
無印良品のビジネスモデル|ノーブランドとSPAで稼ぐ仕組み
良いものをつくっている自負はあるのに、最後は値段で比べられてしまう。そんな悩みを、経営者の方から伺うことは少なくありません。
無印良品のビジネスモデルとは、品質に関係しないコストを削り、その分を品質と価格に回すSPA(製造小売業)です。SPAとは、企画から製造・販売までを自社で担う形を指します。
運営する良品計画の2025年8月期は、営業収益7,846億円、営業利益738億円でした。どちらも過去最高です(同社決算短信)。いまでは店舗数でも利益でも、海外事業が国内と並ぶ柱です。
本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートを材料に、2026年9月時点の公式発表と照合してまとめたものです。収益構造、海外で稼ぐ構造、商品開発と業態の広がり、ユニクロ・ニトリとの違いを順に見ていきます。
最後に、中小企業が自社に置き換えるための4つの問いを用意しました。値下げ以外で選ばれる道を考える手がかりになれば幸いです。
無印良品のビジネスモデルとは|削ったコストを品質と価格に回すSPA
無印良品のビジネスモデルは、商品の企画・製造・販売を一社で担うSPAです。ロゴや広告、過剰な包装など、品質に関係しないコストを削ってきました。
SPAとは、自社で企画した商品を自社の店で売る業態のことです。例えば、パン屋が自分で小麦を選び、焼いて、店頭で売る形を思い浮かべてください。問屋を通さない分、値段も品質も自分で決められます。
この章では、誕生の経緯、「これでいい」という考え方、そして数字で見た現在地を順に押さえます。
品質に関係しないコスト
- ブランドロゴ
- 派手な広告
- 過剰な包装
- 工程のムダ
良品計画のSPA
企画・製造・販売を自社で一貫
粗利率51.4%
2025年8月期
お客様に届く価値
- 品質
- 適正な価格
出典:良品計画「ものづくりの基本となる考え方」、同社2025年8月期決算短信(2025年10月)
1980年、40品目の西友プライベートブランドとして誕生
無印良品は1980年、西友のプライベートブランドとして生まれました。最初の商品は、家庭用品9品目と食品31品目の計40品目です。
構想したのは、当時セゾングループを率いた堤清二氏でした。ロゴとデザインはアートディレクターの田中一光氏、言葉はクリエイティブディレクターの小池一子氏が担います。名前は「ノーブランドグッズ」を日本語にしたもので、掲げたコピーは「わけあって、安い。」でした。
1989年に株式会社良品計画として西友から独立し、1991年にはロンドンに海外1号店を出しています。ブランドを主張しないことを、最初から事業の設計に組み込んでいた点を押さえておきたいところです。
「これがいい」ではなく「これでいい」という考え方
無印良品が目指すのは、「これがいい」という強い好みではありません。「これでいい」という、納得のうえで選ばれる満足です。
「これがいい」は、ほかの選択肢を押しのける強い主張を含みます。一方の「これでいい」には、必要なものを冷静に見極める理性が働いている。同社はこの違いを、ブランドの考え方の中心に据えてきたのです。
この考え方は、単なる美学にとどまりません。何を足すかではなく何を削るかを決める、商品づくりの判断基準として働いています。広告に頼らないブランドの育て方は、姉妹記事の「無印良品のブランド戦略と広告」で詳しく扱っています。本記事では、その考え方がどう収益に結びつくかに絞って見ていきます。
数字で見る良品計画の現在地|2025年8月期
良品計画は、2024年8月期と2025年8月期に続けて過去最高益を更新しました。2026年8月期も、7月に通期予想を上方修正しています。
| 決算期 | 営業収益 | 営業利益 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2023年8月期 | 5,814億円(+17.2%) | 331億円(+1.1%) | 同社決算短信 2024年10月 |
| 2024年8月期 | 6,616億円(+13.8%) | 561億円(+69.4%) | 同社決算短信 2025年10月 |
| 2025年8月期 | 7,846億円(+18.6%) | 738億円(+31.5%) | 同社決算短信 2025年10月 |
