中小企業の採用ブランディングのやり方|選ばれる5手順

中小企業の採用ブランディングのやり方|選ばれる5手順

「求人広告にお金をかけても応募が来ない」「来てくれた人がすぐ辞めてしまう」――中小企業の経営者の方から、よくいただくお悩みです。採用ブランディングとは、自社の魅力を言語化し、求職者に「ここで働きたい」と感じていただける状態を意図的につくる取り組みのこと。中小企業のやり方として効果的なのは、いきなりSNSや採用サイト制作から入る進め方ではありません。まずは自社の魅力の言語化から始める順序です。

本記事ではコントリ編集部が経営者インタビューを続けるなかで見えてきた知見をもとに、中小企業の採用ブランディングを5ステップで解説します。発信媒体の役割分担、よくある失敗パターン、経営者だからこそ持ちたい問いかけ習慣まで、明日から動かせる粒度で整理しました。

採用に苦戦されている方こそ、この5手順から自社の現在地を点検していただけたらと思います。

中小企業の採用ブランディングとは|「やり方」を考える前に押さえる定義

中小企業の採用ブランディングとは、「この会社で働きたい」と求職者に思っていただける状態を、自社の魅力と発信で意図的につくる中長期の取り組みです。求人広告の出稿や採用ページの整備とは目的が異なる、というのがポイントです。長期的に「選ばれる会社」になるための土台づくりにあたる取り組み、と捉えていただけたらと思います。本章では中小企業文脈での定義と、混同されやすい採用広報・採用マーケティングとの違いを整理します。

採用ブランディング・採用広報・採用マーケティングの違い
似た言葉の役割を分けて、自社の打ち手の置き場所を明確にする
採用ブランディング 採用広報 採用マーケティング
目的 中長期の認知形成 短期の応募集め 応募から内定までの最適化
対象 潜在層 顕在層 応募者
主な打ち手 魅力の言語化と発信 媒体出稿 応募~内定の体験設計
※ 3つは対立せず、ブランディングが土台、広報が入口、マーケティングが導線という関係です。

採用ブランディングと採用広報・採用マーケティングの違い

「採用ブランディング」「採用広報」「採用マーケティング」は混同されがちですが、それぞれの役割は別物。採用ブランディングは中長期で「選ばれる状態」をつくる取り組みです。採用広報はそれを伝える発信活動、採用マーケティングは応募から内定までを最適化する設計、と整理できます。

YouTubeチャンネル「採用こっそり相談室」の解説でも、採用ブランディングは「求職者に自社で働く魅力を正しく伝え、選ばれる状態をつくる中長期の取り組み」と位置づけられています。求人広告に頼る短期施策とは区別される、と語られているのも印象的です。

つまり順序としては、ブランディングで土台をつくり、広報で日々伝え、マーケティングで応募から先を整える。中小企業の場合、この3つを別人がバラバラに担うと現場が分断されます。経営者の方が全体を見渡せる立場にいる、というのが中小企業ならではの強みではないでしょうか。

中小企業こそ採用ブランディングが効く3つの理由

中小企業の採用ブランディングが効く理由は、3つあります。第一に、知名度で大手に劣る分、自社ならではの「働く実感」を言葉にして伝える設計が応募者の意思決定に直結するからです。第二に、組織の規模感が小さい分、経営者と社員の距離が近く、語る言葉に体温が乗りやすいから。第三に、長期的な定着とカルチャーフィットが、中小企業の事業継続そのものを支えるからです。

筆者がインタビューで伺った中小企業経営者の中にも、「社員一人ひとりの定着が、そのまま会社の体力につながる」とおっしゃる方が複数いらっしゃいました。大手のように「1人辞めても代わりが補充できる」前提では、中小企業の現場は回らない、という実感です。

知名度・給与で勝負しないからこそ、「誰と働くか」「どこまで任せてもらえるか」「どんな成長機会があるか」といった非金銭的価値を言語化する意味が大きい。これは中小企業の経営者にしか語れない領域でもあります。

