暗黙知の形式知化とは|職人技を数値化し品質を安定させる

暗黙知の形式知化とは|職人技を数値化し品質を安定させる

「あの人にしかできない」という仕事が、社内にありませんか。その職人技が、会社の強みであると同時に、悩みの種になってはいないでしょうか。

暗黙知とは、勘や経験のように言葉にしにくい知識のことです。形式知とは、手順や数値のように人へ伝えられる形にした知識を指します。暗黙知の形式知化とは、その言葉にしにくい技術を、誰もが再現できる形へと見える化する取り組みです。ベテランの「これくらい」という感覚を、数値やチェック項目に置き換えるイメージだと捉えてください。

本記事では、暗黙知と形式知の違い、形式知化の3つのメリット、職人技を数値で管理する建設会社の実例を解説します。あわせて、進め方の4ステップも順にたどっていきましょう。属人化にお悩みの経営者の方の、次の一手のヒントになれば幸いです。

暗黙知と形式知とは|違いと、なぜ形式知化が必要なのか

暗黙知とは、勘や経験のように言葉にしにくい知識です。形式知とは、手順や数値のように人へ伝えられる形にした知識を指します。両者の違いは「他人が再現できるかどうか」にあります。形式知化が必要な理由は、一人に依存した技術が会社の弱点にもなり得るからです。

多くの企業様が、熟練者の技術という財産を持っています。その一方で、その技術が本人の頭の中だけにある状態には、静かなリスクがひそんでいます。まずは言葉の意味と、中小企業にとっての必要性を整理していきましょう。

暗黙知と形式知の違い 定義・伝わりやすさ・具体例・再現性の4つの観点で比較
観点 暗黙知 形式知
定義 個人の経験や勘に根ざし、言葉にしにくい知識 手順書や数値など、言葉や図で表せる知識
伝わりやすさ 本人にしか分からず、共有に時間がかかる 読めば伝わり、短時間で共有できる
具体例 熟練職人の手の感覚、ベテランの目視判断 チェックリスト、測定値による合否基準
再現性 △〜× 人によって差が出やすい 誰がやっても同じ結果に近づく
※ 出典: コントリ経営者インタビュー「株式会社アケボノ 細田健一氏」2025年

暗黙知とは何か(言葉にしにくい勘や経験)

暗黙知とは、本人は使いこなせるのに、言葉ではうまく説明できない知識です。長年の経験で身についた勘や、体で覚えたコツがこれにあたります。

例えば、ベテランの職人は「この生地は、これくらいこねれば大丈夫」と手の感触だけで見極めます。営業担当者が顧客の表情から「今日は引くべきだ」と察するのも、同じ類の技術でしょう。どちらも確かな腕前ですが、マニュアルには書かれていません。本人に「どうやっているのですか」と尋ねても、「なんとなく」としか返ってこないことも多いでしょう。この「なんとなく」の正体こそ、暗黙知なのです。

一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱した「SECIモデル」でも、暗黙知は組織の知的創造の出発点として位置づけられています。つまり暗黙知は、決して価値の低いものではありません。むしろ会社の競争力の源泉となる、貴重な財産だと考えられます。

形式知とは何か(手順・数値で伝えられる知識)

形式知とは、手順書や数値、図解のように、他人へ伝えられる形にした知識です。文章やデータになっているため、本人がいなくても内容が伝わります。

先ほどの生地をこねる例で言えば、「材料を投入後、7分間こねる」と数字で示したものが形式知です。「生地の温度は26度を目安にする」も、同じ発想でしょう。感覚だった判断が、数字や手順という共通の言葉へと変わります。こうなれば新人でも同じ品質に近づけますし、複数の人が同じ基準で仕事を進められるのです。

形式知化とは、暗黙知を形式知へ変換していく作業そのものを指します。すべての勘を数値に変えるのは、たしかに難しいものです。それでも品質を左右する要素を一つずつ言葉にすれば、技術は会社の共有財産へと育っていきます。