| 2026年8月期(予想) | 9,070億円(+15.6%) | 980億円(+32.7%) | 2026年7月の上方修正後 |
2025年8月期末の店舗数は、国内683・海外729の計1,412店です。2026年5月末には国内708・海外755まで増えました(流通ニュース 2026年7月)。
2026年8月期の第3四半期累計(2025年9月〜2026年5月)も好調です。営業収益は6,908億円で16.9%増、営業利益は808億円で36.0%増でした。会社はこれを受け、通期予想を営業収益9,070億円、営業利益980億円へ引き上げています。
経営者の挑戦と決断のストーリーを、インタビューでお届けしています。
無印良品の収益構造|粗利51.4%を支えるSPAと3つの原則
良品計画の2025年8月期の売上総利益率は51.4%です(同社決算短信)。自社で商品を企画し、原価と売値を自分で決められることが、この水準を支えています。
売上総利益率とは、売上から商品の原価を引いた「粗利」が、売上に占める割合のことです。1,000円の商品で原価が490円なら、粗利率は51%。仕入れた商品を売る小売業では、なかなか届かない水準と言えます。
ここでは、SPAの仕組み、創業から続く3つの原則、そして近年の値付けの転換を順に見ていきます。自社の粗利をどう守るかを考えるうえでも、手がかりの多い章です。
素材の選択
規格外品や端材も活かし、ムダを減らす
工程の点検
紙の漂白工程を省き、生成りのベージュ色をそのまま使う
包装の簡略化
必要な情報を商品に直接印刷し、箱や二重包装を省く
出典:良品計画「ものづくりの基本となる考え方」
SPAとは|企画から販売までを自社で担う
SPAの強みは、「何をつくり、いくらで売るか」を自分で決められることにあります。仕入れた商品を売る小売業では、原価も仕様もメーカー次第です。
良品計画の店に並ぶのは、衣服・雑貨、生活雑貨、食品まで、自社で企画した商品です。そのため、素材や工程を見直せば、その効果がそのまま粗利に表れます。
2025年8月期の決算短信は、利益率が改善した理由を2つ挙げました。生産体制の内製化による原価低減と、海外での値下げ率の抑制です。つくる工程にも売る値段にも手が届くSPAだからこそ、両方を同時に動かせました。
同じSPAでも、衣料に絞って規模を追う会社もあります。比較の視点は、「ユニクロのビジネスモデル」とあわせて読むとつかみやすいでしょう。
素材の選択・工程の点検・包装の簡略化
無印良品のものづくりには、1980年から変わらない3つの原則があります。「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」です(良品計画 公式サイト)。
例えば、紙の原料のパルプを漂白する工程を省くと、紙はうすいベージュ色になります。無印良品は、その色をパッケージやラベルにそのまま使ってきました。工程が一つ減れば、手間もコストも減ります。
包装も同じ考え方です。必要な情報を商品そのものに印刷すれば、箱や二重の包装はいりません。
ここで見落とせないのは、削ることが、そのまま「無印らしさ」になっている点です。一般的なコスト削減は、品質や見た目を犠牲にしがちです。無印良品の場合は、削るほどブランドの輪郭がはっきりしていく。理念と収益の仕組みが、同じ方向を向いているわけです。
値下げを抑え、適正価格へ|粗利を立て直した転換
無印良品は、長く「値下げで売り切る」ことに頼ってきた時期がありました。2021年に社長に就いた堂前宣夫氏のもとで、その方針が改められます。
同社は価格改定と値下げの抑制を進めました。2024年8月期の営業利益は、前期比69.4%の増加です(流通ニュース 2024年10月)。2025年8月期も、海外での値下げ率の抑制が粗利の改善に効いています。
円安と輸送費の上昇が重なった2022年8月期は、営業収益が伸びても営業利益は前期から減っていました。安さを守るために利益を削るのか、適正な値段に改めて品質を守るのか。同社は後者を選んだことになります。
経営体制はその後、2024年11月に清水智氏へ社長が交代しました。堂前氏は会長を経て、2025年11月に退任しています(日本経済新聞 2025年8月)。値付けを見直した判断は、新しい体制にも引き継がれたと言えるでしょう。
