
中小企業の役員借入金の解消|相続リスクを抑え資金繰りを整える手順
「決算書にずっと残っている社長からの借入金、そのままで大丈夫だろうか」。ふとした瞬間に、そんな不安がよぎる経営者の方は少なくありません。
先に結論をお伝えします。役員借入金の解消策は、大きく「返済する」「免除する」「資本に振り替える」の3つに整理できます。会社の資金余力や将来の承継計画によって最適な道は変わり、税務が絡むため専門家との連携が欠かせません。放置は相続時の負担につながるため、早めに方針を決めておくことが肝心です。
本記事では、役員借入金の正体と放置リスク、3つの解消策の進め方、税務上の注意点、そして自社に合う選び方までを順に整理します。判断の全体像をつかむ一助になれば幸いです。なお、実行の際は必ず税理士へご相談ください。
役員借入金とは何か・放置するとどうなるか
役員借入金とは、社長など役員が会社に貸し付けているお金のことです。中小企業では、資金繰りを支えるために社長が自腹を入れる場面がよくあり、その積み重ねが負債として決算書に残っていくのです。まずは正体を正しくつかみましょう。
一時的には会社を助ける存在ですが、長く放置すると相続や融資の場面で負担へと転じます。良い面と悪い面の両方を知っておくことが、適切な対処の第一歩です。
役員借入金とはどんなお金か
役員借入金とは、会社から見て「役員から借りているお金」を指します。例えば、資金繰りが厳しい月に社長が個人の預金から会社へお金を入れる。この立て替えが返済されないまま残ると、役員借入金と呼ばれます。多くの中小企業で見られる、身近な負債です。
会社にとっては、金融機関のように利息や返済期限に厳しく縛られない、ありがたい資金でもあるのです。だからこそ後回しにされやすく、気づけば大きな金額になっている、というケースが目立ちます。まずは、自社の決算書にいくら残っているかを確認してみましょう。
決算書での見え方と良い面・悪い面
役員借入金は、決算書の負債の部に計上されます。決算書の見方を解説する実務動画でも、役員借入金には良い面と悪い面の両方があると整理されています。良い面は、返済を急がずに済み、資金繰りを支えてくれること。悪い面は、負債が膨らんで見えることです。
同じ金額でも、見る人によって受け取り方は分かれます。社長にとっては「いつでも返せる安心材料」でも、金融機関にとっては「返済すべき負債」として映る点に注意が必要です。この見え方の差が、後々の融資や承継に影響を及ぼす点を押さえておきましょう。
放置したまま時間が経つと起きること
役員借入金を放置している中小企業は、決して珍しくありません。実務家からも「役員借入金を放置していませんか」と注意が促されるほど、見過ごされがちなテーマです。時間が経つほど金額は積み上がり、解消にも手間がかさみます。
時間が経つほど金額は積み上がり、解消の手間も承継の負担も膨らみます
経費立替・資金補填で借入金が生まれる
社長個人のお金を会社に入れて資金繰りを回すたび、会社側には「役員からの借入金」として負債が計上されます。1回あたりは小さく、意識されないまま始まります。
返済されないまま金額が累積していく
「いつか返せばよい」と後回しにするうちに、立替が積み重なって残高は年々増加。決算書の負債が膨らみ、金融機関からの見え方にも影響し始めます。
社長個人の「貸付金」=相続財産になる
会社から見た借入金は、社長個人から見れば会社への「貸付金」。これはそのまま相続財産として評価され、額面どおり課税対象に含まれていきます。
回収できない財産に相続税がかかる
会社に返済余力がなくても、貸付金は額面で課税されます。現金化できない財産に税負担が乗り、後継者や家族に「払えない相続税」というかたちで重くのしかかります。
×放置期間が長いほど残高は大きく、解消の選択肢も狭まります。早期に手を打つほど負担は軽くなります。特に社長に万一のことがあった場合、この借入金は相続の問題として遺された家族に引き継がれます。元気なうちに手を打っておくことは、家族への思いやりの一つと言えるでしょう。
役員借入金が中小企業にもたらすリスク
役員借入金の最大の問題は、社長個人の相続財産として課税の対象になることです。加えて、金融機関の融資評価にも影響します。ここでは、見落とされがちな2つのリスクを具体的に整理します。
会社の負債であると同時に、社長個人にとっては「会社への貸付金」という資産でもある。この二面性が、相続の場面で重くのしかかってきます。
役員借入金の2大リスク
放置すると、相続と融資の両面で負担につながります
相続財産に加わり相続税の対象に
