コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

値引き率の計算方法|1割引きで粗利が3分の1消える理由

値引き率の計算方法|1割引きで粗利が3分の1消える理由

「今回だけ1割引いてもらえませんか」。商談の最後にそう言われ、その場で応じてしまった経験はないでしょうか。即答したあとで、粗利の減り方に驚いたというお声をよく伺います。

値引き率は「値引き額÷元の価格」で計算します。1万円の商品を8,000円で売るなら、2,000円÷1万円で値引き率は20%です。値引き後の価格は「元の価格×(1−値引き率)」で求められます。

経営者が見るべきなのは計算の先です。粗利率30%の商品を1割引きすると粗利は3分の1が消え、元に戻すには1.5倍売らなければなりません。

本記事では、3つの式と早見表、二重の値引きの落とし穴を押さえます。そのうえで粗利への影響、取り戻すのに必要な数量、値引き前の確認事項、広告表示の注意点を整理しました。判断の材料になれば嬉しく思います。

値引き率とは|元の価格から何%下げたかを示す数字

値引き率とは、元の価格に対して値引き額が何%にあたるかを示す比率です。「2割引き」「20%オフ」「20%値引き」は、どれも値引き率20%を意味します。分母は常に「値引き前の価格」である点が、計算の出発点です。

言い方は違っても、指している金額は同じ
元の価格1万円の商品を8,000円で売る場合
言い方意味1万円の場合の売価
値引き率20%元の価格から20%を下げる8,000円
2割引き元の価格から2割を下げる8,000円
20%オフ元の価格から20%を下げる8,000円
8掛け元の価格の8割で売る8,000円
元の価格の80%元の価格に0.8を掛ける8,000円
注意:「20%の価格」は元の価格の2割、つまり2,000円で売るという意味になり、上の5つとは別物です。

値引き率・割引率・○割引きの関係

値引き率と割引率は、日常の商取引ではほぼ同じ意味で使われます。どちらも「元の価格から何%下げたか」を表す言葉です。「○割引き」は、その割合を10分の1単位で言い表したもので、1割引きは10%、3割引きは30%です。

一方で、金融の世界の「割引率」は意味が違います。将来のお金を今の価値に直すときに使う利率のことで、例えば投資判断で使う数字です。本記事で扱うのは、売価から下げる幅としての値引き率です。

言い回しの違いで混乱しやすいのは、「○%オフ」と「○%の価格」です。「20%オフ」は元の価格の80%で売ること、「20%の価格」は元の価格の2割で売ることを指します。商談やチラシの原稿では、どちらの意味かを一度声に出して確かめると取り違えを防げます。

値引き率と掛け率は表と裏

値引き率と掛け率は、同じ価格を反対側から見た数字です。掛け率とは、元の価格に対して売価が何割にあたるかを示す取引用語のことです。例えば上代(メーカーが決める小売価格)1万円の商品を7,000円で卸すなら「7掛け」と呼びます。

掛け率=1−値引き率という関係にあり、7掛けは3割引きと同じ金額です。ただし使う場面は違います。掛け率は卸取引の条件を決めるとき、値引き率は売価から下げる幅を話すときに使われます。

注意したいのは、掛け率で決めた卸値から、さらに値引きを重ねる取引です。7掛けの卸値からさらに1割引くと、上代に対しては63%となり、想定より粗利が減ります。卸値の決め方は「掛け率の計算方法」で詳しく整理しています。

税込・税抜のどちらで計算するか

率で値引きする場合は、税込・税抜のどちらから計算しても値引き率は同じです。税抜1万円・税込11,000円の商品を20%引きすると、税抜8,000円・税込8,800円で、比率は変わりません。

ずれが生まれるのは、金額で値引きする場合です。「1,000円引き」を税込11,000円から引けば10,000円で、値引き率は約9.1%です。税抜1万円から引くと税抜9,000円・税込9,900円になり、値引き率は10%です。同じ「1,000円引き」でも、お客様の支払額が100円違います。