海外で稼ぐ無印良品|店舗数も利益率も海外が支える
2025年8月期末の店舗数は国内683、海外729で、海外が国内を上回っています。利益率でも、中国大陸を中心とする東アジア事業が19.3%と、国内の11.1%を大きく上回りました(同社決算短信 2025年10月)。
無印良品の成長は、いまや国内だけでは語れません。2025年8月期の営業収益のうち、海外3事業の合計は約4割を占めます(同社決算短信から編集部が算出)。
ここでは、海外展開の歩み、東アジア事業の稼ぐ力、そして2028年8月期に営業収益1兆円超えを目指す計画を順に整理します。「日本の暮らしの道具」が、なぜ海外でこれほど稼げるのか。数字から読み解いていきます。
セグメント利益率(利益 ÷ 営業収益)
出典:良品計画 2025年8月期決算短信(2025年10月10日)。利益率は同短信の数値から編集部が算出
海外店舗が国内を上回る|1991年ロンドンから729店へ
無印良品の海外展開は、1991年のロンドンから始まりました。飾り気のない日本の生活用品が、欧州でも受け入れられたことが出発点です。
その後、中国大陸、台湾、韓国、東南アジアへと広がります。2025年8月期は、海外で75店を出し28店を閉じ、729店になりました(同社決算短信)。中国大陸では、店を閉じて新しく出し直す入れ替えも積極的に進めています。
店を増やすだけでなく、効率の悪い店を閉じる判断も並行している。出店と閉店の両方を動かしている点に、成長の質へのこだわりが表れています。
東アジア事業の利益率19.3%|国内を上回る稼ぎ頭
2025年8月期の東アジア事業は、営業収益2,222億円、セグメント利益428億円でした。利益率に直すと19.3%で、国内事業の11.1%を約8ポイント上回ります。
注目したいのは、海外3事業のセグメント利益の合計です。東アジア428億円、東南アジア・オセアニア56億円、欧米69億円を足すと553億円になります。国内の521億円を、すでに上回っている計算です(決算短信の数値から編集部が合算)。
この傾向は、2026年8月期も変わりません。第3四半期累計の東アジア事業は、営業収益2,128億円(29.3%増)です。利益は454億円と、39.6%伸びました(流通ニュース 2026年7月)。売上は国内、利益の伸びは海外という役割分担が、はっきり見えてきました。
2028年8月期に営業収益1兆800億円を目指す中期経営計画
良品計画は2025年10月、2028年8月期を最終年度とする中期経営計画を公表しました。営業収益1兆800億円、営業利益率10%を目標に掲げています(日本経済新聞 2025年10月)。
同社は2021年、2030年8月期に売上高3兆円という長期目標も示していました(繊研新聞 2021年7月)。今回の計画は、まず1兆円を確実に超えるための中間地点という位置づけです。
営業収益7,846億円・営業利益738億円
いずれも過去最高
営業収益9,070億円・営業利益980億円
2026年7月に上方修正
営業収益1兆800億円・営業利益率10%
2025年10月発表
売上高3兆円
2021年に公表
出典:同社決算短信(2025年10月)、流通ニュース(2026年7月)、日本経済新聞(2025年10月)、繊研新聞(2021年7月)
計画の柱は、海外での出店と、国内で磨いた売り場の型を海外へ広げることです。パリやベトナムなどへの旗艦店の出店も報じられています(日本経済新聞 2025年10月)。一度立て直しを迫られた欧州で、改めて足場を固める構えです。
あなたの会社の強みを、
伝わる言葉にしませんか。
想いや現場知がうまく伝わらない——そんな経営者の言語化から発信までを、取材ベースで伴走支援しています。
お客様と一緒につくる商品開発と、暮らし全体への広がり
無印良品は、お客様の声を商品づくりに取り込む仕組みを早くから整えてきました。扱う領域も、生活雑貨から食品、住宅、ホテルへと暮らし全体に広がっています。
商品を売る場から、暮らしを試せる場へ。店の形を広げるほど、お客様との接点が増え、声も集まりやすくなります。その声が、また次の商品に生きる循環です。規模の大小を問わず、まねしやすい部分でもあります。
