コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

オリエンタルランドのビジネスモデル|借りた世界観を自前で磨く

オリエンタルランドのビジネスモデル|借りた世界観を自前で磨く

東京ディズニーリゾートに行ったことはあっても、運営会社がどう稼いでいるかまで知る機会は多くありません。ディズニーの子会社だと思っている方もいるのではないでしょうか。

オリエンタルランドのビジネスモデルは、ディズニーの世界観をライセンス契約で借り、パークを自前で運営する形です。ディズニー社からの出資は受けていません。2026年3月期の売上高は7,045億円で過去最高でした。営業利益は1,684億円、売上高営業利益率は23.9%です(同社決算短信、2026年4月)。ゲスト1人当たり売上高は18,403円で、その約半分をグッズと飲食が占めています。

本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートが土台です。数字は、オリエンタルランドの決算短信とIRサイトで確かめ直しました。ライセンス方式、客単価の中身、価格戦略、人材育成、真似されにくい理由を順に見ていきます。最後に、中小企業が持ち帰れる4つの問いにまとめました。自社の稼ぎ方を見直す材料になれば嬉しく思います。

オリエンタルランドのビジネスモデルとは|決算の数字で見る全体像

オリエンタルランドは、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを運営する会社です。2026年3月期の売上高は7,045億円で、過去最高となりました(同社決算短信)。売上の8割はテーマパーク事業です。

オリエンタルランドの主要数字
売上高(2026年3月期)7,045億円前期比 +3.7%・過去最高
営業利益(2026年3月期)1,684億円営業利益率 23.9%
テーマパーク入園者数(2025年度)2,753万人前期並み
ゲスト1人当たり売上高(2025年度)18,403円前期比 +3.2%・過去最高

出典:株式会社オリエンタルランド「2026年3月期 決算短信」(2026年4月28日)、同社IRサイト「入園者数」「単価」(2026年9月確認)

埋め立て事業の会社として1960年に設立

オリエンタルランドは1960年7月、京成電鉄・三井不動産などの出資で設立されました(同社沿革)。もともとは、千葉県浦安沖の海面を埋め立てて開発する会社です。テーマパーク運営は、設立当初の目的ではありませんでした。

1979年に米国のウォルト・ディズニー・プロダクションズとライセンス契約を結びます。1983年4月に東京ディズニーランド、2001年9月に東京ディズニーシーが開業しました。埋め立てで生まれた土地を自社で持ち、その上でパークを運営していることが、あとで見る強みの土台になっています。

いまの筆頭株主は京成電鉄です。ディズニー社は株主に入っていません。ここが、世界のほかのディズニーパークと大きく違う点です。

設立から現在までの主な節目を、年表にまとめました。

オリエンタルランドの主な節目
1960年埋め立て事業の会社として設立
1979年ディズニー社とライセンス契約を締結
1983年東京ディズニーランド開業
2001年東京ディズニーシー開業
2018年ライセンス契約を最長2076年まで延長
2021年変動価格制を導入、行動規準をThe Five Keysに更新
2024年ファンタジースプリングス開業(総投資額 約3,200億円)
2027年春予定トゥモローランド刷新(総投資額 約1,000億円)
2028年度予定ディズニークルーズ就航

出典:オリエンタルランド 沿革・ニュースリリース(2018年6月13日、2024年6月6日、2026年8月13日ほか)、日本経済新聞

売上高7,045億円・営業利益1,684億円|2026年3月期の業績

2026年3月期の連結業績は、売上高7,045億円(前期比3.7%増)、営業利益1,684億円(同2.1%減)でした。親会社株主に帰属する当期純利益は1,219億円です(同社決算短信、2026年4月28日)。

売上が過去最高を更新した一方、利益はわずかに減益です。決算短信では、人件費や諸経費などのコスト増を理由に挙げています。新テーマポート「ファンタジースプリングス」が通期で稼働し、単価は上がりました。ただ、人とパークを維持する費用も、同じように膨らんだのが実情です。

売上高営業利益率とは、売上のうち本業で残った利益の割合のことです。例えば23.9%なら、売上100円に対して本業で約24円の利益が残る計算です。

2027年3月期は、売上高7,243億円(2.8%増)、営業利益1,608億円(4.5%減)を見込みます。東京ディズニーシー25周年のイベントで、入園者数と単価の増加を想定しています。一方で、賃金改定に伴う人件費の増加も織り込みました(同社決算短信)。

