コラム

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「人手不足」と言った社長は122人中1人だった|経営者インタビュー122本の集計

「人手不足」と言った社長は、122人中1人だった|経営者インタビュー全文を数え直してわかったこと

2040年に、日本の働き手は1,100万人足りなくなる。そんな予測があります。人口の推計はほぼ確実に当たる予測ですから、これは「起こるかもしれないこと」ではなく、すでに起きることが決まっている未来です。

では、現場の経営者はこの未来をどう語っているのでしょうか。コントリはこれまで122本の経営者インタビューを公開してきました。そこで、その全文を機械的に読み直し、経営者が「人」について実際に何を語っていたのかを数えてみました。

結果は、予想と正反対でした。自社の「人が採れない」を自分の課題として語った経営者は、122人中1人だけです。代わりに語られていたのは、辞められた話でした。12人の経営者が、自分が人を失った瞬間を語っています。

要点(先に結論)

122本
集計対象の
経営者インタビュー記事
1人
自社の「人が採れない」を
語った経営者
12人
自社で人が辞めた経験を
語った経営者
8人
採用基準に理念・価値観・
人柄を挙げた経営者

まず、確定している未来の話をします

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、日本の生産年齢人口(15〜64歳)は次のように減っていきます。

15〜64歳人口高齢化率
2020年(実績)7,509万人28.6%
2030年7,076万人30.8%
2040年6,213万人34.8%
2050年5,540万人37.1%

2020年から2040年までの20年間で、働き手はおよそ1,300万人減ります。率にして17%です。リクルートワークス研究所は、この需給ギャップが2040年に1,100万人に達すると試算しています。景気による一時的な人手不足ではなく、構造的で慢性的な供給制約だという指摘です。

出生率を上げても、2035年までの働き手は1人も増えません

ここが、この問題でもっとも見落とされている点です。同研究所の推計は、出生率について高位・中位・低位の3つの仮定を置いています。そしてそのどの仮定でも、2035年までの15〜64歳人口はまったく同一になります。

理由は単純で、今日生まれた子が働き始めるのは20年後だからです。つまり少子化対策は2050年以降のための投資であって、2040年の人手不足には間に合いません。2040年までに動かせる変数は、外国人材、シニアと女性の就業、そして自動化による省人化の3つに限られます。

集計の方法と、判定の基準

2026年8月時点で公開されているカテゴリ「経営者インタビュー」の全122本を対象に、本文を取得しました。記事末尾の応募案内と会社概要欄は集計から除いています。除外後の本文は合計887,093字、1本あたりの中央値は約6,800字でした。

このうち、人材・採用に何らかの言及があったのは84本(68.9%)です。ただし機械的な抽出だけでは精度が出ませんでした。「仕事を辞めてから日課にしていた散歩」のように、社員とは無関係の文まで拾ってしまうからです。そこで該当箇所284文をすべて目視で確認し、誤検出を落としたうえで分類しています。

分類社数判定の基準
自社の人手不足・採用難を語った1社自社が人を採れない状況を経営者本人が述べている
業界・社会課題としての人手不足に言及8社自社の困りごとではなく、事業テーマや業界動向として言及
自社の定着・離職を語った12社自社の社員が辞めた、または定着している事実を述べている
採用基準に理念・価値観・人柄を挙げた8社採用の判断軸としてスキル以外を明言している
未経験者を採って自前で育てると明言5社経験者採用ではなく育成前提の方針を述べている

分類は重複を許しています。たとえば理念で採ると述べた経営者が、同時に離職の経験も語っているケースがあるためです。

「人が採れない」と言った社長は、1人だけでした

122人のうち、自社の採用難を自分の困りごととして語ったのは、埼玉県川越市のIT企業・株式会社タカインフォテクノの松本社長だけでした。好業績の理由を尋ねたときの言葉です。

最初は経験者を採用する動きでしたが、なかなか採用できないのと、あとは1人あたりの採用コストが割高なんですよね。一方、新卒は入社後の教育は必要ではありますが、採用コストは大きく下げることができます。

株式会社タカインフォテクノ 松本社長

同社は2019年に、中途中心だった採用方針を新卒採用へ大きく切り替えました。現在は年間平均で13〜14名の新卒を採用しています。そして松本社長は、直近の業績が伸びた一番の要因を「営業要員を増やしたことよりも、社員の数が増えたこと」だと明言しています。