ここでは、声を集める仕組み、業態の広がり、生活圏への出店という3つの面から、お客様との接点の増やし方を見ていきます。
無印良品500
500円以下の日用品・消耗品が約7割。駅など生活動線に出店
MUJI HOTEL
銀座で開業。泊まることで無印良品の暮らしを体験できる
無印良品の家
住宅事業。長く住み継げる家を提案
Café&Meal MUJI
素材の味を活かした食事を提供するカフェ・レストラン
出典:良品計画 ニュースリリース(2022年9月)ほか同社公表情報
くらしの良品研究所|年約8,000件の声を検討
「くらしの良品研究所」は、お客様の声をものづくりにつなげる同社の窓口です。中心となる「IDEA PARK」には、週150件、年間8,000件余りの要望が寄せられます。
日経クロストレンドの報道によると、研究所のスタッフは毎週、寄せられた声のすべてに目を通します。そのうえで商品部へ送る案件を選び、検討の進み具合をサイト上で公開してきました。
よく知られる例が「体にフィットするソファ」です。お客様の意見を受けて改良を重ねた経緯が公開され、声が商品に反映される様子が見えるようになりました。声を集めるだけでなく、どう扱ったかを返す。この往復こそが、お客様を「一緒につくる人」に変える仕掛けです。
無印良品500・MUJI HOTEL・無印良品の家
無印良品が広げてきたのは、商品だけではありません。店の形もです。狙いは、暮らしのさまざまな場面でお客様と出会う接点を増やすことです。
「無印良品500」は、2022年9月に1号店を三鷹駅の駅ビルに開いた小型店です。500円以下の日用品・消耗品が品ぞろえの約7割を占めます(良品計画 2022年9月リリース)。新しい商品を開発せず、既存の商品から選んで並べるため、開発コストをかけずに新しいお客様と出会えます。
2019年4月には、銀座に「MUJI HOTEL GINZA」が開業しました。泊まることで無印良品の暮らしを体験できる場です。住宅の「無印良品の家」も含め、モノを売る場から、暮らしを試せる場へと接点を広げてきました。
生活圏への出店と地域との連携
国内の出店は、郊外の生活圏が中心です。2025年8月期は国内で71店を出し、11店を閉じました(同社決算短信)。
同社は2021年の中期経営計画で、食品スーパーの隣への出店を広げる方針を示しています(繊研新聞 2021年7月)。毎日の買い物のついでに立ち寄れる場所に店を置く。日用品や食品の比重が高い無印良品らしい出店の考え方です。
店舗を拠点に、地域の生産者を招いたマルシェや、自治体との連携にも取り組んでいます。こうした活動は、社会貢献にとどまらず出店戦略と一体で進められてきました。地域に根づくことが、店の売上を支える土台にもなる。そう考えられているのです。
ユニクロ・ニトリとの違い|同じSPAでも選ばれる理由が違う
ユニクロ、ニトリ、無印良品は、いずれも自社で企画・製造・販売を担うSPAの代表例です。ただ、何を旗印にお客様に選ばれているかは、3社で大きく異なります。
同じ製造小売でも、訴えるものが違えば、商品の幅も店の形も変わります。ユニクロは衣料に絞り込み、ニトリは物流まで自社で抱えてきました。無印良品は、あえて領域を絞らずに広げてきた会社です。その違いは、お客様が店に何を期待して来るかにも表れます。
比較表で違いを整理したうえで、無印良品に残る課題にも触れます。
| 比較項目 | 無印良品 | ユニクロ | ニトリ |
|---|---|---|---|
| 主な商品領域 | 衣服・生活雑貨・食品・住まいまで横断 | ベーシック衣料に特化 | 家具・インテリア |
| 選ばれる理由 | 「これでいい」という価値観 | ヒートテック等の機能性 | 価格と品ぞろえ |
| 強みの源泉 | 3つの原則による引き算の商品づくり | 素材開発と大量生産 | 自社物流まで含む一貫体制 |
| 店舗の考え方 | 生活圏・駅近の中小型店が中心 | 都市部と郊外の大型店 | 郊外の大型店と都市型店 |
出典:各社公表資料、コントリ編集部 研究ノートをもとに整理(定性比較)
3社の比較|機能・価格・価値観
3社の違いを一言でまとめると、ユニクロは機能、ニトリは価格、無印良品は価値観です。
ユニクロの軸は、ヒートテックのような機能性の高いベーシック衣料です。ニトリは、製造から物流、販売までを自社で抱え、家具という大きな商品でも価格を抑える体制を築いています。
