
行動指針の例文30選|中小企業が現場で使える言葉に変える作り方
行動指針の例を探している経営者の方へ。行動指針とは、経営理念を「明日の仕事で、どう動くか」という一文に落とした判断基準のことです。良い行動指針は「お客様の困りごとを、自分の仕事として最後まで引き受けます」のように、動詞で終わり、場面が目に浮かびます。
「うちにも行動指針はあるけれど、誰も覚えていない」。経営者の方への取材を重ねるなかで、こうしたお声を何度も伺ってきました。原因の多くは、言葉が立派すぎて現場の行動と結びついていないことです。
本記事では、Amazonなど有名企業5社と、コントリが取材した中小企業3社の実例を紹介します。あわせて、そのまま使える例文30文も用意しました。後半は作り方の5ステップと、浸透のために経営者が担う役割です。自社の言葉をつくる手がかりになれば幸いです。
行動指針とは?経営理念・バリュー・行動規範との違い
行動指針とは、経営理念やバリューを社員一人ひとりの行動レベルまで具体化した言葉です。理念が「なぜ」、行動指針が「どう動くか」を担います。
理念は会社の存在理由を語る言葉なので、どうしても抽象的になります。その抽象的な言葉を、朝礼や商談、ミスが起きた直後といった具体的な場面に橋渡しするのが行動指針の役目です。似た言葉が多いため、最初に位置関係を整理しておきましょう。違いがわかると、このあと紹介する例文も自社に当てはめやすくなるはずです。
行動指針は「迷ったときの判断基準」
行動指針の役割は、社長がその場にいなくても、社員が同じ方向で判断できるようにすることです。たとえば、お客様から納期の前倒しを頼まれた場面を想像してみてください。
「顧客第一」とだけ書かれていると、無理をしてでも受けるか、品質を守って断るかで迷います。「約束できないことは、その場で正直に伝えます」と書かれていればどうでしょう。取るべき行動は一つに決まるはずです。
中古車販売のBUDDICAを率いる中野優作さんは、YouTubeでMVVの作り方を語っています。その動画のなかで、必要性を次のように説明していました。
「みんなが迷わないように、やる気が出るようにするために必要」
出典:BUDDICAの中野クン「組織が爆速成長したミッション、ビジョン、バリューの作り方を公開します。」(2024年5月公開)
迷いを減らす道具。それが行動指針の本質です。
経営理念・ミッション・バリューとの位置関係
行動指針は、理念を頂点とするピラミッドのいちばん下、現場にもっとも近い場所に置かれます。上から経営理念(存在意義)、ビジョン(目指す姿)、バリュー(価値観)、行動指針(ふるまい)という並びです。
ビジョンとは、会社が数年後に目指す姿のことです。例えば「地域で一番相談される工務店になる」といった形をとります。バリューとは、社員全員で共有する価値観のことです。例えば「誠実」「挑戦」のように、短い言葉で表されます。
会社によっては、バリューと行動指針を同じものとして扱います。メルカリはまさにその例で、採用サイトで4つのバリューを「ミッションを達成するための行動指針」と説明しています。呼び方より大切なのは、現場の行動まで具体的に降りているかという一点です。
MVV全体の実例は、ミッション・ビジョン・バリューの例|中小企業が参考にすべき15社の実例で紹介しています。
行動規範(コンプライアンス)との違い
行動指針とよく混同されるのが「行動規範」です。行動規範とは、社員が最低限守るべきルールを定めた文書のことです。例えば、法令の順守、ハラスメントの禁止、個人情報の扱い方などが書かれます。
両者の違いは、向いている方向にあります。行動規範は「これをしてはいけない」という守りの言葉。行動指針は「こう動こう」という攻めの言葉です。中小企業なら、まず行動指針をつくり、必要に応じて行動規範を就業規則とあわせて整える順番が進めやすいでしょう。違いを表にまとめました。
| 項目 | 経営理念 | バリュー | 行動指針 | 行動規範 |
|---|---|---|---|---|
| 答える問い | なぜ存在するか | 何を大切にするか | どう動くか | 何をしてはいけないか |
| 言葉の形 | 一文の宣言 | 価値を表す単語や短文 | 動詞で終わる行動文 | 禁止・遵守事項 |
| 主な使い道 | 存在意義の共有 | 採用・評価の軸 | 日々の判断 | リスク管理 |
| 見直し頻度の目安 | ほぼ変えない | 数年ごと | 年1回 | 法改正時 |