自社の現在地を10分で把握する4つのチェック観点

進め方を決める前に、自社の現在地を把握する観点を4つ挙げます。短時間で経営会議の場でも使えますので、ぜひお試しください。

  • 観点1:自社の魅力を社員2人以上が、自分の言葉で語れるか
  • 観点2:求人票に書かれている魅力と、面接で社長が語る魅力が一致しているか
  • 観点3:直近1年で入社した社員に「決め手」を聞いたとき、共通する言葉があるか
  • 観点4:応募数・面接通過率・内定承諾率・1年定着率の数値を経営者が把握しているか

観点1で1人以下なら、社内での言語化が未着手の段階です。観点2でズレが大きければ、現場と社長の認識合わせから始める必要があります。観点3が「人による」のままなら、ペルソナ設計が曖昧な状態。観点4が把握できていなければ、施策の効果検証ができていない段階と言えます。

10分でいいので、経営会議の冒頭でこの4観点を社内に問いかけてみてください。社内の認識のズレが想像以上に大きいことに気づかれることもあるはずです。

なぜ中小企業の採用ブランディングは止まりやすいのか|頓挫する3つの理由

中小企業の採用ブランディングは、最初の半年で勢いを失うケースが目立ちます。停滞の原因は媒体やデザインではなく、「誰に・何を・誰の言葉で」伝えるかの設計不足に集約されるのが現場の感覚です。本章では現場でよく見る3つの停滞要因を整理します。経営者の方が手を入れる場所を見極める材料として、自社と照らし合わせてみてください。

採用ブランディングが停滞する3大要因
停滞の原因は媒体やデザインではなく、設計不足に集約される
1
経営者の人事任せ

自社の魅力を一番語れる経営者が現場任せにし、発信の軸がぶれる。

2
媒体先行・中身後回し

SNSやサイトを先に立ち上げ、何を伝えるかの言語化が後手に回る。

3
成果指標が応募数のみ

応募数だけを追い、認知や定着など中長期の変化が見えなくなる。

※ 自社が当てはまる箇所から手を入れると、半年での失速を防ぎやすくなります。

理由1:経営者が「採用は人事任せ」にしている

最も多い停滞パターンは、経営者が採用ブランディングを「人事の仕事」と切り分けてしまうことです。採用ブランディングは、自社の魅力を「経営の言葉」で語る取り組み。人事担当者の手元だけでは、経営の意思や事業の方向性を表現しきれません。

筆者が取材した経営者の中には、「採用は担当に任せている」とおっしゃる方が一定数いらっしゃいました。話を伺うと、現場の担当者は素材を集めても経営者の言葉が降りてこず、結果として求人票も発信も「どこの会社でも書ける文章」に着地してしまうケースが目立ちました。

「任せた」と「全部丸投げ」は別物です。月1回でいいので、進捗共有と魅力の言語化を経営者の方が一緒に整える時間を設けていただけたらと思います。経営者の方の関与が、最初のスイッチを入れます。

理由2:媒体・SNS選定が先行し、伝える中身が後回し

2つ目の停滞要因は、媒体やSNSの選定から入ってしまう進め方です。「Instagramを始めるべき」「TikTokをやらないとダメ」という話が先行し、肝心の「何を伝えるか」が固まらないまま運用が始まる、という形です。

YouTube動画「中小企業の採用の現状とは?」では、応募が集まらない会社の共通点が解説されています。「自社の魅力を社内でも言語化できていない」「社長と現場で語っている内容が違う」点が挙げられているのが特徴です。媒体の問題ではなく、社内で何を魅力として伝えるかが合意されていないことが、本質的な停滞要因になりやすい、という指摘です。

中小企業の場合、媒体運用に1人を専属で割けないことがほとんど。だからこそ「中身を固めてから媒体を選ぶ」順序を守ると、少ない人数でも継続できる運用に着地します。

理由3:成果指標が応募数だけで、定着・カルチャーフィットが見えていない

3つ目は、成果指標を応募数だけで見てしまうことです。応募が増えれば成功、減れば失敗、という判断軸では、採用ブランディングの本来の成果は測れません。

応募数は短期の媒体出稿でも増やせますが、それは採用ブランディングの成果ではないからです。本当に見るべきは、応募の質(カルチャーフィット度)・内定承諾率・1年定着率・社員紹介経由の応募数といった、中長期の指標です。