社長からの貸付金は、相続時に額面のまま相続財産へ算入されます。回収の見込みが薄くても、原則として額面で評価される点に注意が必要です。
融資評価・決算書の見た目に影響
負債が積み上がると債務超過に見え、融資審査や取引先の信用に影を落とすことがあります。実態以上に会社を弱く見せてしまう点がもったいないところです。
○ どちらのリスクも、早めに解消を進めることで軽くしていけます。
相続時に額面のまま相続財産に加わる
社長が会社に貸しているお金は、社長側から見れば「貸付金」という財産です。そのため、相続が発生すると額面のまま相続財産に算入され、相続税の対象です。会社の経営状態が苦しくても、原則として貸付金は額面で評価される点が要注意です。
役員借入金にかかる相続税を扱う実務解説でも、この論点は見落とされやすいと指摘されています。「回収できる見込みのない貸付金にまで税金がかかるのか」と驚く経営者の方も少なくありません。相続を見据えるなら、早めの整理が家族の負担を軽くします。
金融機関の融資審査での見られ方
融資の場面でも、役員借入金は評価を左右します。金融機関によっては、役員借入金を「実質的な自己資本」と前向きに見る場合もあれば、負債として厳しく見る金融機関もあるのです。融資に不利になるかどうかは、会社の状況しだいで分かれます。
大切なのは、決算書がどう読まれるかを意識することです。役員借入金の扱い方ひとつで、融資の通りやすさが変わることすら起こり得ます。金融機関と良好な関係を築くうえでも、借入金の整理は前向きに検討する価値があるでしょう。
債務超過に見えてしまう決算書のリスク
役員借入金が積み上がると、負債が資産を上回る「債務超過」に見えてしまうことも起こり得ます。実際には社長個人からの借入なので、外部への返済に追われるわけではありません。それでも、決算書の見た目が悪いと、取引先や金融機関の信用に影を落とします。
見た目の数字が、実態以上に会社を弱く見せてしまう。これは中小企業にとって、もったいない状況です。解消を進めることで、決算書は実態に近い健全な姿へと近づいていきます。
役員借入金を解消する主な方法
役員借入金の解消策は、大きく「返済する」「免除する」「資本に振り替える」の3方向に整理できます。それぞれ効果も税務上の扱いも異なるため、自社の状況に合わせて選ぶことが大切です。まずは全体像を俯瞰しましょう。
役員借入金の解消方法は複数あり、状況に応じて使い分ける必要があると、税務実務の解説でも語られています。一つの正解を探すより、自社に合う入口を見つける発想が役立ちます。
解消の3つの方向性(返済・免除・資本化)
3つの方向性を、まず大づかみに理解しましょう。「返済」は会社から役員へお金を返す方法、「免除」は役員が貸付金を放棄する方法、「資本化」は借入金を資本金に振り替える方法です。それぞれ資金の動きも税務も違います。
主な解消策の特徴を、下の表に整理しました。
| 解消策 | 内容 | 向く状況 | 主な留意点 |
|---|---|---|---|
| 返済 | 会社から役員へ少しずつ返す | 資金に余力がある | 資金繰りとの両立 |
| 債務免除 | 役員が貸付金を放棄する | 返済が難しい | 法人税・贈与税の論点 |
| DES(資本化) | 借入金を資本金へ振り替える | 財務体質を改善したい | 株価・課税の専門判断 |
いずれの方法も、税務が絡む点は共通です。表はあくまで概観として捉え、実行前には専門家の確認を挟みましょう。
方法ごとのメリットと向く状況
返済は最も分かりやすく、税務リスクも小さい一方、資金余力が前提です。免除は資金を使わず解消できる反面、税務が複雑です。資本化は財務体質の改善につながりますが、専門的な判断を要します。それぞれ一長一短があり、万能の策は存在しません。
私が経営者の方への取材を重ねるなかでも、「返済から始めて、残りを別の方法で整理した」というように、複数の策を組み合わせた事例をたびたび伺ってきました。当社としても、一つの方法にこだわらず柔軟に考える姿勢が大切だと捉えています。
着手前に確認しておきたい前提
どの方法を選ぶにせよ、着手前に確認すべき前提が存在します。現在の借入金の正確な残高、会社の資金余力、今後の承継予定。この3点を整理するだけで、進むべき方向が見えやすくなるはずです。数字を把握しないまま動くのは避けたいところです。
まずは顧問税理士とともに、自社の現状を棚卸ししてみましょう。国税に関する基本的な考え方は、国税庁のタックスアンサーでも確認できます。土台を固めてから、具体策の検討へ進むのが安全です。
返済で解消する場合の進め方と注意点
