお金を払えば、あとはメディアが勝手に取材に来てくれる」——そう考えている経営者は、決して少なくない。

だが、月30万円のプレスリリース代行サービスを半年間続けても、店頭の状況もホームページへの問い合わせも1円も動かなかった。そういう実例がある。株式会社LITA代表取締役・笹木郁乃氏自身が、寝具業界の一販売員だった時代に経験した事実だ。

この記事では、笹木氏が店頭で見た大手ブランドとの圧倒的な差、月30万円のプレスリリース代行が機能しなかった経緯を追う。そして、一斉配信をやめて1社ごとに向き合う個別アプローチへ転換するまでを、時系列でたどる。

「取材が来ない」「PR会社に頼んだのに変わらない」と感じている経営者は多い。そうした経営者にとって、笹木氏の失敗と転換の記録は、遠回りに見えて実は最短の道筋を示している。何にお金を払い、何が動かず、何を変えたら数字が動いたのか——その順番をそのまま追うことに、この記事の意味がある。

笹木郁乃 氏

株式会社LITA 代表取締役 笹木郁乃 氏

寝具販売員時代に見た格差

隣のブースで見た売れ行きの差

笹木氏の原体験は、経営者になる前、寝具の販売員として店頭に立っていた時代にさかのぼる。隣のブースで売れていたのは、大手ブランドのマットレスだった。

自分が売る寝具と、隣で売れていく大手ブランドのマットレスの間には、圧倒的な差があった。笹木氏が声をかけても、足を止める客は50人に1人もいない。

ところが隣の商品は、店員が積極的に声をかけなくても、放っておいても売れていく。この差を、笹木氏は店頭で日々目の当たりにしていた。

差を生んでいたのは、商品そのものの性能ではなかった。足を止めた客の口からこぼれる言葉は、決まって同じだった。「テレビで見た」「雑誌で見た」。

客は商品を比較して選んでいたのではなく、すでにどこかで見聞きしていた名前を選んでいたのである。

「ブランドが先」という結論

この光景を繰り返し見た笹木氏は、あるひとつの結論にたどり着く。

「どれだけ頑張っても、先にブランドを作らないと無理だ」

店頭でどれだけ丁寧に接客をしても、どれだけ商品の良さを説明しても、客がその場に来る前に名前を知っているかどうかで、勝負はすでに決まっている。

笹木氏がPRの世界に足を踏み入れたのは、この店頭での実感がきっかけだった。販売員としての現場経験が、後のLITAという会社の出発点になっている。

格差の正体は努力量ではなかった

ここで押さえておきたいのは、格差を生んでいたのが「接客の努力量」ではなかった、という点だ。笹木氏自身が声をかける回数を増やしても、足を止める客の比率は変わらない。

50人に1人という数字は、個人の努力でどうにかできる範囲を超えていた。客が店頭に来る前に、すでにテレビや雑誌で名前を目にしていたかどうか——その差は、店頭に立つ前の段階で決まっていたのである。

この気づきが後のLITAの事業構造に直結している。笹木氏が向き合っていたのは「どう売るか」ではなく「どう知られるか」という、より手前の課題だった。この視点の転換がなければ、後にプレスリリース代行を試す発想自体、生まれなかったかもしれない。

販売員としての日々は、笹木氏にとって遠回りだったわけではない。むしろ、店頭という現場で「知られていることの強さ」を繰り返し体感できたからこそ、後にPRの仕事に軸足を移した時も、机上の理論ではなく身体で覚えた実感を出発点にできた。

数字や理屈ではなく、目の前で50人に1人しか足を止めない現実を見続けたこと——それが、笹木氏のPR観の土台。

月30万円のプレスリリース代行が動かなかった話

ブランド構築へ本腰を入れる

ブランドを先に作らなければならないと気づいた笹木氏は、PRに本腰を入れ始める。だが、最初から成果につながったわけではない。

最初に試したのは、女性誌への広告出稿だった。しかし、これは売上にはつながらなかった。次に試したのが、月30万円のプレスリリース代行サービスだ。半年間、このサービスを継続した。それでも、店頭の状況は何も変わらなかった。