属人化が進むと会社が抱えるリスク

属人化とは、特定の業務がある一人の担当者にしかできない状態のことです。この状態が進むと、その人が休んだり退職したりした瞬間に、業務が止まってしまいます。

私自身、多くの経営者の方とお話しするなかで、「あのベテランが辞めたら、うちは回らない」という不安を何度も伺ってきました。技術を持つ人がいてくれるうちは安心です。しかし、その安心は一人の存在に会社の品質がぶら下がっている状態とも言えます。急な退職、体調不良、あるいは定年。きっかけは、いつ訪れるか分かりません。

品質が担当者によってばらついたり、新人がなかなか育たなかったり、忙しい人に仕事が集中したりします。こうした症状が出ているなら、属人化のサインだと考えられます。技術やノウハウの継承は、中小企業庁も中小企業の重要課題として繰り返し取り上げてきたテーマです。だからこそ、暗黙知を形式知へ変える取り組みが必要になってくるのです。

暗黙知を形式知化する3つのメリット

形式知化の効果は、品質の安定・技術継承・生産性向上の3つに集約されます。一人の職人に依存していた技術を、共有できる形へ変えることで、会社全体の力が底上げされるからです。ここでは、その3つを順に見ていきましょう。

メリットを具体的にイメージできると、「うちでもやってみよう」という一歩につながります。数値で品質を管理する建設会社の例も交えながら、実務に引きつけて解説します。

形式知化がつくる好循環 3つのメリットがつながり、会社全体を底上げする
循環の先にあるもの 会社全体の
底上げ
1 品質の安定 基準が数値で共有され、誰が担当しても仕上がりのばらつきが小さくなる
2 技術継承 熟練者のノウハウが手順として残り、若手が短期間で戦力になる
3 生産性向上 迷いや手戻りが減り、確認や教育にかかる時間そのものが縮まる
品質の安定 技術継承 生産性向上 また品質が安定する

品質が人に左右されず安定する

形式知化の最大のメリットは、品質が担当者によってばらつかなくなることです。誰が担当しても同じ基準で判断できるため、仕上がりが安定します。

塗装や施工のように、仕上がりが職人の腕に左右されやすい仕事ほど、この効果は大きく表れます。前述の株式会社アケボノでは、塗料の厚みを数値で測ることで、品質を人に依存させない仕組みをつくりました。ベテランでも新人でも、測定値が基準を満たしていれば合格。判断の物差しが同じになるわけです。

これは、お客様への説明力にも直結します。「しっかり塗りました」という言葉より、「基準値をクリアしています」という数値のほうが、はるかに納得を得やすいものです。同社が数値で信頼と受注を得ている経緯は、株式会社アケボノ・細田健一氏へのインタビュー記事で語られています。

技術の継承が早まり、育成がしやすくなる

形式知化は、技術継承のスピードを大きく引き上げます。手順や基準が言葉になっていれば、新人は「見て盗む」だけに頼らず、体系立てて学べるからです。

暗黙知のまま伝えようとすると、育成は熟練者の背中を見せる時間との勝負になります。数年がかりになることも珍しくありません。一方、判断のポイントが形式知になっていれば、新人はまず基準を理解し、そのうえで感覚を磨いていけます。学びの土台があるぶん、成長の階段を上りやすくなります。

ベテランの負担が軽くなるのも見逃せない点です。同じ質問に何度も答える手間が減り、熟練者は本来の高度な仕事に集中できます。育てる側と育つ側の双方にとって、無理のない継承へと近づいていくでしょう。

ムダが減り、生産性と信頼が高まる

形式知化は、手戻りや確認の手間を減らし、生産性を押し上げます。基準が明確なら、やり直しや「これで合っているか」という迷いが減るためです。

判断に迷う時間、後から発覚するミスの修正、担当者ごとの品質差によるクレーム対応。こうした見えにくいムダは、積もると大きなコストになります。基準が形式知として共有されていれば、その多くを未然に防げるのです。結果として、納期の安定やコスト削減という形で成果が見えてきます。

さらに、数値という根拠が顧客からの信頼を厚くします。品質を客観的に示せる会社は、選ばれる理由を持っているものです。形式知化は、単なる社内整理にとどまらず、受注の武器にもなるのです。こうした受注力を土台に、価格決定権を持つ立場へ移る進め方は、下請けからの脱却で整理しています。

