コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

人件費率の計算方法|5%の賃上げで営業利益が3割消える理由

人件費率の計算方法|5%の賃上げで営業利益が3割消える理由

「来期は全員の給与を5%上げたい」。そう考えたとき、会社の利益がどれだけ減るかを即答できるでしょうか。

人件費率は「人件費÷売上高×100」で計算します。売上1億円の会社が給与・賞与と社会保険料で3,450万円を払っているなら、人件費率は34.5%です。人件費には、会社が負担する社会保険料(法定福利費)も含めます。

経営者が見るべきなのは計算の先です。この会社が営業利益率5%のまま給与を5%上げると、営業利益は3割以上減ります。元に戻す道は、売上を345万円増やすか、価格を約1.7%上げるかの二つです。

本記事では、計算式と含める費目、労働分配率との違いを押さえたうえで、賃上げが利益に与える影響と取り戻し方を整理しました。判断の材料になれば嬉しく思います。

人件費率とは|売上のうち何%を人に払っているか

人件費率とは、売上高に占める人件費の割合です。売上100円のうち何円を、給与や社会保険料として人に払っているかを示します。分母が「売上高」である点が、よく似た指標の労働分配率との違いです。

人件費率と労働分配率の違い分母が売上高か、付加価値かで読み方が変わる
指標計算式分母の意味向いている使い方
人件費率人件費 ÷ 売上高 × 100売上全体。仕入れや外注も含んだ金額自社の月次推移を追う
労働分配率人件費 ÷ 付加価値 × 100自社で生み出した価値(売上から外部への支払いを引いた額)業種をまたいで比べる・賃上げ余力を見る
労働分配率(簡易法)人件費 ÷ 粗利 × 100粗利(売上総利益)で付加価値を代用中小企業が試算表から手早く計算する
中小企業では付加価値の代わりに粗利で計算する簡易法が広く使われています。

人件費率の計算式

計算式は「人件費率(%)=人件費÷売上高×100」です。たとえば年間売上が1億円で、人件費が3,000万円なら人件費率は30%です。月次なら、その月の人件費をその月の売上で割るだけです。

注意したいのは、賞与や社会保険料が毎月均等には出ていかない点です。賞与月だけ人件費率が跳ね上がり、翌月は下がって見えます。月次で追うなら、賞与を12で割って毎月に配分しておくと、数字のぶれが小さくなります。

年に一度だけ見るなら、決算書の数字で十分です。試算表とは、毎月の売上や経費を集計した月次の決算書のようなもので、顧問税理士から毎月受け取っている会社も多いはずです。ただ、人件費率の変化に早く気づくには、毎月の試算表で追うほうが確実です。

人件費率と労働分配率の違い

労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、人件費に回した割合のことです。付加価値とは、売上から外部に払った仕入れや外注費などを引いた「自社で生み出した価値」を指します。中小企業では、付加価値の代わりに粗利(売上総利益)で計算する方法が広く使われています。

違いが出るのは、仕入れの多い会社です。売上1億円のうち仕入れが8,000万円の卸売業と、仕入れがほとんどないサービス業を比べます。同じ人件費3,000万円でも、重さはまったく違います。人件費率はどちらも30%ですが、粗利で割った労働分配率は卸売業が150%、サービス業は30%強です。

卸売業の側は、粗利以上に人件費を払っている計算です。人件費率だけを見ていると、この危うさに気づけません。

どちらを見ればいいか

自社の月次推移を追うなら人件費率、他社比較や賃上げ余力の確認には労働分配率が向いています。人件費率は売上さえわかればすぐ出せるため、毎月の確認に使いやすい指標です。

一方、賃上げの判断には労働分配率が欠かせません。粗利のうち人に回せる割合には上限があり、それを超えると利益が残らないためです。2つを並べて見ると、仕入れの比率の影響まで読み取れます。

労働分配率の考え方は、YouTubeでも財務の専門家が繰り返し取り上げています。辻朋子氏のチャンネルでは「人件費率と労働分配率の違い」を計算式から解説しており、両者を並べて見る意味が伝わってきます。