採用ブランディングが効いている会社では、応募数が劇的に増える前に、まず「合う人」が集まるようになります。次に内定承諾率が上向き、最後に定着率が改善する、という順序で成果が現れる傾向が見えてきます。最初の3ヶ月で応募数だけを見ると、せっかくの成果を見逃してしまう、というのが現場の景色です。

中小企業の採用ブランディングのやり方|成果が出る5ステップの実践順序

中小企業の採用ブランディングのやり方は、「自社の魅力言語化→採用ペルソナ設計→発信媒体の選定→コンテンツ発信→内定後フォロー」の5ステップが再現性の高い順序です。順序を入れ替えると、せっかくの努力が成果につながりません。採用全体の設計から見直したい方は、採用戦略の立て方もあわせてご覧ください。本章では経営者の方が動かす目線で、各ステップを具体的に解説します。

採用ブランディング 5ステップの実践順序
順序を入れ替えると成果につながりにくい。上流から順に動かす
STEP
1
魅力の言語化

社員インタビューで自社の魅力を言葉にする

STEP
2
ペルソナ設計

誰に届けたいかの採用ペルソナを定める

STEP
3
媒体を3つに絞る

発信媒体を絞り、運用を回せる体制にする

STEP
4
継続発信

日常と人柄が伝わる発信を続ける

STEP
5
内定後フォロー

入社まで関係を育て、辞退を防ぐ

※ STEP1の言語化を飛ばすと、後工程の発信や媒体選定が空回りしやすくなります。

STEP 1:社員インタビューで自社の魅力を言語化する

最初のステップは、社員インタビューによる自社の魅力の言語化です。在籍歴の異なる社員3〜5名に、「なぜこの会社に残っているか」「どんな瞬間にやりがいを感じるか」「友人に勧めるなら何と伝えるか」を聞いていきます。

社員インタビューを起点にする理由は明確。経営者の方が語る魅力と、現場の社員が感じる魅力には、必ずズレが生じているからです。両方の言葉を並べて初めて、求職者に届く「立体的な魅力」が立ち上がる、という構造になります。集めた声を魅力として磨き込む手順は、自社の強みの言語化の記事でも具体的に整理しています。

YouTubeチャンネル「ブランドジャーナル」の中小企業向け採用ノウハウ解説では、まず社内で魅力を整理してから外に出していく順序が紹介されている、という整理。船井総研の中小企業向け採用ブランディング解説でも、「現状の応募者層の分析→自社の魅力整理→ターゲット設定→媒体選定→継続発信」というフレームが提示されています。媒体選定から入らない、というのが共通の作法と言えます。

STEP 2:採用ペルソナを「来てほしい1人」まで絞り込む

2つ目のステップは、採用ペルソナの設計です。「20代女性・大卒・コミュニケーション能力高め」といった抽象ペルソナではなく、「来てほしい1人」の具体顔まで絞り込むことが中小企業ならではのコツ。

例えば「地元の高校を出て、一度は東京の大手に就職したものの、家庭の事情で地元に戻り、これから腰を据えて働きたい30代前半の女性」というレベルまで具体化していきます。年齢・経歴・今の悩み・休日の過ごし方まで描けると、発信の言葉が一気に研ぎ澄まされていく感覚があるはずです。

ペルソナを広く取りたくなるお気持ちもわかります。ですが中小企業の発信リソースは限られているため、「全員に届く言葉」を狙うと「誰にも刺さらない言葉」に着地しがちです。「この1人に届けばよい」と決め切る経営判断が、ペルソナ設計の核心と言えます。

STEP 3:ペルソナに届く発信媒体を3つに絞る

3つ目のステップは、発信媒体の選定です。ここでも「全媒体を網羅する」ではなく、ペルソナの生活動線にある媒体を3つに絞ることが中小企業の現実解。Instagram・X・YouTube・自社採用サイト・求人媒体・Wantedlyなど選択肢は多いものの、人手の限られた中小企業で5媒体を継続運用するのは難しいからです。

媒体選定の判断軸は3つ。「ペルソナが日常的に見ている媒体か」「自社の社員が更新しやすい媒体か」「採用サイトと連動できる媒体か」。この3軸で絞ると、おおむね2〜3媒体に収束します。