【実例】職人技を数値で管理する建設会社の品質づくり

形式知化は、製造業やIT企業だけの話ではありません。埼玉県熊谷市の株式会社アケボノは、目視に頼りがちな塗装の品質を数値で管理し、職人技を見える化しています。中小企業が暗黙知を形式知へ変えた、生きた実例です。

塗装・防水・大規模修繕を手がける同社の細田健一代表は、独自の品質管理を実践されています。経営者への取材を重ねるなかでも、印象に残る取り組みでした。その中身を具体的に見ていきましょう。

勘・目視から、数値で判定する品質管理へ 塗装の膜厚を測定機器で数値化し、誰が見ても同じ基準で合否を判断する
暗黙知 勘・目視で判断 塗り具合を職人の経験と目で確認。判断が人に依存し、根拠を残しにくい
形式知 膜厚を数値で判定 測定機器で塗装の厚みを計測し、基準値と照らして合否を判断。記録も残る
塗装・防水・大規模修繕を手がける株式会社アケボノ(埼玉・熊谷)では、膜厚を測定機器で数値化する品質管理を実践。感覚に頼っていた判断を、誰もが確認できる数値へと置き換えています。 ※ 出典: コントリ経営者インタビュー「株式会社アケボノ 細田健一氏」2025年

塗料の厚みを「膜厚測定」で数値化する

株式会社アケボノは、塗料の厚みを「膜厚測定」で数値化し、塗装品質を管理しています。膜厚とは、塗った塗料の厚みのことです。膜厚測定とは、その厚みを専用の機器で数値として測る手法を指します。

塗装は、塗料が適切な厚みで塗られて初めて、期待される耐久性を発揮します。薄すぎれば早く劣化し、厚みが足りているかどうかは、見た目だけでは分かりにくいものです。そこで同社は、「きれいに塗れた」という感覚ではなく、厚みという数値で仕上がりを確かめるやり方を採り入れました。目視という主観を、測定値という客観へと置き換えたわけです。ここに、形式知化の本質が表れています。

テスト鉄板と基準値で合否を判定する

同社は、テスト用の鉄板に塗装したものを持ち帰り、厚みを測定して合否を判定します。現物を測ることで、施工の品質を後からでも客観的に確認できる仕組みです。

感覚での「たぶん大丈夫」ではなく、基準値を満たしているかどうかで判断する点が要になります。合格ラインが数値で決まっているため、誰が確認しても結論は変わりません。これはまさに、暗黙知を形式知へ変えた品質保証の形といえるでしょう。お客様に対しても、「この基準をクリアしています」と根拠を示せるわけです。数値の裏づけがある説明は、信頼を静かに、しかし確実に積み上げます。

なお、具体的な基準となる数値は、施工内容や仕様によって変わってきます。自社で取り入れる際は、扱う工事に合った基準づくりが出発点になるでしょう。

土木の手法を建物修繕に応用した発想

同社の膜厚測定は、もともと土木工事で使われていた手法を、建物の修繕に応用したものです。異なる分野の知恵を持ち込むことで、業界では目視が主流だった品質管理を、数値管理へと進化させました。

私がこの話を伺って感じたのは、形式知化のヒントは、案外すぐ隣の分野に眠っているということです。すでに数値で管理されている領域の手法を、勘に頼っていた自社の工程へ持ち込んでみましょう。それだけで、業種を問わず応用が利きます。「自分たちの業界では無理だ」と思い込む前に、他分野の物差しを借りられないかを考えてみる価値があります。ここに、中小企業ならではの機動力という強み。細田代表の取り組みは、そう教えてくれます。

暗黙知を形式知化する4ステップ

形式知化は、対象の洗い出し→観察と言語化→基準づくり→共有と更新という順で進めると無理がありません。すべてを一度に文書化しようとせず、品質やリスクに直結する技術から着手するのがコツです。

大切なのは、完璧を目指して立ち止まらないことです。小さく始めて、使いながら育てる姿勢が定着への近道になります。4つのステップを、順にたどっていきましょう。

暗黙知を形式知化する4ステップ 小さく始めて、使いながら育てる。順番にたどれば無理なく進められる
1 属人化業務の洗い出し 「あの人しかできない」仕事を書き出し、まず形式知化する対象を絞り込む
2 熟練者の観察と言語化 ベテランの手順や判断の理由を隣で観察し、言葉にして引き出す
3 基準づくり 言語化した内容を数値やチェック項目に落とし込み、合否の基準を決める
4 共有と更新 現場で使ってもらい、気づいた点を反映して基準を少しずつ育てていく