人件費率の計算方法|人件費に含めるものと計算例

人件費率を正しく出すには、人件費に何を含めるかを先に決める必要があります。給与だけで計算すると、法定福利費(給与の約15%)の分だけ人件費が小さく出ます。社会保険料の会社負担分が抜けるためです。

人件費に含める5つの費目

人件費に含めるのは、会社が人を雇うことで払っている費用すべてです。決算書や試算表の勘定科目でいうと、中心は次の5つです。

  1. 給与手当(正社員・パート・アルバイトの給与)
  2. 賞与
  3. 法定福利費(社会保険料・労働保険料の会社負担分)
  4. 福利厚生費(社員旅行、慶弔費、健康診断など)
  5. 退職金・退職給付費用

役員報酬を含めるかどうかは、目的で分けてください。中小企業は役員報酬の比重が大きく、含めるかどうかで数ポイント変わります。会社全体の実態を見るなら含め、社員の給与水準を見るなら除くのがおすすめです。

一方、外注費や派遣料は人件費に含めないのが一般的です。ただし、外注を増やした年は人件費率が下がって見えます。前年と比べるときは、外注費を足した数字も併せて見ておくと、判断を誤りにくくなります。

法定福利費は給与の約15%

法定福利費とは、法律で会社に負担が義務づけられている社会保険料などのことです。健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・子ども子育て拠出金があり、いずれも給与に料率をかけて計算します。

主な料率は次のとおりです。厚生年金保険料率は18.3%で、会社と社員が半分ずつ負担します(日本年金機構)。協会けんぽの健康保険料率は令和8年度で東京都9.85%、こちらも折半です(全国健康保険協会)。

令和8年4月分からは、子ども・子育て支援金0.23%も加わりました。雇用保険料の会社負担は1%弱です(厚生労働省)。これらの会社負担分を合計すると、法定福利費は給与の約15〜16%になります。40歳以上の社員には介護保険料の負担も加わります。

主な費目の会社負担を、給与に対する割合で一覧にしました。

保険の種類料率(令和8年度)会社負担(給与比)出典
厚生年金保険18.3%9.15%日本年金機構 保険料額表(2026年度)
健康保険(協会けんぽ・東京都)9.85%約4.93%全国健康保険協会 令和8年度保険料率(2026年3月分〜)
子ども・子育て支援金0.23%約0.12%全国健康保険協会(2026年4月分〜)
雇用保険・労災保険・子ども子育て拠出金業種により異なる約1.5%厚生労働省 雇用保険料率(2026年度)ほか
合計(40歳未満の社員)-約15.7%上記の合計(編集部試算 2026年11月)

売上1億円の会社での計算例

実際の数字で計算してみます。ここからはモデルケースとして、売上1億円、社員20人、給与・賞与の総額が3,000万円の会社です。法定福利費を給与の15%として450万円、福利厚生費は今回は省きます。

人件費は3,000万円+450万円で3,450万円です。人件費率は3,450万円÷1億円×100で34.5%です。給与だけで計算すると30%なので、4.5ポイントの差が出ます。

この会社の粗利率を50%とすると、粗利は5,000万円です。労働分配率は3,450万円÷5,000万円で69%と出ます。以下、本記事ではこの会社を例に計算を進めます。

モデルケースの損益構造売上1億円・社員20人の会社(単位:万円)
売上高10,000万円
売上原価−5,000万円
粗利5,000万円
人件費−3,450万円
その他経費−1,050万円
営業利益500万円
人件費率34.5%3,450万円 ÷ 1億円
労働分配率69%3,450万円 ÷ 粗利5,000万円
営業利益率5%500万円 ÷ 1億円
人件費3,450万円=給与・賞与3,000万円+法定福利費450万円(給与の15%)。本記事の計算はすべてこのモデルケースで行っています。

Excelでの計算式

毎月の試算表から人件費率を出すなら、Excelで表を作っておくと手間がかかりません。A列に月、B列に売上高、C列に給与・賞与、D列に法定福利費、E列に福利厚生費を入力します。