見積書やチラシでは、どちらの価格から引いたのかを明記しておくことです。消費者向けの価格表示は、2021年4月から総額表示が義務になりました。総額表示とは、消費税を含めた支払総額を示す表示のことです。値引き後の価格も税込で示すのが基本と考えておくと安心です。詳しくは国税庁の総額表示の案内で確認できます。

値引き率の計算方法|3つの式と早見表

値引きの計算に使う式は3つで、手元にある数字によって使い分けます。値引き率を知りたいときは「値引き額÷元の価格」を使います。値引き後の価格なら「元の価格×(1−値引き率)」です。元の価格を逆算するなら「値引き後の価格÷(1−値引き率)」で求めます。

3つの式の関係を、先に全体図で確認しておきましょう。

手元の数字で、使う式が決まる
値引き計算の3つの式
1. 元の価格と値引き後の価格がある
▶
値引き率=(元の価格−値引き後の価格)÷元の価格例:(10,000−8,000)÷10,000=20%
2. 元の価格と値引き率がある
▶
値引き後の価格=元の価格×(1−値引き率)例:10,000×(1−0.2)=8,000円
3. 値引き後の価格と値引き率がある
▶
元の価格=値引き後の価格÷(1−値引き率)例:8,000÷(1−0.2)=10,000円
分母に置くのは、いつも値引き前の価格です。

値引き率=値引き額÷元の価格

値引き率を求める基本式は、値引き率=値引き額÷元の価格×100です。値引き額とは、元の価格から下げた金額のことを指します。例えば1万円の商品を8,500円で売ったなら、値引き額は1,500円です。

計算は1,500÷10,000=0.15で、値引き率は15%です。値引き額がわからないときは、先に「元の価格−値引き後の価格」で値引き額を出してから割ります。

取り違えやすいのは、分母に値引き後の価格を置いてしまうことです。1,500÷8,500で計算すると約17.6%となり、実際より大きな数字が出ます。分母は常に値引き前の価格。これだけ覚えておけば迷いません。

値引き後の価格と元の価格の出し方

値引き後の価格は、元の価格×(1−値引き率)で求めます。1万円の2割引きなら、10,000×(1−0.2)=8,000円です。値引き額を出してから引き算する方法もありますが、掛け算1回で済むこの式のほうが、計算ミスを防げます。

反対に、値引き後の価格から元の価格を逆算する場合は、値引き後の価格÷(1−値引き率)です。「3割引きで7,000円だった商品の元値はいくらか」なら、7,000÷0.7で、答えは10,000円です。

ここで7,000円に1.3を掛けて9,100円とするのは誤りです。3割引きした価格に3割を足しても、元の価格には戻りません。値引きと値上げは分母が違うため、同じ率で行き来できないという点が、現場で見落とされやすいところです。

1万円の商品の早見表(5%〜30%)

よく使う値引き率ごとに、1万円の商品の値引き後の価格と値引き額をまとめました。元の価格が5万円なら5倍、3,000円なら0.3倍すれば、そのまま使えます。

商談の場で即答を求められたときにも、この表が手元にあれば判断が速まるはずです。

値引き率言い方値引き額値引き後の価格
5%—500円9,500円
10%1割引き1,000円9,000円
15%—1,500円8,500円
20%2割引き2,000円8,000円
25%—2,500円7,500円
30%3割引き3,000円7,000円

表のとおり、値引き後の価格は「元の価格×残る割合」で決まります。2割引きなら0.8、3割引きなら0.7を掛けるだけです。端数のある価格でも、この掛け算を覚えておけば電卓1回で答えが出ます。

Excelでの計算式

値引き計算を何度も行うなら、Excelやスプレッドシートに式を入れておくと手間が省けます。A列に元の価格、B列に値引き率、C列に値引き後の価格を置く想定で、使う式は次の3つです。

値引き後の価格(C2): =A2*(1-B2)
値引き率(B2)   : =(A2-C2)/A2
元の価格(A2)   : =C2/(1-B2)

値引き率のセルは、表示形式を「パーセント」にしておくと、0.2が20%と表示され、読み違えを防げます。端数を整えたいなら、=ROUNDDOWN(A2*(1-B2),0) のように丸め方を式に組み込みます。担当者ごとの計算のぶれも、これでなくなります。