最も分かりやすい解消策が、会社から役員へ少しずつ返済する方法です。税務上の論点も比較的シンプルで、着手しやすい選択肢と言えます。ただし資金繰りとのバランスが欠かせません。ここでは無理なく進める段取りを解説します。
急いで一度に返そうとすると、会社の資金が細ってしまいます。あくまで本業を守りながら、少しずつ進める発想が大切です。
役員報酬を調整して返済原資を作る
返済の原資をどう作るかが、最初の論点です。一つの考え方が、役員報酬の一部を返済に充てる形です。報酬として受け取る代わりに、会社からの借入返済という形で受け取れば、実質的な手取りを保ちながら借入金を減らせます。
ただし、役員報酬の設定には税務上のルールが関わってくるのです。安易に変更すると、思わぬ課税を招きかねません。報酬と返済のバランスは、税理士と相談しながら設計するのが安全です。数字の裏付けを持って進めましょう。
資金繰りを崩さない返済ペースの決め方
返済ペースは、資金繰り表とにらめっこして決めます。無理のない金額を毎月コツコツ返す。この地道な積み重ねが、いつしか大きな解消へと結びつきます。返済で解消する場合、原資は利益や資産の取り崩しなどから生まれます。
借入金の返済原資には複数の種類があると、資金繰りの実務解説でも整理されています。自社にとってどの原資が現実的かを見極め、本業を圧迫しない範囲で計画を立てましょう。焦らず、続けられるペースが結局は近道です。
返済時に記録・議事録で残しておくこと
返済を進める際は、記録を残すことが欠かせません。いつ、いくら返したかを帳簿に正確に反映し、必要に応じて議事録も整えます。あいまいな処理は、後の税務調査で問題になりかねません。きちんとした記録こそ、自社を守る盾です。
手間に感じられる作業ですが、後々の安心につながります。日々の丁寧な積み重ねが、いざというときに効いてきます。
債務免除・DES(資本化)で解消する方法と税務
返済が難しい場合、借入金を免除する、または資本に振り替えるという選択肢があります。ただし、いずれも法人税・所得税・相続税が関わるため、慎重な判断が必要です。ここでは仕組みと税務上の論点を整理します。
これらの方法は効果が大きい反面、税務の落とし穴も潜みます。自己判断で進めず、必ず専門家と歩調を合わせることが前提になります。
債務免除(債権放棄)の仕組みと課税の論点
債務免除とは、役員が「会社への貸付金を放棄する」ことで、会社の借入金を消す方法です。資金を動かさずに負債を減らせる点が魅力です。しかし、ここに税務の論点が絡みます。会社側では債務免除益が生じ、法人税の対象になる場合があります。
債務免除
発生
株価が上昇
同族会社で債務免除を行う場合、法人税・所得税・相続税が複雑に関わると実務でも解説されています。株価の変動を通じて他の株主に贈与税が生じることもあり、単純に「免除すれば終わり」とはいかない点に注意が必要です。
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは何か
DESとは、役員の貸付金を会社の資本金に振り替える手法のことです。デット(負債)をエクイティ(資本)に交換するため、この名前で呼ばれます。負債が減り、自己資本が増えるので、財務体質は見た目にも実質的にも改善します。
ただし、資本金が増えることで、税負担や株主構成に影響が出ることもあります。借入金の評価額と資本への振替額の差など、専門的な論点も伴います。財務改善の効果は大きいものの、慎重な設計が求められる手法です。
税務リスクを避けるための専門家との進め方
債務免除もDESも、税務リスクと隣り合わせです。だからこそ、税理士など専門家と二人三脚で進めることが欠かせません。自社の株主構成や資産状況を踏まえ、どの方法がどれだけの税負担を生むかを、事前にシミュレーションしておくと安心です。
専門家に相談する際は、直近の決算書や借入金の推移を整えて持参すると、話が早く進みます。準備を整えて臨むことが、的確な助言を引き出す近道です。丸投げではなく、二人三脚の姿勢で臨みましょう。
自社に合う解消策の選び方と専門家の活用
解消策に唯一の正解はなく、会社の資金状況や将来設計によって最適解は変わります。ここでは自社に合う方法を見極める判断軸と、専門家の上手な活かし方をお伝えします。
大切なのは、他社の成功例をそのまま真似ないことです。自社の数字と将来像に照らして、地に足のついた選択をしていきましょう。
資金余力・承継予定から選ぶ判断軸
選択の軸は、シンプルに2つです。「資金に余力があるか」と「事業承継を予定しているか」。資金余力があれば返済が第一候補、余力が乏しければ免除や資本化が視野に入ります。承継を控えるなら、相続への備えを優先した設計が求められます。