有名企業の行動指針の例|5社の実例
有名企業の行動指針は、数も長さもバラバラでも「判断の場面で使われている」点が共通しています。ここでは公式に公開されている5社の例を取り上げます。
5社を選んだ基準は、行動指針の「型」がそれぞれ違うことです。項目を多く並べる型、優先順位を示す型、短い言葉で言い切る型があります。どの型が自社に合うかを考えながら読み進めると、自社の行動指針の形が見えてきます。先に、5社の特徴を表で比べておきましょう。
| 企業 | 名称・数 | 書き方の型 | 出典(2026年10月確認) |
|---|---|---|---|
| Amazon | リーダーシップ・プリンシプル(16項目) | 短い英語の見出し+説明文 | Amazon採用サイト |
| ジョンソン・エンド・ジョンソン | 我が信条(4者への責任) | 責任の優先順位を文章で示す | Our Credo(同社公式) |
| メルカリ | バリュー(4つ) | 短い英語で言い切る | Mercari Careers |
| 京セラ | 京セラフィロソフィ | 判断基準+考え方の解説 | 京セラ公式サイトの解説ページ |
| 10 の事実(10項目) | 一文で言い切る | About Google |
Amazon|Our Leadership Principles
Amazonの行動指針にあたるのが、16項目の「リーダーシップ・プリンシプル」です。先頭は「Customer Obsession(顧客へのこだわり)」。ほかに「Bias for Action(行動を重視する)」「Frugality(倹約)」などが続きます。
注目したいのは、使われ方のほうです。Amazonの採用サイトによると、同社は新しい企画の議論でも問題解決でも、この原則を日々使っています。項目は多くても、会議で口にされる言葉になっているのが強みでしょう。
中小企業が学べるのは、「Have Backbone; Disagree and Commit」のような一文です。異を唱えたうえで、決まったことには全力で取り組む。会議の進め方そのものを決める一文として、そのまま自社に応用できます。
ジョンソン・エンド・ジョンソン|我が信条(Our Credo)
ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条(Our Credo)」は、1943年に起草された文書です。顧客、社員、地域社会、株主の4者に対する責任が、この順番で書かれています。
行動指針としての特徴は、判断に迷ったときの優先順位まで示している点にあります。株主への責任は最後に置かれ、信条の最後には、次の一文があります。「これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができる」。全文は同社日本法人の公式サイトで読めます。
中小企業でも、「お客様と社員の利益がぶつかったら、どちらを先に考えるか」を決めておくと、現場の判断は速くなります。優先順位を言葉にしておくこと自体が、社長の判断を社員に預ける準備と言えます。
メルカリ|Go Bold/All for One/Be a Pro/Move Fast
メルカリの行動指針は「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」「Move Fast」の4つです。同社がエンジニア向けに公開している資料では、それぞれ次のように訳されています。「大胆にやろう」「全ては成功のために」「プロフェッショナルであれ」「はやく動く」です。
4つと少なく、短い英語で言い切るため、社内の会話で使いやすい形をしています。メルカリの採用サイトでも、4つのバリューを「行動指針」として紹介しているほどです。
この型の良さは、覚えるための努力がいらないことです。「それ、Go Boldだね」と一言で褒められる言葉は、日常の会話に入り込みます。社員数が少ない会社ほど、真似しやすい型と言えるでしょう。
京セラ|京セラフィロソフィ
京セラの「京セラフィロソフィ」は、同社が社員一人ひとりの行動の指針となる考え方と位置づけているものです。中心にあるのは、「人間として何が正しいのか」を判断の基準とし、行動の原理とする考え方です。
創業者の稲盛和夫氏の考え方が土台になっており、京セラの公式サイトで概要が公開されています。稲盛氏の教えは、稲盛和夫の経営哲学|中小企業経営者が今日から実践できる10の教えでも取り上げました。
