
ブランドとは「熱狂的なファンが生まれる状態」——1人からでも始まるブランディング論
ブランドと聞くと、多くの人はまず大企業や、誰もが名前を知っている有名商品を思い浮かべるのではないだろうか。広告予算も知名度もない中小企業、まして社員が1人や2人しかいない会社には縁のない話だと感じている経営者も少なくない。
株式会社流義の岩城博之氏は、この前提そのものを問い直す定義を語っている。岩城氏によれば、ブランド化とは規模を大きくすることでも、売上を伸ばすことでもない。熱狂的なファンが生まれている状態そのものを指すという。
この定義に立てば、1人や2人で経営する小規模な会社であっても、ブランド化は十分に可能だという。
この記事では、岩城氏が語った2つの発言を手がかりに、その意味を丁寧に読み解いていく。1つは「ブランドの定義」、もう1つは「差別化」と「独自性」という2つの概念の違いについてだ。
規模の小ささを理由にブランドを諦めていた読者には、発想を変えるきっかけとして読んでもらえたら幸いだ。
株式会社流義 岩城博之 氏
「熱狂的なファンが生まれる状態」というブランドの定義
岩城氏はブランド化を、規模や売上という指標から切り離して定義している。まずはこの発言そのものを確認し、その意味を考えたい。
岩城氏は次のように語っている。
“ブランド化というのは、単に規模を大きくしたり売り上げを上げたりすることではありません。熱狂的なファンが生まれる状態、これを私はブランドだと定義しています”
一般的に「ブランド」という言葉は、知名度や認知度の高さと結びつけて語られることが多い。テレビCMで見かける、駅の看板に掲出されている、そうした露出量の多さがブランド力だと捉えられがちである。
しかし岩城氏の定義には、露出や認知の広さという要素は含まれていない。基準として置かれているのは、あくまで「熱狂的なファンが生まれているかどうか」という一点である。
「熱狂的なファン」という言葉が指しているのは、単に商品やサービスを繰り返し利用する顧客のことではないだろう。値段や利便性の比較で他社へ切り替えられてしまうような関係ではない。その会社や商品そのものを強く支持し、周囲に薦めたくなるような感情を持った人たちのことを指していると読める。
岩城氏はここで、規模や売上という指標をあえて外している。ファンの熱量という定性的な状態を、定義の中心に置いたことには意味があるはずだ。売上や規模は、結果として後からついてくるものだ。ブランドそのものの定義ではない、という順序を示しているのだと筆者は受け止めている。
ブランドを測る物差しの転換
この定義に立つと、ブランドを測るものさしが変わってくる。売上や店舗数、従業員数といった、決算書や会社案内に載る数字でブランドを測ろうとする考え方がある。この物差しでは、規模の小さな会社は最初から不利な位置に置かれてしまう。
しかし岩城氏の定義では、そうした数字は測定の対象になっていない。測られているのは、目の前の顧客が自社に対してどれだけの熱量を持っているか、それだけである。この転換が、後段で語られる「1人や2人の会社でもブランド化は可能」という発言につながっていく。
何に投資すべきかという問い
もう一つ考えたいのは、この定義が経営者の投資判断に与える影響である。ブランドを認知の広さで測るなら、経営者が投じるべきものは広告費や露出の機会になる。しかし岩城氏の定義に従うなら、投じるべきものは顧客との関係そのものになる。
問い合わせへの対応の丁寧さ、約束を守る姿勢、顧客が困ったときに向き合う姿勢。こうした日々の積み重ねこそが、熱狂的なファンを生み出す土台になっていく。広告予算の大小とは別の場所にある、ブランド化への道筋だ。
1人や2人の会社でもブランド化できる理由
岩城氏はブランドの定義を規模から切り離した上で、小規模な会社でもブランド化は可能だと明言している。
岩城氏は次のように述べている。
“ですので、たとえ1人や2人の小規模な会社であってもブランド化は可能です”
この発言は、前段の定義と直接つながっている。ブランドの条件、それは「熱狂的なファンが生まれる状態」であること。ファンを生み出すために必要なのは、組織の人数や設備の規模ではない。ファンとの関係そのものだ。
1人で事業を営む経営者であっても、目の前の顧客と深い関係を築くことはできる。その顧客が心から支持してくれる状態を作れれば、岩城氏の定義に沿ったブランドは成立する。組織の大きさは、この条件のどこにも登場しない。