「転載されても何も変わらない」という言葉

「プレスリリースを出せば、確かにウェブメディアに転載はされる。でもそれはプレスリリース代行のサービスが機能しただけで、店頭の売上も、ホームページへの問い合わせも、何一つ変わらなかった」

この笹木氏の言葉には、プレスリリース代行という仕組みの構造が端的に表れている。プレスリリースを配信すれば、ウェブメディアへの転載という「結果」は確かに生まれる。

だが、それは配信サービスが仕様通りに機能した証にすぎない。転載された記事を読んだ人が実際に店頭に来るか、問い合わせフォームを開くかは、また別の話だった。

半年という期間、月30万円という金額は、決して小さな投資ではない。それだけの時間と費用をかけても、笹木氏が本当に欲しかった成果——店頭の売上、ホームページへの問い合わせ——には、まったく届かなかった。この失敗の経験が、後の転換の土台になる。

露出したのに出口につながらなかった

女性誌への広告出稿と、月30万円のプレスリリース代行。この二つの施策には共通点がある。どちらも「メディアに露出する」という入り口までは実現していた点だ。

広告は誌面に載り、プレスリリースはウェブメディアに転載された。露出そのものは起きていたのに、それが店頭の売上や問い合わせという出口にはつながらなかった。

この経験は、笹木氏にとって単なる「失敗」以上の意味を持っていたはずだ。露出と成果が別物であることを、広告代理店の説明やセミナーの受け売りではなく、自分の店頭で半年かけて確かめている。だからこそ、この後の転換は理屈ではなく、実感に裏打ちされたものになった。

一斉配信から個別アプローチへの転換

「量」で攻める発想の限界

プレスリリース代行という「量」で攻める発想には、限界があった。笹木氏はここで、配信のやり方そのものを見直すことになる。

笹木氏が次に選んだのは、一斉配信、いわゆるワイヤーサービスをやめることだった。ワイヤーサービスは、1本のプレスリリースを多数のメディアに同時配信する仕組みだ。笹木氏が半年間続けていたプレスリリース代行も、この形式に近いものだった。

1社のための企画書へ

代わりに笹木氏が選んだのは、クライアント1社ごとに事業の背景や経営者の想いを掘り下げた約10ページの企画書を作成する方式だった。それをメディア担当者一人ひとりに合わせて、個別にアプローチしていく。

1社に配るテンプレートではなく、1社のために書いた企画書を、届ける相手ごとに調整して渡す。手間のかかり方は、一斉配信とは比べものにならない。

費用・期間・結果を比較する

この転換を、費用・期間・結果という軸で並べると、次のようになる。

項目一斉配信(ワイヤーサービス)個別アプローチ
費用月30万円
期間半年
結果店頭・問い合わせに変化なし1社平均26.7件の取材(2024年実績)
継続率93%

一斉配信は「多くのメディアに同時に届く」という点では効率的に見える。だが、笹木氏が半年かけて確かめたのは、届いた数が多いことと、相手の心が動くことは別物だという事実だった。

1社ごとに掘り下げる個別アプローチは、一見すると非効率に見える。しかし、結果はこの後、数字として表れることになる。

約10ページという企画書のボリュームにも、意味がある。1枚のプレスリリースであれば、事実を要約して伝えることしかできない。しかし10ページあれば、その会社がどんな背景で事業を始め、経営者がどんな想いを持っているかまで書き込める。

メディア担当者からすれば、届いた資料が「その1社のために書かれたもの」なのか「多数の企業に配られている定型フォーマット」なのかは、ページをめくる中で自然と伝わってしまうものだ。

この転換は、笹木氏個人の手間だけでなく、LITAという会社の仕事の設計そのものを変えた。1社に配る資料を薄く多く作る仕事から、1社のために厚く作り込む仕事へ。かけられる労力は同じでも、その配分先をどう決めるかで、届いた先の受け止め方がまったく違うものになる。

成果と哲学

数字に表れた変化

一斉配信をやめ、1社ごとに向き合う方式に切り替えたことで、笹木氏の会社の実績は大きく変わった。

2024年の実績では、1社あたり平均26.7件の取材を獲得している。契約継続率は93%にのぼる。月30万円を半年払っても店頭の状況が動かなかった時期と比べると、この数字の変化は際立っている。