F列に人件費、G列に人件費率を入れ、G列の表示形式をパーセントにします。粗利をH列に入れれば、労働分配率も同じ表で求められます。

2行目に入れる式は、上からF2(人件費)、G2(人件費率)、I2(労働分配率)の順です。

=C2+D2+E2
=F2/B2
=F2/H2

12か月分を並べると、賞与月の跳ね上がりや、売上が落ちた月の人件費率の上昇がはっきり見えます。前年同月と並べる列を足しておくと、変化の理由を探しやすくなります。

人件費率の目安|業種で大きく違う理由

人件費率の適正値は、業種によってまったく違います。仕入れの多い業種ほど人件費率は低く、人が価値をつくる業種ほど高くなるのが自然です。他社の平均と比べるより、自社の推移と労働分配率を見るほうが判断を誤りにくくなります。

業種で人件費率の水準が違う理由仕入れの比率と、人の時間が商品になる度合いで決まる
縦軸:仕入れ・外注の比率が高い / 低い 横軸:人の時間の比重が低い → 高い
卸売・小売売上の多くが仕入れに消えるため、人件費率は低く出やすい
飲食食材費と人件費を合わせたFL比率で原価と一緒に管理する
装置型の製造業設備費の比重が大きく、人件費より減価償却費などが重い
サービス・コンサル・介護人の時間が商品のため、人件費率は高く出やすい
上段=仕入れ・外注の比率が高い業種、下段=低い業種。具体的な業種平均は規模や外注の使い方で大きく変わるため、自社の推移で判断します。

仕入れの比率が人件費率を左右する

人件費率の差を生む最大の要因は、売上に占める仕入れの比率です。卸売業や小売業は売上の多くが仕入れに消えるため、人件費率は低く出ます。逆に、コンサルティングや介護、IT受託開発は人の時間が商品です。こうした業種では、人件費率が売上の半分を超えることも珍しくありません。

飲食業では、食材費(Food)と人件費(Labor)の合計を「FL比率」と呼びます。人件費だけを切り出すより、原価と合わせて管理するほうが実態に合うためです。飲食店の経営者の方から、毎月FL比率だけは必ず見ているというお話を伺うこともあります。

他業種の人件費率と並べても、判断の材料にはなりにくいのが実情です。同業でも、自社で製造するか外注するかで数字は大きく変わります。

労働分配率は中小企業で8割近い

業種の差を均して比べたいときに使うのが労働分配率です。2026年版の中小企業白書は、中小企業の労働分配率が8割近いと指摘しました。報じたのは労働新聞(2026年6月5日)です。

8割近いということは、付加価値100円のうち80円近くを人件費に回している計算です。残り20円で家賃や広告費などの経費を払い、利益を出さなければなりません。賃上げの余地が小さいのは、この構造のためです。

先ほどの計算例の会社は、粗利で割った労働分配率が69%でした。白書の数字は付加価値で割っているため単純には比べられませんが、目安としては一定の余力がある状態です。それでも、次の章で見るとおり5%の賃上げで営業利益は大きく減ります。

他社平均より自社の推移を見る

業界平均の数字は、参考にはなっても判断の基準にはなりません。同じ業種でも、規模や立地、外注の使い方で人件費率は大きく変わるためです。

判断の基準にすべきなのは、自社の過去3〜5年の推移です。人件費率が上がっているなら、売上が伸びていないのか、人が増えたのか、給与が上がったのかを分けて見ます。理由がわかれば、打つ手も自然と絞られるはずです。

もう一つの物差しは、自社の利益が残る上限です。粗利から人件費以外の経費と、確保したい利益を引いた残りが、人件費に回せる上限になります。この考え方は損益分岐点の計算方法と同じ発想です。

5%の賃上げで営業利益はいくら減るか

人件費率が経営者にとって本当に意味を持つのは、賃上げを決めるときです。人件費率34.5%・営業利益率5%の会社が給与を5%上げると、営業利益は34.5%減ります。人件費は売上が変わらなくても増え、増えた分がそのまま営業利益から引かれるためです。

5%の賃上げで営業利益はどう変わるか人件費率は1.7ポイント上がるだけでも、利益は3分の1以上減る
賃上げ前人件費 3,450万円
人件費率 34.5%
営業利益 500万円
→給与 +150万円
法定福利費 +22.5万円
合計 +172.5万円
5%賃上げ後人件費 3,622.5万円
人件費率 36.2%
営業利益 327.5万円34.5%減
モデルケース(売上1億円・営業利益率5%)。売上やその他の経費は変わらない前提の試算です。