京セラの例が示すのは、判断基準が一つに定まっていれば、細かなルールがなくても社員は迷いにくいということです。何を正しいとするかを、社長の言葉で一文にしておく。それが行動指針の出発点になります。
Google|Google が掲げる 10 の事実
Googleは、会社の考え方を「Google が掲げる 10 の事実」として公開しています。先頭は「Focus on the user and all else will follow.」です。
日本語では「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」と訳されてきました。「Fast is better than slow.」のように、一文で言い切る形が特徴です。全文はGoogleの公式サイトで確認できます。
ここから学べるのは、判断の向きが一文で伝わる書き方です。「遅いより速いほうがいい」と言い切られていれば、迷ったときにどちらを選ぶかは明らかでしょう。
中小企業の行動指針の実例|コントリ取材先3社
大企業の例は分かりやすい一方で、「うちの規模では真似できない」と感じる方も多いはずです。ここでは、コントリが取材した中小企業3社の実例を紹介します。3社に共通するのは、言葉を作ったあとの「使い方」まで決めていることです。
3社は業種も規模も異なります。愛媛の設計事務所、情報セキュリティの認証支援会社、障害福祉の事業者です。それでも、行動指針を判断の軸として現場で使い続けている点は同じでした。経営者ご本人の言葉を、そのままご紹介します。
コラボハウス|「すべては友人のために」を行動指針に位置づけ直す
愛媛・松山発の設計事務所、株式会社コラボハウスには「すべては友人のために」という言葉があります。代表取締役の松坂直樹氏は、事業を引き継いだ際、この言葉を変えずに残しました。
「これだけ浸透しているものを変えるには、相当な覚悟が要る。それくらい大事な考え方だなと思ったので、ここはぶらさなかった」
そのうえで松坂氏は、この言葉を「行動に迷ったときに立ち返る行動指針」と位置づけ直します。そして、その上に置く経営理念を新たに建て直していきました。社内からは「こんな言葉遊びに何の意味があるんだ」という声も出たそうです。それでも松坂氏は、会社説明会で理念を語り続けています。
出典:選んだ道を、正解にする。──コンサルから継いだ地方の設計事務所を、松坂直樹はどう変革したか
UPF|行動指針を評価制度に紐づける
情報セキュリティの認証取得を支援する株式会社UPFは、行動指針を評価制度と結びつけています。代表取締役の仲手川啓氏は、理念の浸透について次のように語っていました。
「理念を掲げてカードを配るだけでは、浸透しません。ある程度優秀な人でも、自分事にはなかなかならない。社員が自分事にするには、やっぱり評価なんです」
UPFでは「変化を受け入れる」「陰で人を否定しない」「自分から明るく元気に」といった行動指針を評価制度に紐づけています。面談でフィードバックするときの軸にもなっているそうです。言葉を配って終わりにしない仕組みの好例と言えます。
出典:「セキュリティ被害のほとんどはルール未定着の人災」──情報セキュリティマネジメントシステム認証支援で5,500社を支えた経営哲学
ナーシング|10個以上の案を6つに絞る
放課後等デイサービスなどを運営する株式会社ナーシングの鈴木由紀子氏は、バリューを6つに絞り込みました。当初は英語で作ろうとして、10個以上の案があったそうです。
「他の会社さんでは、『うちのクレドは20ぐらいあるけど、見ないと言えません』という話を聞くことがあります。役員でも『なんだっけあれ』と言っているような。そうならないように、極力シンプルにしました」
同社では、朝礼のスピーチで6つのバリューをテーマにしています。すぐに言えるほど染み込ませることが狙いです。数を絞る判断と、毎日口にする場をセットにしている点が参考になります。
出典:4歳で言われた『使命を探せ』―看護師から起業家へ、福祉業界に健全な競争原理をもたらす挑戦
そのまま使える行動指針の例文30選|5つの場面別
中小企業の行動指針は、社員が実際に出会う場面ごとに一文ずつ用意すると現場で使われやすくなります。顧客・仕事の質・チーム・挑戦・誠実さの5場面に分け、各6文の例文をつくりました。