STEP 4:求職者目線のコンテンツを継続発信する

4つ目のステップは、コンテンツの継続発信です。発信のコツは「会社が伝えたいこと」ではなく「求職者が知りたいこと」を起点に置くこと。具体的には、社員の1日の流れ、入社1年目の成長エピソード、現場のリアルな失敗談、社長と社員の対話風景、といった素材が機能しやすい印象です。

発信頻度は、媒体ごとに無理のないペースを最初に決めます。週1回でも、月2回でも構いません。続けられる頻度を設計時に約束することが、半年後の成果を決めます。「毎日投稿」と決めて2週間で止まる運用より、「週1で1年継続」のほうが採用ブランディング上は圧倒的に効きます。

STEP 5:内定後フォローまで一貫した体験を設計する

最後のステップは、内定後フォローまでを一貫した体験として設計することです。採用ブランディングは内定通知で完結しません。むしろ内定〜入社の数ヶ月で「思っていた会社と違う」を感じさせない設計が、定着率を左右します。

内定後フォローの基本は、「月1回の顔合わせランチ」「現場社員からの個別メッセージ」「入社前研修の事前案内」など、特別な投資が不要な接点づくりです。コントリの取材現場でも、内定承諾率と1年定着率が高い会社ほど、内定後の小さな接点を丁寧に重ねていらっしゃいました。

ここまでの5ステップを順序通りに進めると、中小企業の採用ブランディングは「特別なことをしているわけではないのに、合う人が集まる」状態に近づきます。

発信媒体の選び方と運用の型|採用サイト・SNS・求人媒体の役割分担

中小企業の採用ブランディングでは、媒体ごとに役割を分けて運用する型が機能する、という整理が大切。採用サイトは「最終的に意思決定する場」、SNSは「日常の空気感を届ける場」、求人媒体は「出会いをつくる場」。役割を分けると、人手の少ない中小企業でも無理なく運用できる構造が生まれます。本章では媒体別の使い分けと運用の型を解説します。

採用媒体3種の役割と更新頻度
媒体ごとに役割を分けると、人手の少ない中小企業でも運用が回る
採用サイト SNS 求人媒体
役割(目的) 意思決定の後押し 日常と人柄の発信 出会いの創出
主なコンテンツ 社員インタビュー・働く実像 日常風景・社員の声 求人票・募集情報
更新頻度の目安 半年に1回 大型更新 週1~月2回 募集都度
※ 更新頻度はあくまで運用設計の目安です。自社の人員に合わせて無理のない型を組み立ててください。

採用サイト:意思決定を後押しする「働く実像」の見せ方

採用サイトの役割は、応募者が最終的に「ここで働きたい」と決める後押しをする場です。SNSや求人媒体で興味を持った求職者が、最終確認のためにアクセスするのが採用サイトという位置づけ。だからこそ、抽象的な「人を大切にする会社です」ではなく、具体的な「働く実像」が求められます。

具体的に載せたいコンテンツは、社員インタビュー(在籍歴の異なる3〜5名分)、1日の業務の流れ、入社後の成長ステップ、現場の写真、社長メッセージ、よくある質問。「面接で聞かれる前に答えておく」発想で構成すると、応募者の不安解消につながります。

採用サイトは一度作って終わりではなく、半年に1回の大型更新と、月1回の小さな更新(最新の社員の声など)を続けると鮮度を保てます。

SNS(Instagram・X・YouTube):日常と人柄を届ける発信設計

SNSの役割は、採用サイトでは伝わらない「日常の空気感」と「人柄」を届けることです。船井総研の『地方中小企業でも人財が集まるSNS採用ブランディング』セミナーダイジェストでも、SNSは「日常と人柄を見せて応募前の安心感をつくる役割」と整理されています。

媒体特性の違いも押さえておきたい論点です。Instagramは写真主体の世界観発信、Xはリアルタイムの声、YouTubeは深い理解促進、という棲み分けが基本。奥野美代子氏のSNS採用解説でも、SNS採用は「アカウント設計→コンテンツ設計→運用の型」の3ステップで進めると迷わない、と語られています。