賃上げ額に法定福利費が上乗せされる

最初に押さえたいのは、賃上げのコストは給与の増額分だけではないという点です。給与が上がれば、社会保険料の会社負担も同じ割合で増えます。

計算例の会社で、給与・賞与3,000万円を5%上げると、増額は150万円です。法定福利費も15%分の22.5万円が増え、会社の負担増は合計172.5万円になります。給与の増額だけで予算を組むと、約1割の見込み違いが生まれます。

私たち編集部が経営者の方々と対話するなかでも、賃上げの予算を「給与の増額分」だけで組んでいたという話は何度も伺いました。社会保険料の会社負担は、給与明細にも出てこないため見落とされやすいのです。

営業利益が35%減る計算

営業利益とは、粗利から人件費や家賃などの経費を引いた、本業で残った利益のことです。売上に対する割合を営業利益率と呼びます。

この会社の営業利益は500万円、営業利益率は5%でした。人件費が172.5万円増えると、ほかの条件が同じなら営業利益は327.5万円に減ります。減少率は34.5%で、利益の3分の1以上が消える計算です。

一方で、人件費率は34.5%から36.2%へ、1.7ポイント上がるだけです。人件費率のわずかな変化と、利益の大きな目減り。これは、利益が売上と費用の「差」として残る、薄い数字だからです。

人件費率が高い会社ほど影響が大きい

営業利益の減少率は、「人件費率×賃上げ率÷営業利益率」で求められます。計算例の会社なら、34.5%×5%÷5%で34.5%です。給与と法定福利費が同じ割合で増えると考えた場合の式です。

この式が示すのは、人件費率が高い会社ほど賃上げの影響が大きいという事実です。人件費率50%・営業利益率5%の会社なら、同じ5%の賃上げで営業利益は半分になります。人件費率が20%なら、減少は2割にとどまります。

自社の数字を式に入れると、賃上げ率ごとの影響が一覧で出せます。賃上げ率を2%、3%、5%と変えて計算しておくと、どこまでなら利益が残るかの線が見えます。

賃上げ率別・営業利益の減少率早見表営業利益率5%の会社の場合(減少率=人件費率×賃上げ率÷営業利益率)
人件費率賃上げ2%賃上げ3%賃上げ5%
20%8%減12%減20%減
30%12%減18%減30%減
40%16%減24%減40%減
50%20%減30%減50%減
色が濃いほど営業利益の減少が大きいことを示します。法定福利費も給与と同じ割合で増える前提の概算です。

賃上げ分を取り戻すには売上をいくら増やせばいいか

増えた人件費を売上で取り戻すには、増えた額を粗利率で割った分だけ売上が必要です。粗利率50%の会社なら、172.5万円の人件費増に対して345万円、売上の3.45%の増加が要ります。値上げで取り戻すなら、必要な値上げ幅は約1.7%で済みます。

172.5万円の人件費増を取り戻す3つの道モデルケース(売上1億円・粗利率50%)
数量で取り戻す+345万円売上を3.45%増やす。仕入れや作業量も同じだけ増える
値上げで取り戻す+1.725%価格を上げる。原価は増えないため、そのまま粗利になる
生産性で取り戻す人時生産性同じ人数・時間で生む粗利を増やす。会議の削減や自動化も打ち手
値上げは客数が減らない前提、数量増は人を増やさずに対応できる前提での計算です。

必要売上増=人件費の増加額÷粗利率

売上を増やしても、手元に残るのは粗利の分だけです。粗利率50%なら、売上が100万円増えても使えるお金は50万円しか増えません。そのため、172.5万円を取り戻すには、172.5万円÷50%で345万円の売上増が必要です。

粗利率が低い会社ほど、必要な売上は膨らみます。粗利率25%の会社なら、同じ172.5万円に690万円の売上増が要ります。粗利率の計算や考え方は、利益率の計算方法で詳しく整理しています。

ここでの前提は、売上が増えても人を増やさずに対応できることです。売上を増やすために人を足すと、その分の人件費がまた増えます。

数量で取り戻すか値上げで取り戻すか

同じ172.5万円でも、数量を増やすか値上げをするかで、必要な努力はまったく違います。数量で取り戻すには売上を3.45%増やす必要があり、仕入れや作業量も同じだけ増えます。