間違えやすい値引き計算|二重の値引きと端数

値引きの計算で最も多い誤りは、値引きを重ねたときの足し算です。「2割引きからさらに1割引き」は3割引きではなく28%引きになります。2回目の値引きは、下がったあとの価格にかかるためです。

2割引きのあとに1割引きは、3割引きではない
元の価格10,000円の場合
足し算した場合(誤り)

2割+1割=3割引き

7,000円

値引き率 30%

実際の計算

10,000円×0.8×0.9

7,200円

値引き率 28%

差額は200円。2回目の値引きは、下がったあとの8,000円にかかるためです。重ねた値引き率=1−(1−0.2)×(1−0.1)=0.28

店頭の割引計算がどれほど迷われているかは、解説動画の再生数にも表れています。○割引き・○%引きの計算方法を解説したYouTube動画「知らないと損する!小学生でも出来る【○○%引き・○割引】の簡単な計算方法」は、200万回を超えて再生されています(2026年11月時点)。値引き率は、大人でも暗算で取り違えやすい数字だと言えるでしょう。

2割引き+1割引きは28%引き

1万円の商品を2割引きすると8,000円です。そこからさらに1割引くと、8,000×0.9で7,200円です。元の価格から下がった額は2,800円なので、値引き率は28%です。

計算式で表すと、重ねた値引き率=1−(1−1回目)×(1−2回目)です。1−0.8×0.9=0.28です。値引き後に「残る割合」を掛け合わせる。これが、取り違えない近道です。

逆に「3割引き」と伝えたつもりで、現場が「2割引きのあとに1割引き」で処理すると、お客様の支払額は200円高くなります。値引きを重ねるキャンペーンでは、最終的な値引き率を1つの数字で書いておくと、説明の食い違いを防げます。

端数処理は切り捨てか四捨五入か

値引き後の価格に1円未満の端数が出たら、どう丸めるかを決めておきます。選択肢は切り捨て・切り上げ・四捨五入の3つです。1,290円の15%引きは1,096.5円で、切り捨てなら1,096円、四捨五入なら1,097円です。

1円の差でも、レジや請求書の金額が担当者ごとに違えば、お客様からの問い合わせにつながります。

切り捨て・四捨五入のどちらで処理しても、法律で決まっているわけではありません。自社のルールを1つに決め、レジや見積ソフトの設定をそろえておくことが、有効な対策です。

ポイント還元は値引きと同じではない

「10%値引き」と「10%ポイント還元」は、同じ10%でもお客様が受け取る価値が違います。1万円の買い物で1,000ポイントが付く場合を考えます。次の買い物でポイントを使うと、11,000円分の商品を1万円で手にする計算です。

実質の値引き率は1,000÷11,000で約9.1%にとどまります。しかもポイントには使われない分もあるため、売り手の負担はさらに小さく済みます。

同じ10%でも、値引きとポイント還元は別物
1万円の買い物の場合
10%値引き

支払額:9,000円

実質の値引き率

10%

効果:今回の購入を後押しする

10%ポイント還元

支払額:10,000円+1,000ポイント付与

実質の値引き率

約9.1%

効果:次の来店を促す

ポイント還元の実質値引き率=1,000÷11,000。ポイントがすべて使われた場合の計算です。

一方で、ポイントは次の来店を促す効果を持ちます。どちらを選ぶかは、目的で決めます。今回の購入を後押ししたいのか、次の来店につなげたいのか、という違いです。

値引き1割で粗利はいくら減るか

値引きは売価だけを下げ、原価は1円も下がりません。そのため値引き額は、そのまま粗利から差し引かれます。粗利率30%の商品を1割引きで売ると、粗利率は約22%に下がり、1個あたりの粗利額は3分の1が消えます。

値引き後の粗利率の計算式

粗利率とは、売上に占める粗利(売上−原価)の割合のことです。例えば1万円で売って原価が7,000円なら、粗利は3,000円で粗利率は30%です。値引き後の粗利率は、次の式で求められます。