テーマパーク・ホテル・その他の3事業

オリエンタルランドの事業は、テーマパーク・ホテル・その他の3つに分かれています。2026年3月期のテーマパーク事業は売上高5,683億円、営業利益1,305億円でした。ホテル事業は売上高1,190億円、営業利益369億円です(同社決算短信のセグメント情報)。

伸び率で目立つのはホテル事業です。営業利益は前期比20.9%の増加です。2024年6月に開業した「東京ディズニーシー・ファンタジースプリングスホテル」が、通期で稼働しました。その結果、客室単価が上がりました。パークの外にも、ゲストが過ごす時間から収益を生む場所を持っている。この点は、後半の「持ち帰れる問い」でも取り上げます。

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ディズニー社の資本が入らない「ライセンス方式」

オリエンタルランドは、ディズニー社から出資を受けず、ライセンス契約でパークを運営しています。ロイヤリティを払う一方、投資の判断と利益は自社に残ります。契約は最長2076年までです(同社発表、2018年6月)。

世界のディズニーパークと比べると、この形の特殊さが見えてきます。

世界の主なディズニーパークの運営形態
パーク運営形態ディズニー社の出資
米国(カリフォルニア・フロリダ)ディズニー社の直営あり
ディズニーランド・パリディズニー社のグループ会社が運営あり
香港ディズニーランド香港政府とディズニー社の合弁あり
上海ディズニーランド中国の国有企業グループとディズニー社の合弁あり
東京ディズニーリゾートオリエンタルランドがライセンス契約で運営なし

出典:The Walt Disney Company 年次報告書(Form 10-K)、オリエンタルランド公式サイト

1979年のライセンス契約|出資ではなく使用許諾

ライセンス契約とは、ブランドやキャラクター、ノウハウを使う権利を、使用料と引き換えに借りる契約のことです。例えば、フランチャイズの飲食店が看板と調理法を借りて営業するのと、考え方は近いと言えます。

米国のパークはディズニー社の直営です。香港と上海は、現地の政府系企業とディズニー社が出資する合弁で運営されています。オリエンタルランドは、ディズニー社から1円の出資も受けていません。ブランドは借りるが、資本は入れない。これが東京ディズニーリゾートの基本の形です。

契約期間は、2018年6月の東京ディズニーシー大規模拡張の合意にあわせて見直されました。それまで最長2046年だった契約が、最長2076年まで延びています(同社ニュースリリース)。半世紀先まで事業の前提が見通せることは、大型投資の判断を支える土台になっています。

ロイヤリティを払っても利益が自社に残る

ライセンス方式では、オリエンタルランドがディズニー社にロイヤリティ(使用料)を払います。料率は公表されていません。一方で、ディズニー社は出資していないため、利益の配当を受け取る立場にはありません。

その結果、稼いだ利益の多くを自社に残し、次の投資に回せます。ファンタジースプリングスには約3,200億円を投じました(同社発表、2024年6月)。当初の計画は約2,500億円でしたが、工期の延長や資材費の高騰で増額しています。

これだけの金額を、自社の判断で投じられる。その自由度こそ、ライセンス方式の大きな利点です。ディズニー社の側も、自社で投資リスクを負わずにブランドを広げられる利点があります。双方に理由がある組み方だからこそ、40年以上続いてきたと考えられます。

自由度の裏側にある、ブランド審査と契約更新

もちろん、ライセンス方式には制約もあります。キャラクターや世界観そのものは、オリエンタルランドの持ち物ではありません。新しいエリアやアトラクションの企画には、ディズニー社の考え方と合うことが求められます。

契約が経営の前提を握っているという事実も残ります。ディズニーのブランドを使えなくなれば、事業は成り立ちません。だからこそ、2018年の契約延長は、大規模投資とセットで合意されました。

中小企業でも、他社の商標や技術を借りる事業ほど、契約の期間と更新条件の確認が欠かせません。借りる力が大きいほど、契約書は経営の土台そのものになります。

入園料だけで稼がない収益構造|客単価18,403円の内訳

2025年度のゲスト1人当たり売上高は18,403円で、過去最高を更新しました。このうちチケット収入は9,608円です。残りの約48%にあたる8,796円は、パーク内の商品と飲食で生まれています(同社IRサイト「単価」)。