ステップ1:属人化している業務を洗い出す

最初のステップは、属人化している業務の洗い出しです。特定の人しかできない業務や、品質・安全に直結する技術を書き出すことから始めます。

いきなりすべてを対象にすると、どこから手をつけてよいか分からなくなります。まずは「この人が抜けたら困る」業務を、思いつくままにリストアップしてみましょう。そのうえで、優先順位をつけていきます。品質のばらつきが大きい工程、事故につながりやすい作業、負荷が集中している業務などが候補です。影響の大きいものから着手すると、労力に見合った効果が得られます。

ステップ2:熟練者の動きを観察し言葉にする

次のステップは、熟練者の動きを観察し、言葉にすることです。本人が無意識に行っている判断やコツを、外から見て拾い上げていきます。

暗黙知は、本人に聞くだけでは引き出せないことが多いものです。「なぜここで力を抜くのですか」「どこを見て判断していますか」と、作業を見ながら具体的に問いかけてみてください。動画で撮影して一緒に振り返るのも有効な方法です。ここで拾った「実は温度を手で確かめていた」といった気づきが、後の基準づくりの材料になります。熟練者への敬意を持って寄り添う姿勢が、良い言語化を生みます。

ステップ3:数値やチェック項目で基準をつくる

3つ目のステップは、観察で得た内容を、数値やチェック項目という基準に落とし込むことです。判断のポイントを、誰もが確認できる形へ変えていきます。

「ちょうどよい厚み」を「測定値〇〇以上」に、「きれいな仕上がり」を「チェック項目5点合格」に置き換えていきます。株式会社アケボノの膜厚測定は、まさにこの発想の実践例です。すべてを数値化できないときは、チェックリストや写真見本を併用するのも良いでしょう。合否の線引きが共有されれば、判断は人から仕組みへと移ります。

ステップ4:共有し、現場で使いながら更新する

最後のステップは、つくった基準を現場で共有し、使いながら更新していくことです。基準は一度つくって終わりではなく、運用しながら磨いていくものです。

現場で使ってみると、「この項目は分かりにくい」「ここは基準が厳しすぎる」といった声がきっと出てきます。その声を反映し、少しずつ改善を重ねましょう。使われないマニュアルは、存在しないのと同じです。現場が「これは役に立つ」と感じてこそ、形式知は定着します。育てる前提で運用に乗せることが、形式知化の成功へとつながっていくのです。

形式知化でつまずかないための注意点

形式知化の失敗は、完璧なマニュアルを目指しすぎることと、現場に浸透しないことの2つに集約されます。使いながら育てる前提で、まず一部から始めることが、定着への近道です。

せっかくの取り組みを空回りさせないために、あらかじめ知っておきたい落とし穴があります。3つの注意点を押さえておきましょう。

形式知化でつまずく3つの落とし穴 先回りで知っておけば、自社の進め方を落ち着いて点検できる
1
完璧なマニュアルを目指しすぎる 作り込むほど手間がかかり、完成した頃には現場と合わず、更新もされないまま放置される 回避のヒント: 7割の完成度で公開し、使いながら直す前提で始める
2
現場が使えない粒度になる 細かすぎる、あるいは専門的すぎて、実際に手を動かす人が読んでも動けない 回避のヒント: 使う人が「これなら分かる」と言える言葉と細かさに合わせる
3
すべてを言語化しようとする 経験でしか身につかない領域まで無理に文字化しようとして、労力の割に進まなくなる 回避のヒント: 暗黙知に残る領域があると認め、数値化できる部分から着手する

最初から完璧なマニュアルを目指さない

形式知化でつまずく典型は、最初から完璧な文書をつくろうとすることです。網羅性を求めすぎると、完成しないまま計画が立ち消えになります。

分厚いマニュアルを一気につくろうとすると、作業量に押しつぶされてしまいます。それよりも、影響の大きい技術を一つ形式知にして、現場で使ってみるほうが、ずっと前に進むはずです。小さな成功体験こそが、次への意欲を生みます。完成度は、運用しながら少しずつ高めていけばよいのです。