値上げなら、売上1億円に対して172.5万円、つまり約1.7%の値上げで取り戻せます。値上げ分は原価が増えないため、そのまま粗利になるからです。客数が減らない前提ですが、必要な幅は数量の半分で済みます。

逆に、値上げのつもりが値引きに回ると、利益は一気に削られます。値引きが粗利に与える影響は、値引き率の計算方法で計算例を示しました。

人時生産性で見ると打ち手が変わる

人時生産性とは、社員1人が1時間あたりに生み出す粗利のことです。「粗利÷総労働時間」で計算します。計算例の会社で社員20人が年2,000時間ずつ働いているなら、5,000万円÷4万時間で1時間あたり1,250円です。

5%の賃上げをしても利益を減らさないには、人時生産性を同じだけ上げる必要があります。粗利を172.5万円増やすか、同じ粗利を少ない時間で生むかです。会議の削減や手作業の自動化で労働時間を減らすのも、立派な打ち手です。

モデルケースの人時生産性人時生産性=粗利 ÷ 総労働時間
粗利5,000万円年間
総労働時間4万時間20人 × 年2,000時間
人時生産性1,250円1時間あたりの粗利
5%賃上げ後も利益を守るには 約1,293円/時 が必要(5,172.5万円 ÷ 4万時間)
人を減らさずに、1時間あたりの価値を上げる考え方です。

人件費率だけを見ると「人を減らす」発想に傾きがちです。人時生産性で見ると、別の道が見えてきます。人を減らさずに、1時間の価値を上げるという道。

人件費率を経営判断に使う3つの視点

人件費率は、下げるほど良い数字ではありません。見るべきは率そのものより、1人あたりの粗利と、賃上げの前に打てる手が残っているかです。数字を見たあとに経営者が判断することを、3つの視点に分けて整理します。

率ではなく1人あたり粗利で見る

人件費率を下げる最も早い方法は、人を減らすことです。ただ、人を減らして率を下げても、売上をつくる力が落ちれば会社は縮みます。人件費率の改善だけを目標にした会社ほど、この落とし穴にはまりがちです。

判断の軸に置きたいのは、社員1人あたりの粗利です。計算例の会社なら、粗利5,000万円÷20人で1人あたり250万円です。この数字が伸びているなら、人件費率が多少上がっても健全な状態といえます。

反対に、人件費率が上がっているのに1人あたり粗利が横ばいなら、注意が必要です。給与だけが先に上がり、稼ぐ力が追いついていない状態を示しています。

人件費率と1人あたり粗利で見る自社の状態率だけでなく、稼ぐ力とセットで判断する
縦軸:1人あたり粗利が伸びている / 横ばい・減少 横軸:人件費率が下がっている → 上がっている
人件費率↓・1人あたり粗利↑賃上げの余力あり
人件費率↑・1人あたり粗利↑賃上げが稼ぐ力に支えられた健全な状態
人件費率↓・1人あたり粗利 横ばい人を減らして会社が縮んでいないか確認
人件費率↑・1人あたり粗利 横ばい給与が先行。値上げと生産性を確認
1人あたり粗利=粗利 ÷ 社員数。モデルケースでは5,000万円 ÷ 20人=250万円です。

賃上げの前に値上げの余地を確かめる

前の章で見たとおり、賃上げ分を取り戻す最も効率のよい方法は値上げです。賃上げを決める前に、主力商品の価格を最後にいつ見直したかを確認してみてください。

経営者の方々にお話を伺うと、「値上げを言い出せないまま数年が過ぎた」という声は少なくありません。一方で、価格の理由をきちんと説明して値上げした会社では、取引が続いたという話も多く伺います。値上げの理由を言葉にできるかどうか。そこが分かれ目になっているようです。

賃上げと値上げは、別々に考えるものではありません。社員に払う給与の原資は、お客様からいただく価格の中にしかないからです。賃上げの実態は、中小企業の賃上げ実態と対策でも整理しています。