値引き後の粗利率=(粗利率−値引き率)÷(1−値引き率)

粗利率30%・値引き率10%なら、(0.3−0.1)÷(1−0.1)で約22.2%です。値引き率は10%なのに、粗利率は7.8ポイント下がります。粗利率の考え方そのものは「利益率の計算方法」で整理しています。

粗利率30%の商品を1割引きした場合

具体的な金額で見てみましょう。以下は編集部の試算例です。売価1万円・原価7,000円の商品を、月に100個売っている会社があるとします。値引きしなければ、1個あたりの粗利は3,000円、月の粗利は30万円です。

この商品を1割引きの9,000円で売ると、原価は7,000円のままなので、1個あたりの粗利は2,000円に減ります。同じ100個を売っても、月の粗利は20万円です。

売上は1割しか減っていないのに、粗利は3分の1が消えています。

売上の数字だけを追っていると、この差は見えにくいものです。「売上は伸びたのに手元に残らない」。私たち編集部は、経営者の方々からこの悩みをたびたび伺います。その裏に、積み重なった値引きがあったという話は少なくありません。値引きを判断するときは、売上ではなく粗利の金額で比べるのが基本です。

原価は1円も下がらず、値引き額は粗利から消える
売価10,000円・原価7,000円の商品を1割引きした場合(編集部の試算例)
粗利
3,000円
原価
7,000円
値引き −1,000円
粗利
2,000円
原価
7,000円
粗利
2,000円
原価
7,000円
値引きなし
10,000円
1割引き
−1,000円
値引き後
9,000円
月100個販売なら、粗利は 30万円 → 20万円。売上は1割減、粗利は3分の1減。

1%の値下げで営業利益は11.1%減る

値引きの影響は、粗利よりも営業利益で見るとさらに大きく表れます。営業利益とは、粗利から人件費や家賃などの販売費・一般管理費を差し引いた、本業のもうけのことです。

マッキンゼーのマーンとロシエロは、1992年に価格と利益の関係を試算しました。ハーバード・ビジネス・レビューの論文「Managing Price, Gaining Profit」です。平均的な企業の費用構造をもとにしています。販売数量が変わらなければ、1%の値上げで営業利益は11.1%増えます。論文は逆も同じだと述べ、1%の値下げは営業利益の11.1%を失わせるとしています。

30年以上前の試算ですが、構造は今も変わりません。固定費は値引きしても減らないため、値引き額は粗利を経由して、営業利益をそのまま削ります。営業利益率が低い会社ほど、わずかな値引きが利益の大部分を消すと考えておくと、判断を誤りません。

値引き分を取り戻すには何個多く売ればいいか

値引きで減った粗利を取り戻すのに必要な数量の伸びは、値引き率÷(粗利率−値引き率)で求められます。粗利率30%で1割引きするなら、0.1÷0.2=0.5で、元の粗利を確保するには1.5倍売らなければなりません。

必要販売数量の計算式

先ほどの例で確かめてみましょう。値引き前は1個3,000円の粗利で100個、月30万円です。1割引き後の粗利は1個2,000円なので、30万円を確保するには30万÷2,000円で150個が必要です。

式で表すと、必要な販売数量=元の数量×粗利率÷(粗利率−値引き率)です。100×0.3÷0.2=150個。「1割引きで売上が1割増えれば元が取れる」と考えがちですが、実際には5割増やして、ようやく値引き前と同じ粗利に戻ります。

値引きで来てくださったお客様が、そのまま定価で買い続けてくださるとは限りません。値引きの効果を見込むなら、取り戻すのに必要な数量を先に計算し、それが現実的な数字かを確かめておくことです。

粗利率×値引き率の早見表

粗利率と値引き率の組み合わせごとに、元の粗利を確保するのに必要な販売数量をまとめました。自社の主力商品の粗利率の行を見てみてください。値引きの重さが一目で伝わるはずです。