私たちコントリ編集部が10年分の単価データを並べて見えたのは、単価の伸び方の変化でした。以下の表で、2016年度と2025年度を比べます。

項目2016年度2025年度増加率
チケット収入5,264円(45%)9,608円(52%)+83%
商品販売収入4,074円(35%)5,227円(28%)+28%
飲食販売収入2,256円(19%)3,569円(19%)+58%
ゲスト1人当たり売上高11,594円18,403円+59%
テーマパーク入園者数3,000万人2,753万人-8%

※出典:オリエンタルランドIRサイト「単価」「入園者数」(2026年9月確認)。括弧内は1人当たり売上高に占める割合で、編集部が算出。2025年度の各項目の合計は、端数処理により公表値18,403円と1円ずれる

チケット52%・商品28%・飲食19%|2025年度の内訳

2025年度の18,403円の内訳は、チケット9,608円、商品5,227円、飲食3,569円でした。チケットが占める割合は約52%です。入園料と同じくらいの金額を、ゲストはパークの中で使っていることになります。

この構造を支えているのは、パーク内で過ごす時間の長さです。朝から夜まで滞在すれば、食事は2回、休憩は何度か必要になります。帰り際には、思い出を持ち帰るためのグッズを選びたくなるものです。季節ごとのイベントにあわせた限定グッズや限定メニューも、来るたびに新しい買い物の理由をつくっています。

なお、私たちの研究ノートでは「入園料は約4割、グッズと飲食で約6割」と整理していました。今回、同社IRサイトの数字で確かめ直すと、2025年度のチケットの割合は約52%でした。本記事では、公式の数字を採用しました。

10年で客単価は約1.6倍に

2016年度のゲスト1人当たり売上高は11,594円でした。2025年度は18,403円で、この10年で約1.6倍になっています(同社IRサイト「単価」)。一方、入園者数は2016年度の3,000万人から、2025年度は2,753万人へ減りました(同「入園者数」)。

伸びの中身を見ると、チケット収入が5,264円から9,608円へ83%増えています。商品は28%、飲食は58%の増加でした。チケットの割合は、45%から52%へと高まった計算です。

10年分を並べて見えてきたのは、単価を押し上げた主役の交代。ここ10年の伸びは、チケットの価格設計が主役でした。グッズと飲食が稼ぐ構造は保ちつつ、入園そのものの価値の値付けを見直してきた。数字からは、そうした経営の順番が読み取れます。

パークの外でも稼ぐ|ホテル事業の営業利益は20.9%増

オリエンタルランドの稼ぎ方は、パークの中だけで終わりません。ディズニーホテルを中心とするホテル事業は、2026年3月期に営業利益369億円を生みました(同社決算短信)。

ホテルは、パークでの1日の「前と後」を受け持つ事業です。遠方から来るゲストは、前泊や後泊をすることで、パークにいる時間そのものが長くなります。宿泊の売上に加えて、翌日の入園や食事、買い物にもつながります。

ホテル事業の営業利益は前期から20.9%伸び、テーマパーク事業の減益の一部を補いました。ゲストの体験を、パークの入口より前から、出口のあとまで設計している。この発想は、店舗や施設を持つ中小企業にも応用できる部分です。

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「量から質へ」|変動価格制と年間パスポートの販売休止

入園者数は2018年度の3,256万人が最高で、2025年度は2,753万人でした(同社IRサイト)。オリエンタルランドは、客数より1人当たりの体験価値と単価を高める方向へ舵を切っています。具体策は、変動価格制と年間パスポートの販売休止です。

東京ディズニーリゾートの入園者数の推移
2016年度3,000万人
2017年度3,010万人
2018年度3,256万人
2019年度2,901万人
2020年度756万人
休園・入園制限の影響
2021年度1,205万人
休園・入園制限の影響
2022年度2,209万人
2023年度2,751万人
2024年度2,756万人
2025年度2,753万人
過去最高(2018年度)最新(2025年度)その他の年度