中小企業の運用上のコツは2つ。「現場社員に1日数分の素材提供を依頼する仕組み」と「経営者自身が時々顔を出す投稿」。社長が出てくると、SNSの温度が一気に変わります。

求人媒体・ハローワーク:採用ブランドと連動させる求人票の書き方

求人媒体やハローワークは、採用ブランドの世界観に触れていない「初対面の求職者」と出会う場です。SNSや採用サイトを見ていない層に向けて、求人票で第一印象を伝える役割と捉えると、書き方の方針が定まります。

求人票で意識したいのは、「他社のテンプレートをコピーしない」ことです。「アットホームな職場」「未経験歓迎」「やりがいのある仕事」といった汎用フレーズで埋めると、せっかくの自社の魅力が伝わりません。STEP 1で言語化した社員の声を、求人票の中に1〜2文だけでも引用してみてください。求人媒体上でも、世界観の一貫性が生まれます。

求人媒体・採用サイト・SNSの3つで、語っている内容と温度感を揃えることが、採用ブランディングを「機能する仕組み」にする最後のピースです。

採用ブランディングでよくある失敗パターンと回避策|現場が動く3つの工夫

採用ブランディングで頓挫する中小企業には、共通の失敗パターンがあります。社長の想いだけが先行する、SNS発信が一人担当者頼みになる、面接で発信内容と現場のリアルがずれる――この3つが典型です。本章では失敗の構造と、経営者の方が現場と握っておく回避策を解説します。

導入前チェックリスト 経営者が押さえたい7項目
チェックを入れて、自社の準備状況を確認してみてください
※ チェック状態はページを再読み込みするとリセットされます。控えとしてメモをお願いします。

失敗1:社長メッセージと現場の実態がずれている

最も多い失敗は、社長メッセージで語られている会社像と、現場の実態がずれていることです。「挑戦できる会社です」と社長が発信しているのに、現場では「失敗したら詰められる」雰囲気がある、というような乖離が起こると、応募者は面接や入社後に違和感を抱きます。

回避策は、社長メッセージを書く前に現場社員と「言葉の擦り合わせ」をすることです。1時間でいいので、社長と現場リーダーで「うちの強みを3つ挙げるなら?」を出し合ってみてください。出てきた言葉のズレ自体が、整えるべきポイントになります。

擦り合わせを経て発信すると、社長メッセージが「現場の実感に裏打ちされた言葉」に変わります。応募者にも、その厚みが伝わるはずです。

失敗2:発信が一人担当者頼みで継続できない

2つ目の失敗は、SNS発信や採用サイト更新が「一人担当者頼み」になり、その人が異動・退職した瞬間に止まることです。中小企業では発信のリソースが限られているため、最初から「一人で抱えない設計」が必要になります。

回避策は、発信を最低2人以上で担う体制を最初から組むことです。一人は経営者と近い立場で「何を発信するか」を判断する役、もう一人は現場目線で素材を集める役。役割を分けると、片方が忙しい時期も止まりにくくなります。

加えて、社員全員から月1〜2件の素材提供を促す仕組み(社内Slackの「発信ネタ」チャンネル、月1回の現場巡回など)があると、発信担当者の負担が大きく下がります。発信を「全社の習慣」にする設計が、長期継続のカギです。

失敗3:面接・内定後フォローで「思っていた会社と違う」が起きる

3つ目の失敗は、面接や内定後フォローで「思っていた会社と違う」と感じさせてしまうことです。奥野美代子氏の『面接で辞退される会社の共通点』解説でも、求人票・採用サイトで伝えている内容と実際の面接の雰囲気・説明にギャップがある会社ほど内定辞退率が高い傾向、と指摘されています。

コントリの取材現場でも、採用ブランディングが機能している会社は「発信内容=面接体験=入社後の現場」が一貫していらっしゃる印象です。発信で「フラットな関係性」を打ち出しているのに、面接で社長が一方的に話し続ける、というギャップは応募者に強く残ります。

回避策は、面接フローと内定後フォローを「採用ブランディングの一部」として設計し直すこと。質問の順序、現場社員の同席、内定後の連絡頻度まで、発信内容と地続きで整えていただけたらと思います。