元の粗利を確保するのに必要な販売数量
値引き前の数量を1とした倍率(色が濃いほど多く売る必要がある)
粗利率5%引き10%引き15%引き20%引き
粗利率20%1.33倍2.0倍4.0倍確保不可
粗利率30%1.2倍1.5倍2.0倍3.0倍
粗利率40%1.14倍1.33倍1.6倍2.0倍
粗利率50%1.11倍1.25倍1.43倍1.67倍
計算式:必要な数量の倍率=粗利率÷(粗利率−値引き率)。粗利率が値引き率以下の場合、いくら売っても元の粗利には戻りません。編集部の試算。

表を見ると、粗利率が低い商品ほど、少しの値引きで必要な数量が跳ね上がるという事実です。粗利率20%の商品を15%引きすると、元の粗利を確保するには4倍売る必要があります。一方で粗利率50%の商品なら、2割引きでも1.67倍で済みます。

粗利率が値引き率以下なら売っても粗利は残らない

粗利率と同じかそれ以上の値引きをすると、売るたびに粗利はゼロ以下に落ちます。粗利率20%の商品を2割引きすれば、売価は原価と同じです。いくら数量を増やしても、粗利は1円も生まれません。

さらに人件費や配送費を考えると、粗利がゼロの商品は売るほど営業利益を減らします。在庫処分のように、原価割れを承知で売る場面もあるでしょう。それ以外では、粗利率を超える値引きは経営者の判断なしに通さないと決めておくと安心です。

損益分岐点の考え方と組み合わせると、値引きで黒字の線がどれだけ遠のくかも見えてきます。詳しくは「損益分岐点の計算方法」をご覧ください。

経営者が値引きを決める前に確認する4つのこと

値引きは、会社に残る利益を直接左右する経営判断です。確認するのは、値引きの目的、商品ごとの下限、期限と対象、値引き以外の手段の4つです。経営者が先に決めておけば、商談の場で迷いません。

値引きを決める前に確認する4つのこと
商談の前に経営者が決めておく項目
  • ✓何のための値引きかを一文で言えるか在庫を減らす、新規客に試してもらう、大口を取るなど、目的で幅と期限が変わります
  • ✓商品ごとの値引き下限を決めているか上限=(粗利率−残したい粗利率)÷(1−残したい粗利率)で商品一覧に書き込みます
  • ✓期限と対象を区切っているか今月末まで、初回のみ、100個以上など。見積書にも理由と期限を書きます
  • ✓値引きの代わりに付けられる価値はないか納期、保証、付属品、支払条件。原価が値引き額より小さければ粗利の減り方を抑えられます
下限を超える要望だけを経営者に上げる仕組みにすると、現場は範囲内で即答できます。

何のための値引きかを一文で言えるか

最初に確かめたいのは、値引きの目的です。在庫を減らしたいのか、新しいお客様に試してもらいたいのか、大口の取引を取りたいのか。目的が違えば、値引きの幅も期限も変わります。

目的を一文で言えない値引きは、たいてい「言われたから」「他社も下げているから」という理由で決まっています。私たち編集部は、経営者インタビューを続けるなかで感じていることがあります。値決めの理由を自分の言葉で語れる経営者ほど、値引きを求められても動じないのです。値引きの目的を言葉にしておくことは、価格を守るための準備でもあります。

商品ごとの値引き下限を決めておく

次に、商品ごとに「ここまでなら値引きしてよい」という下限を決めます。下限は、値引き後も最低限残したい粗利率から逆算します。値引きの上限=(粗利率−最低限残したい粗利率)÷(1−最低限残したい粗利率)です。

粗利率40%の商品で、値引き後も25%は残したいとします。(0.4−0.25)÷(1−0.25)=0.2で、20%引きが上限です。この数字を商品一覧に書き込んでおけば、営業担当はその範囲で即答できます。超える要望だけを経営者に上げる仕組みの完成です。

期限と対象を区切る

値引きは、一度始めると元に戻しにくいものです。期限を決めずに続けると、お客様にとっては値引き後の価格が「いつもの価格」として定着します。定価に戻した途端に、値上げと受け止められてしまうのです。

値引きをするときは「今月末まで」「初回の取引のみ」「100個以上の注文に限り」のように、期限と対象を区切って伝えます。見積書や請求書にも、値引きの理由と期限を書いておくと、次回の交渉で同じ条件を求められても説明に困りません。