出典:オリエンタルランドIRサイト「入園者数」(2026年9月確認)。単位は万人、千人単位の公表値を万人に四捨五入

入園者数のピークは2018年度の3,256万人

東京ディズニーリゾートの入園者数は、開園35周年の2018年度に3,256万人となり、これが過去最高です。その後、2020年度は休園と入園制限で756万人まで落ち込みました(同社IRサイト「入園者数」)。

2023年度以降は、2,750万人前後での推移が続きます。コロナ前の水準には戻っていませんが、売上高は2026年3月期に過去最高となりました。客数が戻らないまま最高益に近い水準を保てたのは、先に見た単価の伸びがあったからです。

混雑しすぎたパークでは、アトラクションの待ち時間が延び、ゲストの満足度が下がります。入園者数を無理に戻すより、1日あたりの人数を抑えて体験の質を守る。数字の動きからは、そうした方針への転換が読み取れます。

変動価格制|混雑日は高く、閑散日は抑える

変動価格制(ダイナミックプライシング)とは、需要の大きさに応じて、日ごとに価格を変える仕組みのことです。例えば、航空券やホテルの料金が、連休や週末に高くなるのと同じ考え方です。

東京ディズニーリゾートは、2021年3月20日入園分から変動価格制を導入しました(トラベルWatch、2021年)。対象は大人1デーパスポートなどです。導入時の価格帯は8,200円〜8,700円です。2023年10月からは、7,900円〜10,900円という幅でした。

大人1デーパスポートの価格帯の推移
時期価格帯
2020年3月まで7,500円(固定)
2020年4月から8,200円(固定)
2021年3月から8,200円〜8,700円(変動価格制を導入)
2021年10月から7,900円〜9,400円
2023年10月から7,900円〜10,900円
2026年10月10日から8,400円〜12,400円

出典:トラベルWatch(2021年)、日本経済新聞(2026年7月)ほか報道

2026年7月には、10月10日入園分からの価格改定を発表しました(日本経済新聞、2026年7月)。新しい価格帯は8,400円〜12,400円です。上限の引き上げは3年ぶりです。混雑する日ほど高く、空いている日は抑えることで、来園日を分散させる狙いがあります。値上げの理由として、同社は人件費や管理費といったコストの上昇も挙げています。

年間パスポートは2020年から販売休止のまま

もう一つの大きな変化が、年間パスポートです。2020年の休園と、その後の入園予約制への移行をきっかけに、年間パスポートは販売されなくなりました。公式FAQでは、現在も「販売を休止」しており、「当面、販売再開の予定はない」と案内しています。

年間パスポートは、熱心なファンが何度も来園できる仕組みでした。一方で、1回あたりの滞在時間や買い物の金額は、1日券のゲストより小さくなりやすいとの指摘もあります。販売休止の理由を、同社は詳しく公表していません。

ただ、年間パスポートを止めたあとも、単価は伸び続けています。有料でアトラクションの待ち時間を短くできる「ディズニー・プレミアアクセス」も、2022年に始まりました。来園回数より、1回の来園の満足度と単価を高める。変動価格制と年間パスポートの販売休止は、同じ方向を向いた2つの判断と言えます。

準社員1万7,684人を支える行動規準「The Five Keys」

オリエンタルランド単体の従業員は2万5,434人です。その約7割にあたる1万7,684人が準社員です(2025年度、同社「社会関連データ」)。準社員とは、同社で働くアルバイト・パートタイムの従業員の呼び名です。多くのキャストが同じ質のサービスを提供できる背景には、判断の優先順位を示す行動規準があります。

行動規準「The Five Keys~5つの鍵~」
2021年、従来のSCSEにインクルージョンを加えて更新
IインクルージョンInclusion多様な人を歓迎し、尊重する。5つの鍵の中心に置かれ、ほかの4つすべてに関わる
S
安全Safety最優先ゲストとキャストの安全を最優先し、安心して過ごせる場をつくる
C
礼儀正しさCourtesyすべてのゲストをVIPと考え、思いやりのあるおもてなしをする
S
ショーShowパーク全体を舞台と捉え、世界観を守って体験を届ける
E
効率Efficiencyほかの鍵を守ったうえで、チームで無駄なく運営する