これに対して無印良品は、衣服から食品、住まいまでを「これでいい」という一つの考え方で束ねています。商品の幅は広いのに、どれを見ても無印良品だとわかる。この一貫性こそ、他の2社と最も違う点です。
在庫効率という残された課題
一方で、無印良品に課題がないわけではありません。代表的なのが、在庫の効率です。
扱う品目が幅広いため、店舗を増やすほど在庫が膨らみやすい構造があります。ダイヤモンド・オンラインは、在庫を利益に変える効率でニトリに及ばないと分析してきました。
ただし、足元では改善の兆しも見えます。2025年8月期末の在庫(商品)は1,698億円で、前期末から10.5%の増加でした(同社決算短信)。営業収益の伸び18.6%を下回っており、売上ほどには在庫が増えていません。
値下げを抑える方針と、在庫の管理は表裏一体です。今後も注目したい指標と言えます。
無印良品のビジネスモデルはなぜ真似されにくいのか
シンプルな商品は、形だけなら他社でもつくれます。それでも無印良品が40年以上、独自の立ち位置を保てているのは、考え方と仕組みが噛み合っているからです。
私たちコントリ編集部が研究ノートを読み解くなかで、見えてきた理由が3つあります。考え方が判断基準になっていること、現場の知恵を仕組みで残していること、そして前提を見直す判断を先送りしないことです。
個別の施策は真似できても、この3つが噛み合った状態は簡単には再現できません。順に見ていきましょう。
「これでいい」という考え方
何を足すかではなく、何を削るかを決める出発点
削る基準が決まる
装飾・包装・工程を、同じ物差しで判断できる
3つの原則でムダを削る
素材の選択・工程の点検・包装の簡略化
品質と適正価格に回す
値下げ頼みにせず、価値で選ばれる
声と仕組みで磨く
くらしの良品研究所とMUJIGRAMで改善を重ねる → STEP1へ戻る
コントリ編集部 研究ノートをもとに作成
考え方が「何を削るか」の判断基準になっている
1つ目は、「これでいい」という考え方が、日々の判断基準として働いていることです。
多くの会社では、理念と商品づくりが別々に語られがちです。無印良品では、「この装飾は必要か」「この包装はいるか」を、同じ考え方で判断できます。理念が壁に貼られた言葉ではなく、原価を決める物差しになっているのです。
形だけを真似た商品は、どこを削りどこを残すかの基準を持っていません。そのため、結局は「安いだけ」か「シンプル風なだけ」になりやすい。基準ごと真似ることは、簡単ではありません。
MUJIGRAMで現場の知恵を仕組みとして残す
2つ目は、現場の知恵を仕組みとして残す力です。その代表が、店舗運営のマニュアル「MUJIGRAM」です。
2001年に社長に就いた松井忠三氏は、38億円の赤字からの立て直しを任されました。そこで取り組んだのが、人によってばらばらだった仕事のやり方の標準化です。店舗向けのMUJIGRAMは約2,000ページ、本部向けの「業務基準書」は約7,000ページです(2018年9月時点)。出典は、日本マイクロソフトの業界別ブログに掲載された松井氏の講義録です。
マニュアルと聞くと、決まりで縛るものを想像する方も多いでしょう。MUJIGRAMは、現場の気づきを取り込んで更新し続ける点に特徴があります。ベテランの頭の中にある知恵を、誰でも使える形に変える。店が海外へ広がっても品質を保てる土台は、ここにあります。
値付けを見直す判断を先送りしない
3つ目は、事業の前提そのものを見直す判断を、先送りしないことです。
前の章で見たとおり、同社は長く続いた値下げ頼みの売り方を改めました。安さで知られてきた会社にとって、値上げは顧客離れの不安と隣り合わせです。それでも適正価格に切り替え、2024年8月期から2期連続で過去最高益につなげています。
キーエンスは直販とファブレスを、セブンイレブンは加盟店との契約の形を磨き続けてきました。強い会社は、稼ぎ方の前提を見直し続けます。メルカリも、急成長した新規事業を短期間で閉じる判断をしています。詳しくは「キーエンスのビジネスモデル」「セブンイレブンのビジネスモデル」「メルカリのビジネスモデル」で整理しています。
中小企業が無印良品から持ち帰れる学び|自社に置き換える4つの問い