この2軸で自社を位置づけると、検討すべき方法が絞られます。あれこれ迷う前に、まず自社がどの象限にいるかを確かめましょう。判断の軸を持つことが、迷いのない一歩につながります。
自社に合う解消策の見取り図
「資金余力」×「承継予定」の2軸で、向く解消策を整理しました
↑ 資金に余力あり
資金余力あり × 承継予定なし
返済で着実に
余力を活かし、無理のないペースで返済を進めるのが基本です。
資金余力あり × 承継予定あり
返済+計画的整理
相続を見据え、返済に資本化なども組み合わせて早めに整えます。
資金余力乏しい × 承継予定なし
資本化を検討
資金を使わず財務体質を改善するDES(資本化)が視野に入ります。
資金余力乏しい × 承継予定あり
免除・資本化を専門家と
税務が複雑なため、税理士と課税関係を確認しながら進めます。
← 承継予定なし / 承継予定あり →
○ いずれの象限でも、実行前には税理士など専門家への確認が前提です。
税理士に相談するタイミングと準備
税理士への相談は、早ければ早いほど選択肢が広がります。金額が固まってからではなく、「解消を考え始めた」段階で一度相談するのがおすすめです。準備としては、直近数期の決算書と、役員借入金の残高推移をそろえておくとよいでしょう。
顧問税理士がいない場合は、事業承継や財務に強い専門家を探す好機でもあります。相性の良い専門家との出会いは、会社の未来を支える財産になります。ご縁を大切に、信頼できる相談相手を見つけていきましょう。
早めに手を打つことで広がる選択肢
役員借入金の解消は、時間を味方につけるほど有利になります。返済も資本化も、計画的に進めるほど税負担や資金繰りの調整がしやすくなるからです。逆に、相続が目前に迫ってからでは、打てる手が限られてしまいます。
早めの相談が、選択肢を広げます
決算書を前に、信頼できる専門家と二人三脚で。
思い立った今こそ、解消の検討を始めるときです。
「まだ先のこと」と思わず、思い立った今こそ動きどきです。小さな一歩が、数年後の大きな安心へとつながっていきます。焦らず、しかし先延ばしにせず、着実に整えていきましょう。
よくある質問(FAQ)
役員借入金は放置しても問題ないのでしょうか?
当面の返済義務がなく資金繰りを助ける面もありますが、放置には注意が必要です。社長の相続時には貸付金として相続財産に算入され、相続税の対象になり得ます。金融機関の評価を左右する場面も少なくありません。早めに解消の方針を立てておくと安心です。
役員借入金を解消する一番わかりやすい方法は何ですか?
会社に資金余力があれば、役員へ少しずつ返済していく方法が分かりやすい選択肢です。役員報酬を調整して返済原資を確保する形が一般的です。ただし資金繰りを崩さないペース設定が欠かせません。状況によっては、免除や資本化のほうが向くケースも見られます。
債務免除をすると税金がかかると聞きました。本当ですか?
債務免除(債権放棄)を行うと、会社側で債務免除益が生じ法人税の対象になる場合があります。さらに株価の変動を通じて他の株主に贈与税が生じるなど、複数の税が関わる点に注意が必要です。実行前に必ず税理士へ相談し、課税関係を確認することをおすすめします。
DES(資本化)とはどのような方法ですか?
DESとは、役員が持つ貸付金(会社にとっての借入金)を、会社の資本金に振り替える手法です。負債が減り財務体質が改善する一方、株価や課税に関わる論点をはらみます。専門的な判断を伴うため、税理士など専門家と進めることが前提です。
解消策はいつ検討し始めるのがよいですか?
早く動くほど、打てる手は豊富です。特に事業承継や相続を見据える場合、時間をかけて計画的に返済や資本化を進められると、税負担や資金繰りの調整がしやすくなるはずです。金額が大きいほど対応に時間がかかるため、思い立った時が検討の始めどきです。
編集部より
役員借入金の解消について、リスクから具体策までを整理してきました。取材の現場で経営者の方々と対話するなかで感じるのは、会社を守るために自ら資金を入れてきた社長の想いは、いつか家族への課題として遺るという現実です。
だからこそ、元気なうちに、そして少しでも早く手を打つことが、会社と家族の両方への思いやりになります。一人で抱え込まず、信頼できる専門家と歩みながら、着実に整えていく。その一歩が、未来の安心を形づくります。この記事が、その最初のきっかけになれば嬉しく思います。
あわせて、中小企業の事業承継を円滑に進める準備、決算書の読み方と経営判断への活かし方、金融機関と良い関係を築く資金調達の考え方もご覧いただけたら幸いです。