出典:株式会社オリエンタルランド公式サイト「行動規準 The Five Keys~5つの鍵~」(2026年9月確認)。各鍵の説明は編集部による要約

SCSEからThe Five Keysへ|インクルージョンを中心に

東京ディズニーリゾートのキャストには、長く「SCSE」という行動規準が共有されてきました。SCSEとは、安全・礼儀正しさ・ショー・効率を表す4つの英単語の頭文字です。並び順が、そのまま判断の優先順位です。

2021年、この規準にInclusion(インクルージョン)が加わりました。現在の名称は「The Five Keys~5つの鍵~」です(同社公式サイト)。インクルージョンとは、さまざまな考え方や背景を持つ人を歓迎し、尊重することです。例えば、言葉や体の状態が違うゲストにも、同じように楽しんでもらう姿勢を指します。5つの鍵の中心に置かれ、ほかの4つすべてに関わる考え方と位置づけられています。

私たちが研究ノートを見直して気づいたのは、ノートの記述が旧来の「SCSE」のままだったことです。同社の公式情報で確かめ、本記事では現行のThe Five Keysで説明しています。

細かな手順より「判断の順番」を共有する

テーマパークの現場では、想定外の出来事が毎日起こります。迷子のゲスト、急な雨、アトラクションの一時停止など、手順書だけでは対応しきれない場面ばかりです。

そうしたとき、キャストは5つの鍵を判断のよりどころにします。例えば、ショーの演出を守ることより、ゲストの安全を優先する。効率よりも、目の前のゲストへの礼儀正しさを大切にする。迷ったときの順番が決まっているので、経験の浅いキャストでも同じ方向の判断ができるわけです。

手順を細かく決めるほど、書いていない場面では人は動けなくなるものです。反対に、判断の順番を全員で共有しておけば、一人ひとりが現場で考えて動けます。準社員が7割を占める組織が、同じ質のサービスを保てている理由の一つがここにあります。

準社員から社員への登用ルート

オリエンタルランドは2019年度下期に、新しい雇用区分を設けました(同社ニュースリリース、2019年2月1日)。名前は「テーマパークオペレーション社員」です。パークの運営に特化したフルタイムの社員で、準社員を中心に、希望者から選考されます。

この区分の社員は、2021年度の2,161人から2025年度は3,080人へ増えました(同社「社会関連データ」)。さらに、社員(テーマパークマネジメント職)へ進む登用の道もあります。

現場で経験を積んだ人が、次は後輩を育てる側に回る。その循環が、行動規準を言葉だけでなく、日々の振る舞いとして受け継ぐ仕組みになっています。人手不足が続くなかで、現場で働く人が長く働き続けられる道を用意することは、サービスの質を守る投資とも言えます。

なぜ真似されないのか|40年かけて積み上げた3つの資産

ディズニーのブランドを借りれば、同じ事業ができるわけではありません。オリエンタルランドの強みは、土地・人・再投資の3つを、40年以上かけて積み上げてきた点にあります。私たちコントリ編集部が研究ノートを整理するなかで注目したのは、この「時間」という参入障壁でした。

真似されにくい3つの資産
再投資利益を自社に残し、ファンタジースプリングス約3,200億円など次の体験へ投じる
人行動規準The Five Keysと登用ルートで、現場で判断できる人を育て続ける
土地舞浜の埋め立て地を自社で保有。1960年設立の埋め立て会社が出発点
全体を支える前提:ディズニー社とのライセンス契約(最長2076年)

出典:オリエンタルランド 決算短信・ニュースリリースをもとにコントリ編集部作成

舞浜の広い土地を、自社で持っていること

オリエンタルランドは、埋め立て事業の会社として始まりました。その結果として、舞浜にまとまった広さの土地を持つ会社になりました。パークを広げ、ホテルを建て、新しいエリアをつくる余地が、自社の敷地の中にあるわけです。

ファンタジースプリングスの開発面積は約14万平方メートルでした(同社発表、2024年6月)。東京ディズニーシー開業以来、最大の拡張です。これだけの規模の拡張を、都市近郊で新たに土地を買って行うのは容易ではありません。

事業を広げる土台を、最初から自社で持っていた。その条件は、あとから参入する企業には用意しにくいものです。

現場で判断できる人を、毎年育て続けていること

2つ目の資産は、人です。先に見たとおり、単体従業員の約7割は準社員で、毎年多くの新しいキャストが加わります。その一人ひとりに、5つの鍵を判断のよりどころとして伝え続けてきました。