良品計画は営業収益7,846億円の大企業ですが、学びの多くは規模を問いません。削る基準を持つ、値下げ以外で選ばれる、お客様の声を受け止める、地域に根を張る。
大がかりな投資は必要ありません。むしろ社員の顔が見える規模のほうが、考え方を行き渡らせやすい面もあります。社長の一言が、翌日には現場の動きに変わる距離だからです。
最後に、自社に置き換えるための4つの問いを整理しました。どれも、今週の会議で1つ取り上げられる大きさです。問いごとに「最初の一手」も添えたので、そのまま会議の議題に使えます。
自社には「削る基準」があるか
最初の一手:やめても品質が落ちない作業や装飾を3つ書き出す
値下げ以外で選ばれる理由を言えるか
最初の一手:直近の受注3件で、選ばれた理由をお客様に聞く
お客様の声を受け止め、返す仕組みがあるか
最初の一手:届いた要望への対応と見送り理由を、月1回まとめて伝える
地域の暮らしに根を張れているか
最初の一手:お客様の生活動線を地図に書き出す
コントリ編集部作成
問い1|自社には「削る基準」があるか
無印良品の強さの出発点は、何を削るかの基準を持っていることでした。中小企業でも、この基準は言葉にできます。
例えば、見積書に毎回つけている資料、誰も読んでいない月次報告、お客様が気にしていない過剰な梱包。やめても品質が落ちないものを3つ書き出してみてください。その3つに共通する理由が、自社の「削る基準」の原型です。
削って浮いた時間やお金を、どこに回すかも同時に決めておきましょう。無印良品が品質と価格に回したように、お客様に届く価値に戻すことが肝心です。
問い2|値下げ以外で選ばれる理由を言えるか
無印良品は、値下げ頼みの売り方をやめても利益を伸ばしました。選ばれる理由が、安さ以外にあったからです。
自社がなぜ選ばれているのかは、実は社内よりお客様のほうがよく知っています。直近で受注した3件のお客様に、「なぜうちに決めていただいたのか」を聞いてみてください。取材の場でも、お客様の答えが社長の想定と違っていたというお話を伺うことがあります。
お客様の言葉で語られた選ばれる理由は、値付けを見直すときの根拠になります。
問い3|お客様の声を受け止め、返す仕組みがあるか
くらしの良品研究所の特徴は、声を集めることより、どう扱ったかを返すことにありました。
中小企業なら、仕組みは小さくて構いません。届いた要望や相談を1枚にまとめ、「対応したこと」「見送ったことと理由」を月1回お客様に伝える。それだけで、お客様は「聞いてもらえた」と感じます。
見送った要望こそ、理由を添えて返すことが肝心です。断られた理由がわかれば、お客様は次の要望も寄せてくれます。私たちは、断った理由まで届くかどうかが、関係が続くかどうかの分かれ目だと考えています。声を返すことは、ご縁を深める行為でもあるのです。
問い4|地域の暮らしに根を張れているか
無印良品は、食品スーパーの隣など、毎日の生活動線に店を置いてきました。
自社のお客様は、ふだんどこで何をしているでしょうか。お客様の生活動線を地図に書き出すと、接点を置くべき場所が見えてきます。地域の行事への参加や、近隣の事業者との協業も立派な接点です。
大企業が時間をかけて築いてきた地域との関係を、中小企業は顔の見える距離でつくれます。規模が小さいことは、ここでは強みになるはずです。ビジネスモデルの型を広く見比べたい方は、「ビジネスモデル一覧」も参考にしてください。
まとめ|無印良品のビジネスモデルの要点
無印良品のビジネスモデルは、「これでいい」という考え方を物差しに、品質に関係しないコストを削り、品質と価格に回すSPAです。要点は次の3つに集約できます。
1つ目は、自社で企画・製造・販売を担い、売上総利益率51.4%を確保していること。2つ目は、利益率19.3%の東アジア事業を筆頭に、海外が利益の柱に育っていること。3つ目は、値下げ頼みをやめ、適正価格へ切り替える判断を下したことです(数値は2025年8月期決算短信)。
2028年8月期には営業収益1兆800億円を目指しています。規模は違っても、削る基準を持ち、値下げ以外で選ばれる理由をつくる考え方は、中小企業にもそのまま持ち帰れます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 無印良品のビジネスモデルを一言で言うと何ですか?