例えば、1人で運営する小さな店を考えてみる。大手チェーンのような広告予算も、多店舗展開による規模もない。
それでも、店主の考え方や仕事への向き合い方に共感し、繰り返し足を運ぶ人が増えていくことがある。その状態は、岩城氏の言う「熱狂的なファンが生まれる状態」に近づいていく。売上規模がどれだけ小さくても、この関係性自体はブランドとして成立し得る、というのが岩城氏の主張だと読み取れる。
同じことは、店舗を持たない1人事業や、社員2人で回している会社にも当てはまる。顧客の数そのものは多くならないかもしれない。
しかし、少数の顧客との関係が濃く、その顧客が離れずに支持し続けてくれる状態であればどうか。岩城氏の定義に照らしたときに、ブランドと呼べる状態はすでに成立している。ブランドの有無を決めているのは顧客の頭数の多さではなく、関係の質だという点が、この発言から読み取れる核心だと考える。
この考え方は、規模の小ささを理由にブランド化を諦めてきた経営者にとって、意味のある視点の転換になるはずだ。ブランドとは、大きな予算と組織を持つ企業だけに許された特権ではない。
1人の会社であっても、ファンとの関係を丁寧に積み重ねていけば、その先にブランドと呼べる状態が生まれる余地がある。まず取り組むべきは、目の前の顧客との関係を一つずつ丁寧に積み重ねていくことだ。筆者はこの発言を、規模で戦うことを前提にしていない経営者への、実務的な視点の提示として読んだ。
専門部署は必要条件ではない
一般的なブランディング論では、ブランドを育てるためにマーケティング部門や広報担当を置くことが前提として語られがちである。専任の担当者がいなければ、ブランドという発想自体を持ち込めないと考えている経営者もいるだろう。しかし岩城氏の発言は、この前提を静かに外している。
ブランド化に必要なのは専門部署ではなく、顧客との関係を築く経営者自身の姿勢であるという読み方が成り立つ。組織図の有無と、ブランドが成立するかどうかは、別の話だということになる。
個人事業として専門的なサービスを提供している人を思い浮かべてみる。従業員はおらず、案件ごとに1人で対応している。
それでも、依頼した相手が結果に満足し、次も同じ人に頼みたいと感じてくれる。周囲にも紹介したくなるような関係が積み重なっていけば、そこには岩城氏の言う熱狂的なファンが存在していることになる。組織の規模を条件にしないこの定義があるからこそ、こうした働き方をしている人にも道は開かれている。ブランド化という発想が、現実的な選択肢になってくる。
増員とブランド化を切り離す視点
この発言はまた、経営者が人員を増やす判断をどう位置づけるかにも関わってくる。ブランド化のために組織を大きくしなければならないという前提に立てば、採用や増員そのものが目的化しかねない。
しかし岩城氏の定義に従えば、人を増やすかどうかはブランド化の条件ではなく、あくまで事業運営上の別の判断になる。1人や2人という規模のままでも、顧客との関係を深めていくことでブランド化は進められる。そうであれば、経営者は規模拡大とブランド化を切り離して考えることができる。
「差別化」と「独自性」の違い
岩城氏はもう一つ、ブランドを考える上で欠かせない概念として「差別化」と「独自性」の違いを挙げている。
岩城氏は次のように語っている。
“『差別化』は比較の中で生まれる概念ですが、『独自性』は比較を必要としないものです”
「差別化」という言葉は、経営やマーケティングの現場で頻繁に使われる。しかし岩城氏の指摘によれば、差別化は本質的に「他社と比べてどうか」という比較の枠組みの中でしか成立しない概念である。
競合が新しいサービスを打ち出せば、それまでの差別化要素は相対的に色あせる。差別化を軸に据えた経営は、常に他社の動向を意識し続けなければならない宿命を背負うことになる。
一方で「独自性」は、比較を前提としない。他社が何をしているか、業界内でどのような立ち位置にあるかとは関係がない。自社が実際にやっているかどうか、それ自体が独自性の有無を決める。
他社と比べて優れているかどうかではない。自社の中に確かに存在しているかどうかという問いに置き換わる点が、差別化との根本的な違いだと言える。
差別化と独自性を表で比較する
この2つを表にすると、次のようになる。
| 概念 | 前提 |