1社あたり平均取材数
26.7件
契約継続率
93%

配信の「量」を積み上げても届かなかった成果に、1社ごとに時間をかけた企画書と個別アプローチが届いたことになる。

「人対人で心を動かす」という哲学

この成果の背景には、笹木氏の哲学がある。

「綺麗な文章でも、『定型文でみんなに送っているのかな』と思うと伝わらないんです。人対人で心を動かす感じが大事だよ」

どれだけ文章が整っていても、受け取った側に「これはみんなに送っている定型文だ」と感じられた瞬間、その言葉は届かなくなる。笹木氏がメディア担当者一人ひとりに合わせて企画書を作り込むのは、この「定型文感」を消すためだ。

文章の巧拙以前に、送り先ごとに向き合っているかどうかが、伝わるかどうかを分けている。

営業ゼロで顧客が集まる会社へ

現在の株式会社LITAには、営業担当者が一人もいない。顧客はメディア露出と口コミのみで集まっている。かつて月30万円を払って動かなかった会社が、営業をかけずに顧客を集める会社になった。

この変化の起点は、一斉配信をやめて1社ごとに向き合うと決めた、あの転換。

契約継続率93%という数字も、単発の取材件数以上に語っていることがある。1社あたり26.7件という取材実績が一度きりの成果であれば、翌年には別のPR会社に切り替えられてもおかしくない。

それでも契約が続いているということは、取材が獲得できた後も、クライアントとの関係が「定型文」ではなく積み上げられている証だと読める。営業担当者を置かずに済んでいるのも、この継続率の高さと表裏一体の事実だろう。

月30万円のプレスリリース代行を半年続けた時期と、1社ごとに10ページの企画書を作る現在とでは、かけている時間の質そのものが違う。前者は「配信する」という作業に時間を使い、後者は「向き合う」という作業に時間を使っている。

同じPRという言葉でくくられていても、その中身は別の仕事だったと言っていい。

まず見直せるのは、自社が今送っている資料や文章が「誰に送っても同じ内容」になっていないかどうかだ。「この1社のために書かれたものだ」と相手に伝わるかどうか——その視点から自社の発信を点検することが、最初の一歩になる。

まとめ

笹木氏の実体験からの示唆

  • 配信の「量」は、成果に直結するとは限らない
  • 1社ごとに掘り下げた企画書が、個別の信頼を生む
  • 「定型文感」の有無が、伝わるかどうかを分ける

編集部コメント

この取材で私が最も目を引かれたのは、失敗の期間と金額が具体的に語られている点だった。「月30万円」「半年」という数字は、多くの経営者が実際に検討し得る規模の投資であり、だからこそ「動かなかった」という結果が読み手にとって他人事ではなくなる。

もうひとつ、私が注目したのは、笹木氏が一斉配信を否定していない点だ。ワイヤーサービスという仕組みそのものが悪いのではない。その仕組みが目指す「量」と、笹木氏が本当に必要としていた「店頭の売上」「問い合わせ」という成果の間に、ズレがあっただけだ——そういう語られ方をしている。

この整理は、PR施策を検討する経営者が最初につまずきやすい部分でもある。

26.7件、93%という数字も、抽象的な「成果が出た」ではなく、具体的な件数と継続率として示されている点が、この記事の核になっている。数字の裏に、1社ごとに約10ページの企画書を作るという地道な作業があったことも、あわせて記録しておきたい。

筆者として最後に書き留めておきたいのは、この記事が笹木氏の「成功談」ではなく「失敗の記録」から始まっている点だ。女性誌への広告出稿、月30万円のプレスリリース代行という二つの施策が機能しなかった経緯を、笹木氏は隠さずに語っている。

何を試して、何が届かなかったのかという事実の積み重ねこそが、後半の転換と成果に説得力を持たせている。取材を通じて数字だけを追うのではなく、その数字の手前にある経緯を聞くことの大切さを、この記事は改めて示している。

一斉配信という「多数への発信」から、1社と向き合う「個別のコミュニケーション」への転換が、結果として取材という形の貢献につながった。この記事に映るのは、コントリが大切にする「Communication × Contribution」という視点そのものでもある。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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