行動規準の文言を書き写すだけなら、難しくありません。しかし、それを数万人の日々の振る舞いにまで落とし込むには、長い時間がかかります。先輩キャストが後輩に教え、登用された社員が現場を支える。その積み重ねは、短期間では再現できません。

稼いだ利益を、次の体験に再投資し続けていること

3つ目は、再投資の習慣です。ライセンス方式のもとで、オリエンタルランドは利益を自社に残してきました。その利益を、ファンタジースプリングスのような新エリアに投じ続けています。

2026年8月には、東京ディズニーランドのトゥモローランドを2027年春から刷新すると発表しました。総投資額は約1,000億円です(同社発表、2026年8月13日)。2028年度には、日本でのディズニークルーズの就航も控えます。

「行くたびに新しい体験がある」状態を保つには、投資を止めないことが前提です。2025年4月に発表した「2035長期経営戦略」では、2035年度に売上高1兆円以上を目指すとしています(同社資料)。稼ぐ、残す、次の体験に投じる。この循環を40年以上回し続けてきたこと自体が、最も真似しにくい資産です。

同じ業界の未来予測については、テーマパーク業界の未来予測:オリエンタルランドが切り開く新たな道でも整理しています。

中小企業が持ち帰れる4つの問い

「東京ディズニーリゾートの話は、うちには規模が違いすぎる」と感じる経営者の方も多いのではないでしょうか。それでもオリエンタルランドの経営判断には、規模を問わず自社に置き換えられる論点があります。他社の力をどう借りるか、客数と単価のどちらを追うか、といった問いです。研究ノートの整理から見えた4つの問いにまとめます。

中小企業が持ち帰れる4つの問い
1
自社にない力を、出資ではなく契約で借りられないか最初の一歩:借りたい技術・ブランドと、契約期間・更新条件を書き出す
2
本業の「前後」で、お客様にもう一つ価値を届けられないか最初の一歩:来店前と来店後に、お客様がしていることを並べる
3
客数を追うか、1人当たりの価値を追うか最初の一歩:直近3年の客数と客単価を並べる
4
マニュアルの前に「判断の順番」を共有しているか最初の一歩:迷ったときの優先順位を3つだけ決める

出典:コントリ編集部のビジネスモデル研究ノート(2026年8月調査)をもとに作成

自社にない力を、出資ではなく契約で借りられないか

オリエンタルランドは、ディズニーという世界的なブランドを、出資ではなくライセンス契約で取り込みました。その代わり、稼いだ利益と投資の判断は自社に残しています。

中小企業でも、他社の技術や商標、ノウハウを契約で借りる方法はあります。フランチャイズへの加盟、技術ライセンス、共同ブランドの商品開発などが当てはまるでしょう。まずは「自社に足りない力」を1つ書き出し、それを持っている相手と組み方を考えてみてください。

取引先や同業者とのご縁を、契約という形で事業の柱に変える発想です。その際は、契約期間と更新の条件を最初に確かめます。借りた力が事業の中心になるほど、契約の条件が経営の土台そのものになるからです。

本業の「前後」で、お客様にもう一つ価値を届けられないか

東京ディズニーリゾートでは、ゲスト1人当たり売上高の約半分を、パーク内のグッズと飲食が占めています。さらにホテルが、来園の前と後の時間を受け持つ形です。

自社のお客様は、商品やサービスを受け取る前後に、何をしているでしょうか。例えば美容室なら、来店前の髪の悩みと、来店後の自宅でのケアです。工務店なら、引き渡し後の暮らしの困りごとが続きます。

お客様が過ごす時間を「前・本業・後」の3つに分けて書き出すと、まだ応えられていない場面が見えてきます。そこに届けられる商品を1つ決めるところから始められます。既存の店舗に新しいサービスを重ねていく考え方は、セブンイレブンのビジネスモデルにも通じます。

客数を追うか、1人当たりの価値を追うか

オリエンタルランドは、客数がピークを下回ったままでも、単価を上げて売上を伸ばしました。混雑を抑えて体験の質を守ることを、客数より優先した判断です。

中小企業では、値上げに踏み切るのは勇気がいるものです。値上げをすればお客様が離れる、という不安もあるでしょう。まずは直近3年の客数と客単価を並べてみてください。どちらの数字が売上を支えてきたのかが見えると、次に打つ手の順番が決まります。