採れないという事実に対して、採用チャネルそのものを変えた。そして人が増えたことが、そのまま売上になった。タカインフォテクノの記事は、人手不足を語った唯一の1本でありながら、その解き方まで示した1本でもありました。

語られていたのは「辞められた話」でした

一方で、自社で人が辞めた経験を語った経営者は12人いました。採用難の12倍です。しかも、その多くが会社の転換点として語られています。

医療的ケア児の支援事業を立ち上げた株式会社HABILISの池畑氏は、3人でスタートした会社で、開業からわずか1ヶ月で2人が辞めたと振り返ります。一般募集で集まったスタッフとの温度差、そしてマネジメントを学ばずに始めたことが理由でした。

ボディケア事業を展開する株式会社K-Dream1では、社長自身が怒ってしまう関わり方をした結果、1年の間に5〜6人ものスタッフが辞めたといいます。設計事務所のコラボハウス・松坂氏は、創業者の世代交代のなかで、残ってほしかった核となる人材がほとんど辞めてしまった夜を語っています。

共通しているのは、辞められた経験が経営観そのものを変えている点です。株式会社フジカンパニーの経営者は、理念を社員と共有してこなかったことに気づいたきっかけを、こう説明しています。「一緒に働いてくれていた社員さんが辞めてしまったのがきっかけです」。

統計は「何人足りないか」を語ります。しかし経営者が自分の言葉で語るのは、何人足りないかではなく、誰がいなくなったかでした。数字と実感は、どうやら別の場所にあります。

採る前に、採る側を変えた会社

不動産業の株式会社東京中央建物の三田氏は、若手が定着せず組織が高齢化していく状況に直面していました。そこで気づいたのが、採用活動そのものの構造です。

「若い人を採用しよう」という声は前からありました。でも、あるときふと思ったんです。若い人を採るには、若い人が採用活動に関わらないと意味がないんじゃないかって。年齢の近い人が社内にいない会社に、若手が入りたいと思うわけがないんですよね

株式会社東京中央建物 三田氏

採用する側の世代が変わらなければ、若手は集まらない。この気づきが社長就任の決断につながり、就任からの3年間で12名の若手採用に成功しています。求人媒体を増やすのではなく、面接に座る人間を変えたわけです。

「誰を採るか」に自分の答えを持っていた8社

採用基準について語った経営者は8人いました。全員に共通していたのは、スキルや経験を第一に置いていないことです。

全国77店舗を展開するYUZUの坪井氏は、採用を「入り口管理」と呼び、理念への共感だけは絶対に譲らないと述べています。理念を丁寧に確かめて採用した人は、5〜6年と長く残るというのが同氏の実感です。

先ほどの池畑氏も「理念への共感なき採用はしない」と明言しています。同社は看護師だけで年間約100名の応募があるものの、採用に至るのは5〜7名です。応募が集まっている会社ほど、通す基準を下げていないという構図が見えます。

介護事業の株式会社Red Bearは一次選考で価値観の一致を何より重視し、株式会社真面目はスキルマッチよりカルチャーマッチを優先すると述べています。訪問看護の渋谷氏は「事務の経験はなかったんですが、人柄を見て採用しました」と振り返ります。

未経験者を採って、自分たちで育てる5社

さらに踏み込んで、未経験者採用を方針として明言していたのが5社です。精密試作板金のツツミ産業は基本的に未経験者を採用する方針をとり、60名の社員のなかに勤続40年超が何人もいる状態を保っています。

売上91億円まで会社を立て直した斉藤氏は、電力も障害者雇用も経理も人事も、仕事のほぼすべてが未経験から始まると語ります。Red Bearに至っては、介護経験者をほとんど採用していません。思い込みのある経験者より、未経験者のほうが理念に合うという判断です。

経験者の奪い合いから降りて、自前で育てる。これは労働供給制約への対処法として、統計の議論にはあまり登場しない選択肢です。

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人手不足そのものを、事業にした会社

自社の困りごとではなく、業界の構造課題として人手不足に言及した経営者は8人いました。全員に共通するのは、その不足を解決する事業をつくっている側だという点です。

町工場のマッチングサービス「ASNARO」を展開する株式会社丸菱製作所は、統計の数字をそのまま事業計画の前提に置いていました。

団塊世代の高齢化により、2025年に全国で500万人くらい人手が足りなくなってくると言われています。製造業では60万人ほど人手不足が発生します。そのような状況において、ASNAROのようなサービスは絶対に必要になってくると考えています