経営者だからこそ意識したい採用ブランディングの3つの要点

中小企業の採用ブランディングは、経営者の方の関わり方で成否の大半が決まる、というのが現場の実感です。人事任せでも広報任せでもなく、経営者にしかできない3つの意思決定が存在します。「誰を採らないか」の基準、自社の言葉で語る発信、内定後の関係づくりです。本章では経営者の方が引き取るべき3つの要点を解説します。

経営者が引き取るべき3つの要点
人事任せでも広報任せでもない、経営者にしかできない意思決定
採らない基準の明示

「誰を採らないか」を決めることで、求める人物像が現場まで揃う。

社長の言葉で語る発信

借り物の言葉ではなく、経営者自身の言葉が共感の核になる。

内定後の関係づくり

内定から入社までの関わりが、辞退を防ぎ定着の土台になる。

※ 3要点はいずれも、現場任せにせず経営者が手元に残しておきたい判断ポイントです。

要点1:『誰を採らないか』の基準を経営者が引き取る

1つ目の要点は、「誰を採らないか」の基準を経営者の方が引き取ることです。採用ブランディングは「来てほしい人を増やす」だけでは半分しか機能しません。「来てほしくない人」を明示することも、同じくらい重要です。

「誰を採らないか」が決まると、求人票やSNS発信のトーンが鋭くなります。「うちはこういう人と一緒に働きたい」が裏返しで「こういう人には合わない」というメッセージも自然と伝わるようになるからです。

採用ブランディングの強い会社ほど、応募の入口で「合わない人」が自然に減っていく傾向があります。基準を経営者の方が引き取り、現場と共有することが、応募の質を上げる出発点です。

要点2:『社長の言葉』で語るストーリーを発信に組み込む

2つ目の要点は、社長の言葉で語るストーリーを発信に組み込むことです。YouTubeチャンネル『人事の真実』の中小企業採用解説では、中小企業が大手と知名度・給与で正面から競うのではなく、「誰と働くか」「どんな成長機会があるか」「どこまで任せてもらえるか」といった非金銭的価値で勝負することが推奨されています。

非金銭的価値を語れるのは、経営者の方しかいません。創業の想い、これまでの挑戦、お客様との出来事、社員と過ごした転換点。こうしたストーリーが採用ブランディングの「他社が真似できない素材」になっていきます。経営者自身の発信を体系立てて整えたい方は、経営者ブランディングのやり方も参考になります。

発信は完璧な文章である必要はありません。経営者の方が普段の言葉でぽつぽつ語る動画や、社内向けに書いた手紙の転用でも十分です。むしろ整いすぎていない言葉のほうが、求職者の心に届くこともあります。

要点3:内定後の関係づくりを採用プロセスの一部にする

3つ目の要点は、内定後の関係づくりを採用プロセスの一部に組み込むこと。多くの中小企業では、内定通知から入社日まで連絡頻度が落ち、入社初日に再会、という流れになりがちです。この空白期間こそが、内定辞退や入社後の早期離職を生む温床と言えます。

回避策は、内定〜入社の数ヶ月間に「月1回の小さな接点」を必ず置くこと。社内報の郵送、現場社員からのウェルカムメッセージ、ランチ会への招待など、特別な投資が不要な接点で十分です。

接点の目的は情報伝達ではなく、「この会社にいる人たちと、もうつながっている」と感じていただくこと。経営者の方が直筆で1通だけハガキを送る、というシンプルな施策が決定打になるケースも珍しくありません。内定後の数ヶ月こそ、採用ブランディングの真価が問われる期間と捉えていただけたらと思います。

採用ブランディングを「人が集まる仕組み」に変える経営者の問いかけ習慣

中小企業の採用ブランディングは、施策の話ではなく組織の習慣の話です。経営者の方が社員に投げかける問いかけが、社員一人ひとりの「自社の語り口」を育てていきます。本章ではコントリ編集部が経営者インタビューを続けるなかで見えてきた「採用が好転している会社の経営者が日常的にしている3つの問い」を紹介します。

採用が好転する経営者の3つの問いかけ
明日から1on1や朝礼で使える、社員に投げかけたい問い
経営者
問い 1

あなたがこの会社に残っている理由は何ですか?