混雑日と閑散日の差が大きい業種なら、日や時間帯で価格を変える発想も参考になります。一方で、値上げには体験価値の裏付けが欠かせません。値上げの前に、何を良くしたのかを言葉で説明できるかを確かめておきましょう。

マニュアルの前に「判断の順番」を共有しているか

東京ディズニーリゾートでは、準社員が単体従業員の約7割を占めます。それでもサービスの質が保たれているのは、判断の優先順位を5つの鍵で共有しているからです。

中小企業では、社長が現場にいないと判断が止まる、という悩みをよく耳にします。手順書を増やしても、書いていない場面はどうしても起こります。迷ったときに何を優先するかを、3つだけ決めて全員で共有する。それが、社長がいなくても現場が動ける状態への第一歩です。

例えば「お客様の安全、約束の納期、利益の順で考える」といった形です。優先順位を言葉にする作業は、経営者が大切にしてきた考えを言語化する作業でもあります。言葉にした順番は、採用や教育の場面でもそのまま使えます。自社の仕組みを長く磨き続ける別の例として、ユニクロのビジネスモデルもあわせてご覧ください。ほかの企業の稼ぎ方と比べたい方は、ビジネスモデル一覧もご覧ください。

まとめ|オリエンタルランドの仕組みを一言でいうと

オリエンタルランドのビジネスモデルは、ディズニーの世界観をライセンス契約で借り、パークとホテルを自前で運営する形です。2026年3月期の売上高は7,045億円で過去最高、営業利益率は23.9%でした。ゲスト1人当たり売上高18,403円のうち、約半分をグッズと飲食が生んでいます。

客数を追わず、変動価格制で1人当たりの体験価値と単価を高める。準社員が7割を占める現場を、5つの鍵という判断の順番で支える。稼いだ利益を、次の体験へ投じ続ける。借りた世界観を、自前で磨き続けてきた40年あまりの歩み。

自社に置き換えるなら、まず直近3年の客数と客単価を並べるところからです。

編集部コメント

決算短信と10年分の単価データを並べて印象に残ったのは、客数が戻らない時期にも、投資を止めなかったことでした。ファンタジースプリングスの投資額は、当初の約2,500億円から約3,200億円に膨らみました。それでも計画をやり遂げ、次のトゥモローランド刷新へとつなげました。キャストの行動規準を、時代にあわせて更新してきた姿勢にも、現場で働く人への敬意が表れていると私たちは捉えています。

自社の客数と客単価を3年分並べるところから、始めてみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. オリエンタルランドはディズニーの子会社ですか?

A. 子会社ではありません。オリエンタルランドはディズニー社から出資を受けておらず、ライセンス契約を結んで東京ディズニーリゾートを運営しています。筆頭株主は京成電鉄です。

Q2. オリエンタルランドの売上高と利益はどのくらいですか?

A. 2026年3月期の連結売上高は7,045億円で過去最高でした。営業利益は1,684億円、売上高営業利益率は23.9%です(同社決算短信、2026年4月28日)。

Q3. 東京ディズニーリゾートの客単価はいくらですか?

A. 2025年度のゲスト1人当たり売上高は18,403円です。内訳はチケット9,608円、商品5,227円、飲食3,569円でした(同社IRサイト「単価」)。

Q4. ディズニー社とのライセンス契約はいつまでですか?

A. 最長2076年までです。2018年6月の東京ディズニーシー拡張の合意にあわせ、最長2046年から延長されました(同社発表)。

Q5. 年間パスポートは廃止されたのですか?

A. 公式FAQでは「販売を休止」しており、「当面、販売再開の予定はない」と案内されています。2020年の休園と入園制限をきっかけに、販売が止まったままです。

Q6. 中小企業がオリエンタルランドから学べることは何ですか?

A. 他社の力を出資ではなく契約で借りる発想、本業の前後で価値を届ける収益設計が参考になります。客数より1人当たりの価値を追う判断、判断の優先順位を共有する人材育成も学べます。

参考資料

本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノート(2026年8月調査)です。2026年9月時点で確認できたオリエンタルランドの決算短信、IRサイト、公式発表、報道と照合しました。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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