株式会社丸菱製作所

ほかにも、外国人ITエンジニアの採用を支援するJOBs Japan、施工管理人材の育成を仕組み化した株式会社弘栄ドリームワークスの船橋氏などが挙げられます。船橋氏は「今、一人採用するのに50万円以上かかる時代」という前提から、人材を預かって育てる三方良しの仕組みを設計しました。

人手不足を「困りごと」として語る経営者より、「市場」として語る経営者のほうが多かった。これも、数えてみるまで気づかなかったことです。

この集計の限界

数字を出した以上、どこまで信じてよいのかも書いておきます。限界は3つあります。

1つ目は、聞いていないことは出てこないという点です。コントリのインタビューは創業のいきさつや経営哲学を伺うもので、人材課題を必ずお聞きしているわけではありません。「採れないと語ったのは1人」という数字は、実態そのものではなく、あくまで経営者が問われないまま自分から口にしたかどうかを表しています。

2つ目は、母集団の偏りです。122社はコントリに取材応募してくださった企業であり、発信に前向きな会社に大きく偏っています。別途集計した所在地の分布では、掲載企業のある都道府県は17にとどまり、30県はゼロでした。日本の中小企業全体を代表する標本ではありません。

3つ目は、判定が編集部の主観を含むことです。本文からの抽出は機械的に行いましたが、「これは自社の話か、業界一般の話か」の切り分けは人の目で判断しています。別の担当者が数えれば、1社か2社は動く可能性があります。

それでも、この3つを差し引いたうえでなお残る事実があります。問われないまま経営者が自分から語り出すのは、採用難ではなく離職だったということです。

まとめ:統計は「量」を、経営者は「誰と働くか」を語っていた

2040年に1,100万人という数字は、間違いなく重い前提です。ただ、その前提を自社の言葉に翻訳するとき、経営者が実際に使っていたのは別の語彙でした。

統計が語ること122人の経営者が語っていたこと
何人足りないか誰がいなくなったか
労働力の量を確保する理念に合う人を入り口で見極める
経験者の獲得競争未経験者を採って自前で育てる
採用手法を増やす採用に関わる人間を入れ替える

右側の列は、どれも予算をほとんど必要としません。求人媒体を増やすことでも、給与水準を引き上げることでもなく、誰を入れるかの基準と、辞めさせない関わり方を決めることです。労働供給制約という言葉の重さに比べると、拍子抜けするほど地味な話かもしれません。

ただ、122人の経営者が、聞かれてもいないのに語り出したのがそこだったという事実は、それなりの重みを持っていると私たちは考えています。人手不足という言葉で自社を語り始めたとき、本当に向き合うべきなのは採用の数ではなく、いま一緒に働いている人との関係のほうかもしれません。

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よくある質問(FAQ)

この数字は日本の中小企業の実態を表していますか

いいえ。コントリに取材応募してくださった122社という、発信に前向きな企業に偏った母集団の集計です。日本全体の統計として引用できるものではありません。

「採れないと語ったのは1人」は、人手不足が深刻ではないという意味ですか

違います。公的統計が示す労働供給制約は現実です。この集計が示しているのは、経営者が自分から語り出すときの言葉が「採れない」ではなかったという一点だけです。深刻さの度合いを測ったものではありません。

なぜ122社なのに、分類の合計が122になっていないのですか

人材・採用に何らかの言及があったのは84本で、そのうち明確に分類できたものだけを計上しているためです。また分類は重複を許しており、1社が複数の分類に入ることがあります。

2040年の1,100万人という数字の出典はどこですか

リクルートワークス研究所『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』(2023年)です。生産年齢人口の推移は国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(令和5年推計)』の出生中位・死亡中位推計によります。

出生率が上がっても働き手が増えないというのは本当ですか

はい。同推計では、出生高位・中位・低位のどの仮定でも2035年までの15〜64歳人口は同一の値になります。今日生まれた子が労働市場に入るまでに20年かかるためです。

集計の元データは確認できますか

元データは、本サイトで公開中の経営者インタビュー記事122本の本文そのものです。すべて経営者インタビューのカテゴリからご覧いただけます。

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