経営者
問い 2

友人に紹介するとしたら、何と伝えますか?

経営者
問い 3

うちに合わない人は、どんな人だと思いますか?

※ 答えを集めると、自社の魅力と「合う人物像」が社員の言葉で見えてきます。

問いかけ1:『あなたがこの会社に残っている理由は何?』

1つ目の問いは、「あなたがこの会社に残っている理由は何ですか?」です。コントリの取材で経営者の方々から繰り返し伺ってきたお声として、採用が好転している会社の経営者の方は、この問いを社員に投げかける習慣をお持ちでした。

この問いが効くのは、社員が自分の言葉で「残っている理由」を考え始めるからです。給与・福利厚生のような外形条件ではなく、「あの上司に出会えたから」「この仕事の手応えがあるから」といった内的な理由が言語化されていきます。

言語化された理由は、そのまま採用ブランディングの素材になります。社員の言葉は、経営者の言葉より求職者の心に届くこともしばしばです。

問いかけ2:『友人に紹介するとしたら、何と伝える?』

2つ目の問いは、「友人にうちの会社を紹介するとしたら、何と伝えますか?」です。この問いが優れているのは、社員に「外向きの言葉」で会社を語らせる点にあります。

社員紹介経由の応募は、採用ブランディングの最終形ともいえる導線です。社員が自分の言葉で会社を語れる状態になっていれば、リファラル採用が自然と動き始めます。広告費をかけずに合う人と出会える、という意味で、中小企業にとって最強の採用チャネルでしょう。

問いかけは責めるためではなく、考えるきっかけを贈るためにあります。答えが曖昧でも責めず、「もう少し具体的にすると?」と返してみてください。回数を重ねるうちに、社員の言葉が研ぎ澄まされていきます。

問いかけ3:『うちに合わない人は、どんな人だと思う?』

3つ目の問いは、「うちに合わない人は、どんな人だと思いますか?」です。少し意外な問いに見える、というお声もよくいただきます。この問いを通して、社員自身が「自社のカルチャー」を逆説的に言語化していきます。

「合わない人」を語ることは、「合う人」を語ることと表裏一体です。社員が「自社の独自性」を肌で理解する瞬間でもあります。

3つの問いを朝礼や1on1に少しずつ組み込んでいくと、半年後には社内の「自社を語る言葉」が一段豊かになっていきます。経営者の方が答えを持つ必要はなく、問いを持つだけでよい――これが採用ブランディングを習慣に変えるレバーです。

まとめ|中小企業の採用ブランディングは「自社の魅力の言語化」から始まる

中小企業の採用ブランディングのやり方は、特別な才能や潤沢な予算を必要としません。「自社の魅力の言語化→採用ペルソナ設計→発信媒体の選定→コンテンツ発信→内定後フォロー」という5ステップを、順序通りに丁寧に進める。これに尽きます。

媒体やデザインから入らず、まず自社の中で「何を魅力として伝えるか」を社員と一緒に整える。来てほしい1人まで絞り込んで言葉を研ぎ澄ます。発信は2人以上の体制で続けられるペースに設計する。面接と内定後フォローまで世界観を一貫させる。経営者の方が「採らない基準」「社長の言葉」「内定後の関係づくり」を引き取る。日常の問いかけで、社員一人ひとりの「自社の語り口」を育てる。

ここまでが、中小企業の経営者の方々と対話してきた経験から見えてきた、再現性のある進め方です。一気に全部を変える必要はありません。今週からできる一歩は、社員に「あなたがこの会社に残っている理由は何ですか?」と問いかけてみること。小さな一歩が、半年後の景色を変えていきます。

よくある質問(FAQ)

中小企業の採用ブランディングに取り組まれる経営者の方から、コントリにいただくご相談の中で頻度の高い5つの質問にお答えします。実務で迷われたときの判断材料としてご活用ください。経営者ご自身だけでなく、推進担当者の方とも共有していただけると、判断軸が揃いやすくなります。

Q1:中小企業の採用ブランディングは、どこから始めるのが効果的ですか?