値引きの代わりに付けられる価値はないか

最後に、値引き以外の手段がないかを考えます。価格を下げる代わりに、納期を早める、保証期間を延ばす、付属品を付ける、支払条件を柔軟にするといった方法です。

付ける価値の原価が値引き額より小さければ、お客様の満足を保ったまま、粗利の減り方を抑えられます。例えば1万円の商品で1,000円の値引きを求められたとします。原価300円の付属品で納得していただければ、粗利の減少は300円で済みます。値引きを求める声の裏にある本当の要望を聞き取ることが、ここでの出発点です。

値引きを広告に出すときの注意点|二重価格表示

元の価格と値引き後の価格を並べる表示を、二重価格表示といいます。例えば「通常価格1万円のところ8,000円」という表示です。比べる元の価格が、最近相当期間にわたって実際に販売していた価格であれば、不当表示に該当するおそれはありません。実際に売っていない価格を並べると、景品表示法の有利誤認表示にあたるおそれがあります。有利誤認表示とは、実際より有利な取引だとお客様に誤解させる表示のことです。

比較する元の価格は実際に売っていた価格か

消費者庁は「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)で、二重価格表示の考え方を示しています。過去の販売価格と比べる場合、その価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であることが求められます。

目安は、セール開始時点からさかのぼる8週間です。その過半の期間、その価格で販売されていれば足りるとされています。ただし、その価格での販売が通算2週間未満の場合や、最後に販売した日から2週間以上たっている場合は、この目安にはあたりません(価格表示ガイドライン本文 第4の2(1)ア(ウ))。数日だけ高い価格を付けてから値引きする表示は、条件を満たさないということです。条件を満たさない価格と比べる場合は、いつ、どのくらいの期間販売されていた価格かを正確に書く必要があります。

二重価格表示で比べる価格は4種類
問題ない条件と、不当表示のおそれがある例
過去の販売価格

○ 条件:最近相当期間にわたって販売していた価格(セール開始前8週間の過半が目安)

△ 例:数日だけ付けた高い価格を「通常価格」と表示

将来の販売価格

○ 条件:実際にその価格で販売する十分な根拠がある

△ 例:売る予定のない価格や、ごく短期間だけの価格

希望小売価格

○ 条件:メーカー等が設定し、カタログ等で公表している

△ 例:希望価格がないのに「メーカー希望価格の半額」と表示

他社の販売価格

○ 条件:同じ商品を買える他社の最近の販売価格

△ 例:正確に調べずに「市価の半額」と表示

出典:消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)

希望小売価格や他社価格と比べる場合

「メーカー希望小売価格の30%オフ」のように、希望小売価格と比べる表示も見かけます。この場合、その価格がメーカーなどにより設定され、カタログなどで公表されている必要があります。消費者庁のページには、不当な表示の例としてメガネ店の事例が載っています。メーカー希望価格が設定されていないのに「メーカー希望価格の半額」と表示した例です。

他社の価格と比べる場合も同じです。お客様が同じ商品を実際に買える他社の、最近の販売価格でなければなりません。「市価の半額」と書くなら、競合する相当数の事業者の実際の価格を正確に調べていることが前提です。

自社サイトやチラシで見ておく3つの点

自社サイトやチラシで値引きを打ち出す前に、確認しておきたいことは3つです。比較する元の価格で、実際にどれだけの期間販売していたか。希望小売価格を使うなら、公表された価格か。他社と比べるなら、調査した日付と対象を記録しているか。

値引き表示の原稿を出す前の3つの確認
チラシ・自社サイト・ECの商品ページ共通
  • ✓元の価格で販売していた期間を、販売記録で確かめたかセール開始前8週間の過半が目安。通算2週間未満や、最後の販売から2週間以上たった価格は不可
  • ✓希望小売価格は、メーカーが公表している価格かカタログやメーカーサイトで公表されているかを確認します
  • ✓他社価格と比べるなら、調査日と対象を記録しているか同じ商品を買える他社の、最近の販売価格であることが前提です
出典:消費者庁 価格表示ガイドライン 第4の2(1)ア(ウ)ほか