例文はすべて「〜します」「〜しません」の形で、読んだ瞬間に行動が浮かぶように書いています。そのまま使うより、自社の業種や社員の顔を思い浮かべながら言い換えると、自分たちの言葉になっていきます。気になる場面から読んでいただいて構いません。
顧客に向き合う行動指針の例
顧客に関する行動指針は、「顧客第一」のような標語で終わらせず、接客や対応の場面が浮かぶ文にするのがコツです。たとえば「約束の期日は、守れないと分かった時点ですぐ伝えます」と書けば、遅れそうなときに何をすべきかがはっきりします。
- 1お客様の困りごとを、自分の仕事として最後まで引き受けます
- 2迷ったら、お客様にとっての利益が大きいほうを選びます
- 3約束の期日は、守れないと分かった時点ですぐ伝えます
- 4お客様の声は、良い声も厳しい声も24時間以内にチームへ共有します
- 5売る前に、お客様の話を最後まで聞きます
- 6お客様を、名前でお呼びします
「24時間以内」のように数字が入ると、守れたかどうかを本人が確かめられます。厳しい声ほど共有が遅れがちなので、期限を決めておく意味は大きいはずです。
仕事の質を高める行動指針の例
仕事の質の行動指針は、品質を上げる具体的な動作を書くと機能します。「丁寧な仕事をします」では、人によって受け取り方が変わってしまいます。「次の工程の人が困らないかを確かめてから渡します」のように、相手と動作まで書き込みましょう。
- 1次の工程の人が困らないかを確かめてから渡します
- 2完成度6割の段階で一度見せ、早く直します
- 3思い込みではなく、数字と事実で話します
- 4同じミスを二度起こさない仕組みを、その日のうちに考えます
- 5期限の前日までに8割を仕上げます
- 6分からないことは、その場で聞きます
「完成度6割で一度見せる」は、抱え込みがちな若手社員にとって、相談してよいという許可にもなります。手戻りが減れば、結果として品質も納期も守りやすくなるでしょう。
チームで働く行動指針の例
チームの行動指針は、社員同士の関わり方を決める言葉です。少人数の会社ほど、一人の振る舞いが全体の空気に響きます。「人を責めず、仕組みを直します」のような一文は、ミスが起きたときの会話の向きを変えてくれます。
- 1困っている人を見かけたら、先に声をかけます
- 2反対意見は会議の中で伝え、決まったら全力で取り組みます
- 3ありがとうを言葉にして伝えます
- 4情報は抱え込まず、全員が見られる場所に置きます
- 5人を責めず、仕組みを直します
- 6自分の担当外でも、気づいたことは伝えます
2番目の文は、Amazonの「Disagree and Commit」を中小企業向けに言い換えたものです。会議で黙っていた人が、あとから陰で反対する。そんな状態を防ぐ一文として使えます。
挑戦と成長を促す行動指針の例
挑戦の行動指針は、失敗したときの扱いまで書いておくと本物になります。「挑戦しよう」とだけ掲げても、失敗を責める空気があれば誰も動きません。失敗の共有をほめる一文を、挑戦の言葉とセットで置きましょう。
- 1前例がないことを、やらない理由にしません
- 2失敗は隠さず、学びとしてチームに共有します
- 3月に1つ、新しいやり方を試します
- 4できない理由より、できる方法を先に話します
- 5自分より詳しい人に、素直に教わります
- 6一日の終わりに、昨日より一歩進んだかを振り返ります
「月に1つ」と頻度を決めておくと、挑戦は気合いの話から習慣の話に変わります。小さな試みを数えられる形にしておくことが、続けるための工夫です。
誠実さと信頼を守る行動指針の例
誠実さの行動指針は、信用を積み上げてきた中小企業にとって土台にあたる言葉です。取引先との長いご縁は、小さな約束を守り続けた結果として生まれます。悪い報告ほど早く上がる会社をつくるなら、「自分のミスは、自分から先に報告します」という一文が効きます。
- 1自分のミスは、自分から先に報告します
- 2見られていない場面でも、同じ基準で仕事をします
- 3できないことは、できないと正直に伝えます
- 4会社のお金は、自分のお金以上に大切に使います
- 5その場にいない人の悪口を言いません
- 6法律とルールを守ることを、売上より優先します
30文すべてを採用する必要はありません。自社の課題に近い場面から2〜3文ずつ選ぶのが、現実的な使い方です。
使われる行動指針と飾りの行動指針の違い