「自社の魅力の言語化」から始めるのが効果的です。在籍している社員数名にインタビューし、「なぜこの会社に残っているか」「どんな瞬間にやりがいを感じるか」を整理する作業から入ると、求人票やSNS発信の素材がそのまま揃います。媒体選定や採用サイト制作は、その言語化が終わったあとに進めるとブレが少なくなります。

最初の言語化はA4用紙1〜2枚で十分です。完成度を求めるより、まず形にすることが優先。半年後に振り返って書き直す前提で、最初の一歩を踏み出していただけたらと思います。

Q2:採用ブランディングに専任担当がいない中小企業はどう進めればいいですか?

経営者の方ご自身が3ヶ月だけプロジェクトオーナーになり、社員2〜3名で小さな推進チームをつくる進め方が現実的です。新たに採用専任を採るより、業務理解の深い既存社員に発信を担ってもらう方が、自社らしい言葉で伝わります。

地域の商工会議所や中小企業庁の支援機関も無料で活用できますので、外部の壁打ち相手として組み合わせるのもおすすめです。社内だけで抱え込まず、第三者の目を入れると、自社では気づかなかった魅力が見つかることもしばしばです。

Q3:採用ブランディングで補助金やお金の支援は使えますか?

採用ブランディング単体の補助金は限定的ですが、厚生労働省の「人材確保等支援助成金」や自治体ごとの採用支援補助金、IT導入補助金(採用管理ツール)などが組み合わせて活用できることがあります。補助金ありきで進めるのではなく、自社の採用課題と打ち手を先に決めたうえで対象になる制度を選ぶ順序が重要です。

順序を逆にすると、補助金は取れても自社の採用課題にフィットしない施策が残るリスクがあります。最新情報は、所轄の労働局や中小企業庁が運営する「中小企業庁の公式サイト」(ミラサポplus含む)で確認してみてください。

Q4:採用ブランディングを始めても、すぐに応募が増えません。どうすればいいですか?

採用ブランディングは半年〜1年で効果が表れる中長期施策のため、短期の応募数だけで判断しないことが大切です。SNS投稿の保存数や採用サイトの滞在時間、内定後の辞退率の変化など、応募の手前と入社後の指標も合わせて見ていくと、施策が効いているかが判断しやすくなります。

最初の3ヶ月は、応募数より「合う人からの応募の割合」を見ていただきたい時期です。母数は変わらなくても、面接通過率や内定承諾率が静かに上向いていれば、採用ブランディングは確実に機能しています。

Q5:採用ブランディングの効果はどのくらいの期間で見るべきですか?

最初の3ヶ月は「発信の継続体制が回るかどうか」、6ヶ月で「応募の質(カルチャーフィット度)」、12ヶ月で「定着率・内定承諾率」を評価するのが目安です。最初から応募数の急増を目指すのではなく、3ヶ月単位で「誰に・何が・どう伝わっているか」を振り返る習慣が、中小企業規模では最も成果につながります。

評価のたびに採用ブランディングの素材も入れ替えていくと、半年後・1年後の発信に厚みが増していきます。

編集部より

採用ブランディングは、技術の話ではなく経営者の方の「語る覚悟」の話です。コントリで多くの経営者の方にお話を伺うなかで、採用を成果につなげていらっしゃる方々に共通していたのは、「現場の社員の言葉に耳を澄ますこと」と「自社の魅力を自分の口で何度でも語ること」でした。

最新のSNS運用ノウハウを導入することは、誰にでもできます。けれど、自社で働く社員の言葉に耳を傾け、自分の言葉で自社を語ることは、経営者の方にしかできません。今週から1日でいいので、社員一人に「あなたがこの会社に残っている理由は何ですか?」と聞いてみてください。教科書には書かれていない、自社ならではの採用ブランディングの起点が見つかるはずです。

中小企業の経営者の皆さまの採用への挑戦が、日本経済の確かな前進につながると、私たちは信じています。経営者の方々とのご縁の中で得た知見が、少しでも前進のお力になれば幸いです。

INTERVIEW ブランド戦略

ブランドを言語化した経営者の声を、
経営者インタビューから学ぶ

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飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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