毎月の試算表で人件費率を追う

人件費率は、年に一度の決算で見ても手遅れになりがちです。売上が落ちた月に人件費率が跳ね上がっても、決算まで気づかなければ打つ手が遅れます。

手順は3つです。まず、毎月の試算表から売上・人件費・粗利の3つを抜き出します。次に、人件費率と労働分配率を計算し、前年同月と並べます。最後に、どちらかが3か月続けて上がったら、売上・人数・給与のどれが原因かを分けて確認します。

この3つの手順は、顧問税理士の試算表があれば月30分ほどで回せます。数字が見えていれば、賃上げの時期や幅も根拠を持って決められます。

毎月の人件費率チェック 3ステップ顧問税理士の試算表があれば月30分ほどで回せる
STEP 1試算表から売上・人件費・粗利の3つを抜き出す
→
STEP 2人件費率と労働分配率を計算し、前年同月と並べる
→
STEP 33か月続けて上がったら、売上・人数・給与のどれが原因かを分けて確認する
賞与は12で割って毎月に配分しておくと、数字のぶれが小さくなります。

まとめ|人件費率は「下げる数字」ではなく「賃上げの余力を測る数字」

人件費率は「人件費÷売上高×100」で計算します。人件費には、給与・賞与に加えて法定福利費などを含めます。法定福利費は給与の約15〜16%にあたるため、給与だけで計算すると実態より低く出ます。

経営判断で大切なのは、率の高い低いより、賃上げが利益に与える影響を先に計算しておくことです。人件費率34.5%・営業利益率5%の会社なら、5%の賃上げで営業利益は34.5%減ります。取り戻すには、売上を3.45%増やすか、価格を約1.7%上げる必要があります。

賃上げと利益の両立に悩む経営者の方は少なくありません。まずは直近12か月の試算表から、人件費率と労働分配率を計算するところから、一緒に始めてみましょう。数字が並ぶと、賃上げの幅と、その前に打つべき手の順番が決まります。

よくある質問

Q. 人件費率はどうやって計算しますか? A. 「人件費÷売上高×100」で計算します。人件費には給与・賞与のほか、法定福利費(社会保険料の会社負担分)、福利厚生費、退職金を含めます。売上1億円で人件費3,450万円なら、人件費率は34.5%です。

Q. 人件費率に役員報酬は含めますか? A. 会社全体の実態を見るなら含めて計算し、社員分だけの率も別に出すのがおすすめです。中小企業は役員報酬の比重が大きく、含めるかどうかで数ポイント変わります。前年と比べるときは、扱いを毎年そろえてください。

Q. 人件費率と労働分配率はどちらを見ればいいですか? A. 自社の月次推移を追うなら人件費率が向いています。業種をまたいで比べたり、賃上げの余力を測ったりするなら労働分配率です。両方を並べると、仕入れの比率の影響も読み取れます。

Q. 人件費率が高いのは悪いことですか? A. 一概に悪いとはいえません。サービス業のように人が価値をつくる業種では高くなるのが自然です。注意が必要なのは、人件費率が上がっているのに1人あたり粗利が伸びていない状態です。

Q. パート・アルバイトの給与も人件費に入りますか? A. 入ります。雇用形態に関係なく、会社が人に払う給与・賞与・法定福利費はすべて人件費です。外注費や派遣料は含めないのが一般的ですが、前年と比べるときは扱いをそろえてください。

Q. 賃上げで利益がどれだけ減るかは、どう計算しますか? A. 営業利益の減少率は「人件費率×賃上げ率÷営業利益率」で概算できます。人件費率34.5%・営業利益率5%の会社が5%賃上げすると、営業利益は34.5%減ります。法定福利費も同じ割合で増える前提の計算です。

編集部コメント

人件費率の計算そのものは、割り算一つで終わります。私たちが大切だと考えているのは、その数字を「社員に払っているお金」として読めるかどうかです。

経営者の方々と対話を重ねてきて、印象に残っている光景があるのです。賃上げを決断した経営者ほど、その前に値上げの理由を自分の言葉でお客様に説明していました。給与の原資を、価格の中にきちんと確保していたのです。

人件費は、ご縁があって一緒に働く社員の生活を支えるお金です。だからこそ、感覚ではなく数字で守りたいと考えています。まずは直近12か月の人件費率を並べるところから、始めてみてください。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、経営者の方々への取材を重ねている。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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