現場で使われる行動指針と、額に入れて終わる行動指針の差は、言葉の立派さではなく「書き方の型」にあります。動詞で終わること、数を絞ること、現場のエピソードから作ること。この3つで、多くの違いが説明できます。
逆に言えば、今ある行動指針が使われていないなら、この3点を見直すだけで生き返る見込みがあります。言葉を一から作り直す前に、まず手元の行動指針を3つの型に照らしてみてください。違いを図にまとめました。
15個以上ある
社長が一人で考えた
5~10個に絞る
社員のエピソードから作る
動詞で終わる・場面が浮かぶ
使われる行動指針は、文末が動詞で終わります。「誠心誠意」「チャレンジ精神」のような名詞の標語は、意味は伝わっても、明日の何を変えればよいかが見えません。
確かめ方はシンプルです。その一文を読んだ社員が「今日の仕事で何をすればいいか」を答えられるかどうか。答えられなければ、もう一段具体的にします。「誠心誠意」なら「できないことは、できないと正直に伝えます」まで降ろすと、行動が見えてきます。
場面が浮かぶかどうかは、新入社員に読んでもらうとすぐに判定できます。入社したばかりの人が迷わず動ける言葉なら、ベテランにとっても使える言葉です。
数は5〜10個に絞る
行動指針の数は、中小企業なら5〜10個が目安です。社員がそらで言える数を超えると、見返されないまま忘れられていきます。
Amazonの16項目は多く見えますが、日々の議論で繰り返し使われる仕組みとセットになっています。仕組みを整える余力が限られる中小企業なら、メルカリのように少ない数で言い切るほうが現実的でしょう。
足したい言葉が出てきたら、一つ足す代わりに一つ外すくらいの気持ちで構いません。数を守ること自体が、本当に大切な言葉を選ぶ訓練になるからです。
社長の言葉ではなく現場のエピソードから作る
私が取材の場で強く感じてきたことがあります。行動指針が浸透している会社ほど、言葉の裏に社員の具体的なエピソードがあるのです。「この一文は、あのときの〇〇さんの対応から生まれた」と語れる言葉は、社員にとって自分たちのものになります。
前出の中野さんは同じ動画で、書籍『ビジョナリー・カンパニー』に触れています。優れた会社の理念は内容がバラバラでも、「異常に浸透してる」点が共通しているという話です。
中身の正しさより、浸透しているかどうか。行動指針づくりも、ここから逆算すると進め方がはっきりします。
自社の行動指針を点検する5つのチェック
すでに行動指針がある会社は、次の5項目で点検してみてください。「いいえ」が2つ以上あれば、言葉を見直す時期と考えてよいでしょう。
- 1すべての行動指針が動詞で終わっている
はい/いいえ - 2数は10個以内に収まっている
はい/いいえ - 3社員の半数以上が、何も見ずに3つ以上言える
はい/いいえ - 4直近1か月の評価面談か朝礼で、行動指針の言葉が使われた
はい/いいえ - 5各行動指針の元になった社員のエピソードを、経営者が1つ以上語れる
はい/いいえ
3番目の「何も見ずに言えるか」は、次の朝礼で社員に聞くだけで確かめられます。答えられた数が、そのまま浸透度の目安です。
中小企業が行動指針を作る5ステップ
行動指針は、理念の確認→エピソード集め→一文化→絞り込み→仕組みへの組み込みの5ステップで作れます。社長が一人で書き上げず、途中で現場の声を入れることが、浸透への近道です。
期間の目安は、着手から運用開始までおよそ1か月。大がかりな研修や外部の手を借りなくても、朝礼と面談の時間を使えば進められます。手順の全体像を先に示しておきます。
ステップ1|理念とバリューを確認する
最初に、自社の経営理念とバリューを書き出します。行動指針は理念を行動に落としたものなので、土台の言葉があいまいなままでは方向が定まりません。
書き出したら、「この理念を体現している社員は誰か」を一人思い浮かべてみてください。名前が浮かべば、その人の行動がそのまま行動指針の素材になります。
理念そのものがまだ言葉になっていない場合は、先に理念づくりから始めましょう。進め方は経営理念の言語化|中小企業が「絵に描いた餅」で終わらせない4ステップにまとめています。
ステップ2|社員の「良い行動」のエピソードを集める
次に、社員が「これはうちらしい」と感じた行動のエピソードを集めます。朝礼や1on1で「最近、うちの会社らしいと思った同僚の行動は?」と聞くだけで十分です。
1日に1〜2件でも、2週間続ければ20件前後の材料がそろう計算です。「雨の日に、お客様の車まで傘を持って走った」のような小さな話こそ、行動指針の種になります。
