削ぎ落とすと、主軸が立ち上がる——コントリが「やらないこと」を決めた話

経営をしていると、「足す」ほうの判断は、わりと軽くできてしまう。新しい事業、新しいツール、新しい付き合い。可能性の顔をしてやってくるから、つい手を伸ばす。

むずかしいのは、「引く」ほうです。

今日、自分の事業を棚卸ししていて、僕はコントリでいくつかのことを手放すと決めました。その過程で見えてきたことを、同じように悩んでいる経営者の方と共有できたらと思って、この記事を書いています。

売上はある。なのに、手元が軽くならない

まず自分の状況を、正直に置いておきます。

電卓と積み上がったコインのイラスト
支出のひとつひとつは、正しさの服を着てやってくる。

コントリは、売上そのものはそれなりに立っています。でも、手元がちっとも軽くならない。理由はシンプルで、出ていくお金が多いからです。

経営の前提を、僕はどこかで甘く見ていたんだと思います。収入が支出をはるかに上回っている——この余白があってはじめて、事業は落ち着いて回る。「ちょっとプラス」では足りない。少しの逆風で、すぐに息が苦しくなる。

やっかいなのは、支出のひとつひとつが、ちゃんと理由を持っていることなんですよね。学びのため、ご縁のため、成長のため。どれも間違っていない。だからこそ、際限なく膨らむ。人の欲というのは、正しさの服を着てやってくる。ここを意思の力で抑えようとしても、たぶん続かない。

「予算」という一本の線を引く

そこで僕がまず手をつけたのが、「予算」という概念を持ち込むことでした。

「身の丈」を、動かない数字に変える
収入  支出
「収入 > 支出」ではなく「収入 ≫ 支出」。はるかに小さい支出で回す。
月次の上限ライン(=身の丈の可視化)
今月の支出上限ライン
線がなければ「身の丈」は気分で揺れる。線を一本引いた瞬間、意思の弱さを仕組みが肩代わりしてくれる。

お恥ずかしい話、これまでコントリには、月ごとの支出の上限という発想がほとんどなかった。必要だと感じたら使う、という運用です。

たとえば経営者の会への参加費。一回5,000円から1万円ほど。単発なら小さい。でも月に何度も重なれば、静かに効いてくる。こういう出費は、家計簿をつけない人がなぜかお金が貯まらないのと、構造がよく似ています。

月の支出に、上限のラインを一本引く。たったこれだけで、「身の丈」という曖昧な言葉が、動かない数字に変わりました。

線がないと、身の丈はいつも気分で揺れる。今日は使ってもいい気がする、今月はがんばったから、と自分に言い訳ができてしまう。線を引いた瞬間、その言い訳の余地が消える。仕組みが、意思の弱さを肩代わりしてくれるんです。

経営者は、自分に厳しくあろうとするあまり、「自制心でなんとかする」に頼りがちだと思います。僕もずっとそうでした。でも、意思の力は日によってムラがある。疲れている日ほど、財布はゆるむ。だったら、調子のいい日に線を引いておいて、あとは何があってもその線に従う。個人の頑張りを、仕組みに置き換えていく。この発想は、支出だけでなく、事業のいろんな場面に効くはずだと感じています。

攻めたつもりが、軸からぶれていた

ここからが、今日いちばん腹落ちした話です。

残す/削るを分ける、たった一つの問い
その動きは、本業を直接強くするか?
YES → 残す
本業に集中する。力をこの一点に集める。
NO → 手放す
撤退・凍結・人に委ねる。削った先に主軸が立ち上がる。

この数ヶ月、僕は新しいビジネスモデルを模索し、複数のメディアを同時に立ち上げてアフィリエイトで収益化する、という方向に舵を切っていました。攻めの一手のつもりでした。

でも、冷静に見れば、経営の軸からぶれていた。

コントリの本業は、ウェブサイト上での蓄積型の発信を支えることです。10年以上の実績、150社の取材で積み上げた資産、252本という記事の蓄積。この積み上げの上に立っているから、他社には簡単に真似できない。強みは、外にではなく、すでに足元にありました。

なのに、その資産を横に置いて、新しい畑を耕そうとしていた。だから、決めました。アフィリエイトのメディア群も、新規事業の探索も、いったん止める。

判断の物差しは、ひとつに絞りました。

  • その動きは、本業を直接強くするか
  • イエスなら残す
  • ノーなら、撤退・凍結・人に委ねる

実はこれ、去年やった判断とまったく同じ構造なんです。あるサービスの新規営業を止めたときも、同じ問いで決めた。当時は「ぶれたかな」と少し不安でした。でも今ならわかる。あれはぶれじゃなくて、軸がだんだん鮮明になってきたということだったんですよね。

削ぐと、いいことが連鎖します。無駄な動きが消える。無駄な経費が消える。本業に注ぐ密度が上がる。そして選択肢が減るぶん、「必要だから使う」という誘惑そのものが減っていく。予算を守りやすくなる。全部つながっているんです。

残った一点は、経営者インタビューだった

では、削ぎ落とした先に何が残ったのか。

木のテーブルに置かれた2つのコーヒーカップ
価値と価値が掛け算される瞬間の、触媒でありたい。

僕にとってそれは、経営者インタビューでした。ここが、動かない一点。他のすべての取り組みは、この一点から派生していくものだと、あらためて確認できました。

理想の形は、こうです。インタビューを通じて、経営者との良質な関係が生まれる。その関係の中から、仕事が自然に立ち上がっていく。コントリは、その出会いの場を用意する。押し売りでもなければ、紹介手数料が目的でもない。関係性から、自然に発生していく流れをつくる。

軸が定まると、支出の意味まできれいに仕分けできるようになりました。

同じ「会食」でも、意味がまるで違う。無計画に他社の経営者会に出るのは、いまの僕にとっては浪費です。削る対象。一方で、コントリが主催して、取材した経営者同士を掛け合わせる食事会なら、それは本業への投資。ちゃんと予算をとって、続ける。軸という物差しがあると、同じ行動でも「残す」と「削る」が自分で判断できる。

価値と価値が、掛け算される場所へ

コントリが本当に提供したいのは、価値と価値が掛け算される瞬間の触媒になることだと思っています。

一社に一つずつサービスを売って積み上げていく——その足し算だけでは、たどり着けない景色がある。人と人がつながって、そこから新しい価値が生まれていく。その掛け算を、量産できる場所でありたい。削ぎ落とす作業は、その一点に力を集めるための準備でした。

今日たどり着いた言葉は、「原点回帰」でした。

身の丈の経営に戻ることは、経営の原点に戻ること。予算を持つことは、お金と向き合う原点に戻ること。蓄積型の発信に集中することは、事業の原点に戻ること。インタビューから価値の掛け算へ——これは、理念の原点に戻ることでした。

僕たちの原点には、150社との関係も、252本の記事も、縁でつながった網の目も、すでにある。新しいものを積み上げる前に、原点にあるものを最大化する。次の景色は、外を探しに行くよりも、たぶん自分たちの足元のなかにあるんだと思います。

もし発信のことや、事業の広げすぎで迷っている経営者の方がいたら、一度その一点まで削ってみる価値はあると思っています。削った先に残るものが、きっとあなたの会社の本当の強みだから。

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