|---|---|
| 差別化 | 比較の中で生まれる。他社が変われば内容も変わり続ける |
| 独自性 | 比較を必要としない。自社がやっているかどうかだけの話 |
差別化は他社の動きに応じて内容が変わり続ける。独自性は自社がやっているかどうかだけの話であり、他社の状況に左右されない。岩城氏がこの2つをあえて区別して語った背景には、経営者が比較の土俵から降りてほしいという意図があったのではないか。自社の内側に目を向けることを伝えたかったのだろう。筆者はそう考えている。
先に触れた「熱狂的なファンが生まれる状態」というブランドの定義と、この独自性という概念は、地続きのものとして捉えられる。他社と比較され続ける差別化の土俵でファンを獲得しようとすれば、比較優位が崩れた瞬間に関係も揺らぎかねない。
しかし比較を必要としない独自性に根ざした関係であれば、他社がどう動こうと揺らぎにくい。岩城氏の2つの発言は、別々の話ではなく、同じ考え方の異なる側面を語ったものだと筆者は理解している。
小規模企業にとっての実務的意味
小規模な会社にとって、この整理は実務的な意味を持つ。大企業と同じ土俵で差別化を競おうとすれば、資金力や人員の差がそのまま不利に働く。しかし独自性は、比較の土俵に乗らない分だけ、規模の差に左右されにくい。
自社が何を実際にやっているか、それを続けているかどうかという、規模とは関係のない基準で成立するものだからだ。ここでも、規模ではなくファンの熱量でブランドを測るという最初の定義と、同じ発想が流れている。
時間軸で見ても、この2つの性質の違いは大きい。差別化は競合の動き次第で価値が変わるため、維持し続けるには常に他社の動向を追い、内容を更新し続ける労力が要る。競合が同じ機能や同じサービスを持ち込んだ瞬間に、それまでの差別化要素は差別化でなくなってしまう。
一方の独自性は、他社が何をしようと、自社がそれを続けているかどうかだけが問われる。更新の必要がないわけではないが、他社の動きに追随する形での更新は要らない。この違いは、経営者が日々のエネルギーをどこに向けるべきかという判断にも関わってくる。
差別化は他社との競争、独自性は自社との対話。岩城氏の2つの発言は、この違いに集約される。
まとめ
岩城氏の定義からの示唆
- ブランドは規模ではなく、ファンの熱量で測るもの
- 1人や2人の会社でも、ブランド化は可能
- 差別化は比較に左右されるが、独自性は左右されない
- まずは、目の前の顧客との関係を一つずつ丁寧に積み重ねることから始められる
編集部コメント
今回の取材で筆者が最も注目したのは、岩城氏がブランドの定義から売上や規模という指標を意図的に外していた点だ。経営者インタビューでは、実績となる数字が語られることが多い。しかし今回語られたのは数字ではなく、「熱狂的なファンが生まれる状態」という状態そのものの定義だった。
もう一つ着目したのは、「差別化」と「独自性」という、日常的に混同されやすい2つの言葉を明確に切り分けた発言である。差別化は比較の中でしか成立せず、独自性は比較を必要としない。この整理は、経営者が自社の強みをどこに置くべきかを考える上で、具体的な判断材料になる。
岩城氏が語った「熱狂的なファンとの関係を築くこと」は、コントリが大切にしている価値観とも重なる。それはコミュニケーション(Communication)×コントリビューション(Contribution)という考え方だ。顧客と丁寧に向き合うコミュニケーションを積み重ねる。その先に、相手にとっての貢献が生まれる。そしてそれが、やがてファンとの関係になっていく。
3つの発言を並べて読むと、順番にも意味があることに気づく。最初にブランドの定義を規模から切り離し、次にその定義が小規模な会社にも当てはまることを述べる。最後に、差別化と独自性という2つの概念を分けて示す。
この順序には意味がある。規模の小さな会社の経営者が「自社にもブランド化の余地がある」と受け止める。そのうえで、次の問いに答える流れになっている。その問いとは、では具体的に何を軸にすればよいか、というものだ。取材で語られた言葉の並びそのものに、実務への橋渡しが組み込まれていたと筆者は感じている。
コントリでは今後も、規模や売上の大小にかかわらず、経営者自身の言葉からブランドや事業の本質を読み解いていきたい。そうしたインタビューをこれからも重ねていく。