集めた話は、日付と名前を添えてメモに残しておきましょう。完成後に「この一文はこの話から生まれた」と紹介できるため、浸透の段階で大きな力になります。
ステップ3|エピソードを動詞の一文にする
集めたエピソードを、「〜します」で終わる一文に言い換えます。傘のエピソードなら「頼まれる前に、お客様の不便に気づいて動きます」といった形です。
このとき、本記事の30の例文を横に置いて、言い回しの参考にしてください。似た意味のエピソードは一つにまとめ、10〜15文ほどの候補をつくります。
言い換えで迷ったら、「その行動をしなかった場合、何が起きたか」を考えると芯が見えます。傘の例なら、お客様が濡れたまま帰ることを防いだ、という点が核心です。
ステップ4|5〜10個に絞り、言葉を磨く
候補を5〜10個に絞ります。基準は「今の自社がいちばん大切にしたい場面か」と「読んで行動が浮かぶか」の2つです。
絞り込みは、経営者だけでなく社員の代表数名と一緒に行いましょう。社員に読み上げてもらい、言いにくい言葉や意味が伝わらない言葉をその場で直します。
声に出して自然に言える言葉ほど、現場で口にされます。最後に、全員の前で一度読み上げて違和感がないかを確かめれば完成です。
ステップ5|評価・採用・朝礼に組み込む
完成した行動指針は、日々の仕組みに組み込んで初めて動き出します。取り組みやすい入口は3つです。
一つ目は評価面談で、「どの行動指針を実践したか」を本人に話してもらうこと。二つ目は採用面接で、行動指針に共感できるかを確かめること。三つ目は朝礼で、週に1つの行動指針を取り上げることです。
評価制度との結びつけ方は、中小企業の評価制度の失敗例|運用崩壊の5類型と再設計ステップも参考になります。
経営者が行動指針を浸透させるためにやるべきこと
行動指針の浸透は、担当者の仕事ではなく経営者自身のふるまいで決まります。社長が使わない言葉を、社員が使い続けることはありません。
掲示や研修は入口にすぎず、言葉が定着するかどうかは、社長が日々どの言葉で判断し、どの言葉で人を評価するかにかかっています。浸透のために経営者が担う役割を、3つに絞って整理しました。
社長が最初に破らない
行動指針は、社長が破った瞬間に効力を失います。「自分のミスは、自分から先に報告します」と掲げたなら、社長自身が自分の判断ミスを朝礼で話すところから始めてください。
社員は、掲示された言葉よりも社長の行動をよく見ています。トップが自分の失敗を言葉にする姿を一度見せれば、どんな研修よりも早く浸透が進むはずです。
反対に、社長だけが例外扱いされる行動指針は、社員にとって「建前」に変わります。守れない一文があるなら、掲げる前に言葉を直すほうが誠実です。
行動指針で褒める・行動指針で叱る
褒めるときも注意するときも、理由を行動指針の言葉で伝えます。「〇〇さんが情報を共有フォルダに置いてくれたので、引き継ぎがスムーズでした」。こうして行動と一文を結びつけて伝えるのです。
声かけが重なると、行動指針は掲示物から「うちの会社の共通言語」へと育ちます。注意するときも同じで、「人を責めず、仕組みを直そう」と行動指針の言葉を使えば、感情的な叱責になりにくくなります。
社内に向けた言葉づくりの全体像は、中小企業のインナーブランディングの進め方|社員が動く5ステップで解説しています。
年に一度、言葉を見直す
行動指針は、一度作ったら終わりではありません。事業が変われば、大切にすべき場面も変わります。年に一度、社員と一緒に「この一文は使われているか」を確かめ、使われていない言葉は入れ替えましょう。
見直しの場は、経営者が社員の本音を聞く機会でもあります。「この言葉は、正直ピンとこない」という声が出たら、それは言葉を磨くチャンスです。
経営者の想いを言葉にし直す方法は、経営者の想いを言語化する方法|組織を動かす言葉に変えるも参考にしてください。
まとめ|行動指針は「迷ったときの一文」から始める
行動指針とは、理念を明日の行動に落とした判断基準です。動詞で終わる一文を、5〜10個に絞り、現場のエピソードから作る。これが、使われる行動指針の条件です。
Amazonやメルカリのような有名企業も、コントリが取材した中小企業も、作った言葉を評価や朝礼で使い続けていました。まずは本記事の例文30文から、自社に近い場面の一文を選んでみてください。そこに自社のエピソードを重ねれば、行動指針の最初のたたき台ができあがります。