社内で原稿を作る担当者が、このルールを知らないまま「通常価格」を書いてしまうことは珍しくありません。表示の責任は会社にあります。値引き表示の原稿は、元の価格の根拠となる販売記録とセットで確認する運用にしておけば、思わぬ指摘を避けられます。判断に迷う場合は、消費者庁や都道府県の景品表示法の相談窓口に問い合わせることも可能です。

まとめ|値引き率は「計算」より「下限を先に決める」

値引き率の計算は、3つの式で足ります。値引き率=値引き額÷元の価格、値引き後の価格=元の価格×(1−値引き率)。元の価格を逆算するなら、値引き後の価格÷(1−値引き率)です。値引きを重ねるときは掛け算で考え、2割引き+1割引きは28%引きです。

経営者が押さえたいのは、その先の判断です。値引きは原価を下げません。粗利率30%の商品を1割引きすると粗利は3分の1が消え、取り戻すには1.5倍売る必要があります。だからこそ、値引きの目的を言葉にし、商品ごとの下限と期限を先に決めておくことが欠かせません。

まずは主力商品3つの粗利率を確かめ、早見表で「1割引きしたら何倍売る必要があるか」を出すところから着手してみてください。数字が見えれば、次の商談で値引きを求められたときの答え方は、もう決まっています。

よくある質問

Q. 値引き率はどうやって計算しますか? A. 値引き率=値引き額÷元の価格×100で求めます。1万円の商品を8,000円で売るなら、値引き額2,000円÷1万円で値引き率は20%です。分母は値引き後の価格ではなく、値引き前の価格に置きます。

Q. 2割引きの価格はどう計算しますか? A. 元の価格×(1−0.2)、つまり元の価格×0.8で求めます。1万円なら8,000円です。Excelでは、A2に元の価格、B2に20%を入れて「=A2*(1-B2)」と入力すれば計算できます。

Q. 2割引きのあとにさらに1割引きすると何割引きですか? A. 3割引きではなく28%引きです。1万円×0.8×0.9=7,200円となり、元の価格から2,800円下がっているためです。値引きを重ねるときは、足し算ではなく「残りの割合」を掛け合わせて計算します。

Q. 値引き率と粗利率はどう関係しますか? A. 値引きは売価だけを下げて原価は変わらないため、値引き額がそのまま粗利から引かれます。値引き後の粗利率は(粗利率−値引き率)÷(1−値引き率)で求められます。粗利率30%の商品を1割引きすると約22%になり、1個あたりの粗利額は3分の1が減る計算です。

Q. 値引きした分は、どれくらい多く売れば取り戻せますか? A. 必要な数量の伸びは、値引き率÷(粗利率−値引き率)で計算します。粗利率30%で1割引きなら50%増、つまり1.5倍の販売数量が必要です。粗利率が値引き率以下の場合は、いくら売っても元の粗利には戻りません。

Q. セールで通常価格と並べて表示しても問題ありませんか? A. 比べる通常価格が、最近相当期間にわたって実際に販売していた価格であれば、不当表示に該当するおそれはありません。実際に売っていない価格や、ごく短期間だけ付けた価格を通常価格とするのは危険です。景品表示法の不当表示にあたるおそれがあります。詳しくは消費者庁の価格表示ガイドラインで確認できます。

編集部コメント

値引きには、計算そのものより「誰が、何を根拠に決めているか」に会社の姿勢が表れます。私たちはそう考えています。

経営者の方々と対話を重ねてきて、印象に残っていることがあります。値引きを求められても動じない経営者は、自社の商品が何に支えられているかを、自分の言葉で説明できる方でした。価格の根拠を言葉にできるから、値引きの代わりに渡せる価値も見つけられるのです。

値引きを減らすことは、お客様とのご縁を断つことではありません。価格の理由をきちんと伝えることが、長く続く取引につながります。まずは主力商品の値引き下限を一覧にするところから、始めてみてください。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、経営者の方々への取材を重ねている。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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