A. 企画から製造・販売までを自社で担うSPA(製造小売業)です。ロゴや広告、過剰な包装など品質に関係しないコストを削り、その分を品質と価格に回しています。
Q2. 無印良品はどこで一番稼いでいますか?
A. 営業収益は国内事業が最大で、2025年8月期は4,701億円でした。一方、利益率は東アジア事業が19.3%と国内の11.1%を上回ります。海外3事業のセグメント利益を合わせると、国内を上回る水準です。
Q3. 無印良品はなぜ品質を保ちながら価格を抑えられるのですか?
A. 自社で企画・製造・販売を担うため、問屋などの中間コストがかからないからです。加えて、素材の選択・工程の点検・包装の簡略化という3つの原則でムダを削っています。2025年8月期の売上総利益率は51.4%でした。
Q4. 無印良品とユニクロ・ニトリのビジネスモデルの違いは?
A. 3社ともSPAです。ユニクロは機能性のあるベーシック衣料で、ニトリは物流まで含めた一貫体制による価格で選ばれる会社と言えます。無印良品は、衣服から食品、住まいまでを「これでいい」という価値観で束ねている点が違います。
Q5. 良品計画の今後の目標は?
A. 2028年8月期を最終年度とする中期経営計画の目標は、営業収益1兆800億円、営業利益率10%です。2026年8月期は、営業収益9,070億円、営業利益980億円を見込んでいます(2026年7月の上方修正後)。
Q6. 中小企業が無印良品から学べることは何ですか?
A. 何を削るかの基準を言葉にすること、値下げ以外で選ばれる理由をつくることです。お客様の声を受け止めて返す仕組みや、地域の暮らしに根を張る出店の考え方も参考になります。
参考資料
- 株式会社良品計画|IR情報
- 株式会社良品計画|2025年8月期 決算短信(2025年10月10日)
- 株式会社良品計画|ものづくりの基本となる考え方
- 株式会社良品計画|新業態「無印良品 500」を開始(2022年9月)
- 流通ニュース|良品計画 決算/9~5月は2桁の増収増益、通期予想を上方修正(2026年7月)
- 流通ニュース|良品計画 決算/8月期営業収益・各段階利益ともに過去最高を更新(2025年10月)
- 流通ニュース|良品計画 決算/8月期営業収益13.8%増、価格改定・値下げ抑制などで利益改善(2024年10月)
- 日本経済新聞|「無印良品」1兆円企業へ海外で稼ぐ 欧州はパリ旗艦店で再挑戦(2025年10月)
- 日本経済新聞|良品計画の株価13%高 営業収益1兆円超え目指す中期経営計画好感(2025年10月)
- 日本経済新聞|良品計画、堂前会長が退任(2025年8月)
- 繊研新聞|良品計画 地域密着型の個店経営加速 2030年に売上高3兆円目指す(2021年7月)
- 日経クロストレンド|良品計画「くらしの良品研究所」、年8000件の要望すべてを検討
- 日本マイクロソフト 業界別ブログ|松井忠三氏 誌上講義(2018年9月)
本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートをもとに、2026年9月時点で上記の公開情報を照合して作成しました。記事中の数値は、それぞれの出典が公表・報道した時点のものです。2026年8月期の通期決算は、2026年10月に公表される予定です。
編集部より
研究ノートをまとめるなかで印象に残ったのは、決算短信が利益改善の理由に「値下げ率の抑制」を挙げていたことでした。安さで知られた会社が、値下げをしないことを成果として語っている。値付けの考え方を、数字の説明の中で正面から示した一文でした。
もう一つは、「くらしの良品研究所」が、声を集めるだけでなく検討の進み具合を公開していた点です。お客様の声を受け止めて返す。その往復は、コントリが経営者の方とのご縁を通じて大切にしてきた「聞いて、言葉にして返す」ことと重なります。
自社で「当たり前」に続けている作業のうち、お客様の価値につながっていないものは何でしょうか。まずは3つ、紙に書き出してみてください。
あなたの経営の歩みを、
次の挑戦者へ届けませんか。
判断の背景や試行錯誤こそ、同じ立場の経営者に届く価値があります。取材から記事化まで編集チームが伴走します。
- 取材・構成・執筆をまるごと支援
- 経営者の言葉を活かした記事化
- 掲載後の発信・活用まで相談可能