行動指針の例に関するよくある質問
行動指針づくりで、経営者の方からよく寄せられる質問をまとめました。作る前の迷いから、作ったあとの運用まで、8つの疑問に短くお答えします。
Q. 行動指針はいくつ作るのがよいですか?
中小企業なら5〜10個が目安です。社員がそらで言える数を超えると、現場で使われにくくなります。迷ったら5個から始め、運用しながら足していく方法がおすすめです。最初から完璧な数を目指すより、使われる5個を育てるほうが近道と言えます。
Q. 行動指針と行動規範の違いは何ですか?
行動指針は「こう動こう」という前向きな判断基準です。一方の行動規範は、法令順守やハラスメント禁止など「守るべき最低限のルール」を定めたものを指します。役割が違うため、両方を持つ会社も珍しくありません。
Q. 他社の行動指針をそのまま使ってもよいですか?
たたき台として参考にするのは問題ありません。ただ、そのまま使うと自社のエピソードと結びつかず、浸透しにくくなります。本記事の例文も、自社の言葉に言い換えてからお使いください。
Q. 行動指針はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
年に一度の見直しが目安です。事業の転換や、社員数が大きく増えたタイミングでも見直しましょう。見直しの際は、経営者だけで決めず、社員の声を聞く場を設けるのがポイントです。
Q. 社員が少ない会社でも行動指針は必要ですか?
社員が数名の段階でも、作る価値は十分にあります。人数が少ないうちは社長の考えが直接伝わるため、つくる手間も小さく済みます。採用で人が増えたとき、社長の判断基準を新しい仲間へ渡す土台にもなります。
Q. 行動指針はどこに掲示すればよいですか?
事務所の壁に貼るだけでなく、社員が毎日開く場所に置くのが効果的です。社内チャットの固定メッセージ、日報の書式、名刺の裏面などが使いやすい場所でしょう。
Q. 行動指針を作ったら、社員から反発されました。どうすればよいですか?
反発は、言葉に関心がある証拠でもあります。コラボハウスの松坂氏も、社内で「こんな言葉遊びに何の意味があるんだ」と言われながら、理念を語り続けました。反対意見を聞いて言葉を直す場を設けつつ、経営者自身が使い続けることが近道です。
Q. 行動指針づくりは外部のコンサルタントに頼むべきですか?
社員数十名までの会社なら、社内で十分に作れます。外部に頼む場合も、言葉の材料になるエピソードは社内にしかありません。進行役を外部に任せても、言葉を選ぶのは経営者と社員自身であるべきです。
編集部コメント
編集部が経営者の方に行動指針への想いを伺うと、多くの方が社員の名前と具体的な場面を挙げてくださいます。言葉そのものより先に、守りたい場面と人が頭に浮かんでいるのです。
行動指針づくりは、新しい価値観をつくる作業ではありません。すでに会社にある想いを、社員と一緒に言語化する作業だと考えています。経営者の想いは、誰かに聞かれることで初めて言葉になります。社長が社員に問いかけ、社員が社長に問い返す。そのご縁の積み重ねが、行動指針を自分たちの言葉に育てていきます。まずは今週の朝礼で、「最近、うちらしいと思った同僚の行動は?」と一つだけ聞いてみてください。そこで出てきたエピソードが、自社の行動指針の最初の一文になります。