現場が使える粒度に落とし込む

形式知は、現場が実際に使える細かさに落とし込むことが肝心です。詳しすぎても、大まかすぎても、現場では活用されません。

専門用語ばかりの文書や、逆にざっくりしすぎた説明は、どちらも使われずに眠ります。新人が読んで、その場で動ける粒度を目安にしましょう。実際に現場の人に読んでもらい、「これで分かるか」を確かめる工程が欠かせません。作り手の自己満足ではなく、使い手の目線で仕上げることが定着を左右します。

暗黙知のすべてが言語化できるわけではない

大切な前提として、暗黙知のすべてが言葉になるわけではありません。長年の経験で培われた感覚には、どうしても数値化しきれない領域が残ります。

だからといって、形式知化に意味がないわけではないのです。品質や安全に直結する部分を形式知に変えるだけでも、会社の安定感は大きく変わります。言語化できる部分は仕組みに任せ、感覚に頼る部分は熟練者の力に委ねます。この両輪で品質を支える発想が現実的です。完全な言語化を追い求めるより、できる範囲から着実に進めることを大切にしてください。

よくある質問(FAQ)

暗黙知と形式知の違いを、ひとことで教えてください。

暗黙知は、勘や経験のように言葉にしにくい知識です。ベテラン職人の「これくらいの厚み」という感覚が、その代表例です。形式知は、手順や数値のように人へ伝えられる形にした知識を指します。暗黙知を形式知へ変えることで、その技術は他の人にも再現可能となるのです。

職人技のような感覚的な技術も、本当に形式知化できますか?

すべてを完全に言語化できるわけではありませんが、多くは数値や基準に置き換えられます。塗装の厚みを膜厚測定で数値化する建設会社の例が、その好例です。感覚で判断していた部分を測定値に変えれば、品質を人に左右されず安定させられます。まずは品質に直結する部分から着手するのが現実的でしょう。

形式知化は何から始めればよいですか?

属人化している業務の洗い出しから始めます。特定の人しかできない業務や、品質・安全に直結する技術を優先しましょう。熟練者の動きを観察して言葉にし、数値やチェック項目で基準をつくります。最初から完璧を目指さず、現場で使いながら更新していく進め方が定着につながります。

形式知化を進めると、ベテランの居場所がなくなりませんか?

そのような心配はいりません。形式知化は、ベテランの技術を奪うものではなく、負担を軽くし、より高度な仕事へ集中してもらうための取り組みです。基準づくりや後進の育成において、熟練者の知見はむしろ主役になります。感覚でしか判断できない領域は、これからも熟練者の力が支えます。両者は補い合う関係だと捉えてください。

小さな会社でも形式知化に取り組めますか?

十分に取り組めます。むしろ人数の少ない中小企業ほど、一人への依存が経営リスクに直結しやすいため、形式知化の価値は大きいといえるでしょう。埼玉県の建設会社が土木の手法を応用したように、身近な工夫から始められます。専任の担当者がいなくても、影響の大きい業務を一つ選んで着手すれば、それが確かな一歩になるのです。

編集部コメント

細田代表のお話を伺っていて、私はある一言に心を動かされました。目に見えない品質を、数値という共通の言葉へと翻訳されていたのです。その姿勢の奥には、お客様に対する誠実さと、職人への深い敬意が同時に流れていました。

暗黙知の形式知化と聞くと、どこか無機質で、職人の個性を消してしまう作業のように感じる方もいるでしょう。けれども実際は逆でした。技術を見える化することは、その技術がどれほど価値あるものかを、あらためて社内外へ示す営みだったのです。

「あの人にしかできない」を、「私たちにできる」へ。その一歩は、けっして大がかりなものでなくてかまいません。まずは、いちばん頼りにしている技術を一つ、言葉にするところから始めてみましょう。小さな見える化の積み重ねが、会社の未来を静かに、しかし確かに支えていきます。あなたの会社に眠る宝物のような技術が、次の世代へと受け継がれていくことを、心から願っています。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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